デジタル遺言制度を創設する方向へ
一部報道によりますと、政府は法的効力がある遺言書をインターネット上で作成・保管できる制度(デジタル遺言制度)の創設を調整しています。
法務省が年内に有識者らで構成する研究会を立ち上げ、2024年3月を目標に新制度の方向性を提言する予定としています。
新制度では、自筆遺言をパソコンやスマートフォンで作成しクラウドに保管する案があります。
デジタル遺言は作成しやすい
現在の自筆遺言は本人がペンを使って本文や作成日を書いて署名・押印しなければ法的効力を持ちません。
法務局に預けて亡くなった後で受け取りを請求する制度は用紙の大きさや余白やページ番号のふり方まで細かい規定があります。
また不動産や現預金など相続する財産を一覧化した財産目録も作成しなければならず、高齢者が自筆遺言を作るのは簡単でなく、弁護士らの助けが必要になるケースが多いのが現状です。
ネット上での作成が可能になれば、フォーマットに沿って入力する形になるため遺言制度に詳しくない人でも遺言書がつくりやすくなります。
紙の遺言書と違って紛失リスクがなく、ブロックチェーン(分散型台帳)技術を使えば改ざんもされにくく、専門家からは「デジタル化で遺言作成の利便性が高まれば利用者の裾野が広がる」との見方があります。
遺言書作成支援サービスへの期待
足もとでは、スマートフォンでデジタル遺言を作成できるアプリが開発されるなど、AIを活用した遺言書作成支援サービスを提供する企業が散見されています。
NEC(6701)では、「国民のwell-beingを実現する相続へ」というタイトルのコラムのなかで、AI支援による遺言作成の将来イメージとして、「資産の状況」「相続人の設定」「個人資産の承継」などの機能を組み入れたAI活用電子遺言サービスに関して記載しています。
あくまで近未来のサービスのイメージであり、まだサービス化されていませんが、法制度の整備などデジタル遺言制度の実現に進展がみられれば、本格的に遺言サービスの提供開始に向けた取り組みへの期待が高まる可能性があります。
電子署名などで本人確認を代替
米国では紙以外の遺言制度の整備が進んでおり、法務省などの資料によると米国は2019年に電子遺言書法を定めました。
2人以上の承認の前で電子署名すればデジタルでの遺言書を認めており、これまでにネバダ州やフロリダ州が取り入れています。
国内では仕組みに関して、署名・押印に代わる本人確認手の手段として電子署名などで代替するとの見方がなされています。
新型コロナウイルスの感染拡大を背景にテレワークが進んだことで、電子署名や電子認証を導入する企業が増加しています。
今後、相続手続きの分野でもデジタル活用が普及していけば、電子印鑑などを提供するGMOグローバルサインホールディングス(3788)、クラウドサインの提供を行う弁護士ドットコム(6027)など電子認証関連銘柄が恩恵を受けやすいとみています。
デジタル遺言では遺族側の負担も軽減
デジタル遺言が実現すれば、遺言作成のしやすさに加え、行政手続きや民間手続きの多くが自動化されるなど遺族の負担が軽減することが想定されます。
改ざんリスクなどを懸念する見方もありますが、実現に向けた取り組みの進展に注目したいと考えています。