米財務長官が「FRBは利下げできた」と金融政策に苦言を呈したほか、トランプ大統領もFRBや米雇用統計に関連した当局を批判するなど、米国や同国資産・通貨に関する信認低下を招く事態となっています。「米利下げ提案」がなされるなかドルは重く推移しそうです。
米財務長官、FRBに利下げ提案
米現地12日、ベッセント米財務長官は「正確なデータがあればFRB(米連邦準備理事会)は6月に利下げできた可能性」「FRBは9月に0.50%の利下げを検討するべき」と発言しました。「米利下げ提案」ともいえる発言とともに、FRBについて「根本的な問題がある」と批判も述べていました。
自立した立場で専従事項として金融政策を判断・運営していくべきFRBへ向けたこれらの発言は、尊重されるべき独立性を脅かすものといえます。ドル円は12日NY序盤に発表となった注目指標・注目の7月米消費者物価指数(CPI)が前年比で予想を下回ったこともあってドル売りが進んだことからの下振れが一巡していましたが(図表参照)、ベッセント発言は今後の戻りを鈍くする要因となりそうです。
トランプ大統領もFRBら当局を批判、ドル信認低下につながる
ベッセント財務長官に加えて、トランプ大統領からもFRBを批判する声が聞かれました。SNSで「パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長は今すぐ金利を引き下げなければならない」としたほか、「FRB本部改修をめぐりパウエルFRB議長の提訴容認を検討」と投稿するなど、パウエルいじめのような発言もありました。
トランプ大統領はFRBだけでなく、1日発表の7月米雇用統計の数字が悪い結果だったことを受け、政治的な操作があったと批判して、エリカ・マッケンターファー労働統計局長を解任しています。金融政策当局や経済指標発表元への政策面・人事面での介入は、米国や米国資産・通貨に対する金融マーケットの信認を揺るがす材料となります。
米労働省労働統計局の次期局長に指名されたEJアントニー氏が、「月次の雇用統計の公表停止を提案した」との報道もドル売りを促しました。これに対しはレビット・ホワイトハウス報道官が現状の形式での雇用統計発表継続の意向を示しており回避できそうともいえますが、米金融政策・経済指標を取り巻く環境に関するこれらの混乱は、同国の通貨・ドルを買いにくくする材料となるでしょう。
ベッセント財務長官やトランプ大統領が意図する早期の大きめな「米利下げ提案」もあって、マーケットが金利引き下げを織り込みやすい状況になっています。シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)グループがFF金利先物の動向に基づき算出する「フェドウオッチ」で、9月米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%の利下げ確率は90%以上の水準で高止まりしたままです。
総合的には、年内3回の利下げが見込まれる状態となっています。ドルは「米利下げ提案」を反映し、重く推移しやすいでしょう。