資産運用特区という言葉がマスメディアに登場しています。特区といえば特定の地域限定で規制緩和を進め、新たな産業や取り組みの土台をつくる動きとして認識されていますが、資産運用は少しずつ日本に浸透してきており、特区における取り組みには違和感を感じます。
なぜこのタイミングなのでしょうか。現時点で見えている資産運用特区の取り組みと可能性、リスクについて分析します。
資産運用特区は新NISAと両輪の取り組み
資産運用特区は岸田首相が看板政策「新しい資本主義」において目指している成長と分配の好循環を実現化するための取り組みです。国民の資産所得を増やして消費や投資を拡大し、企業が成長する青写真を描いています。
2023年現在の取り組みと別記しないと1970年あたりの高度経済成長下の取り組みかとも誤解をしてしまいそうですが、なぜこのタイミングなのでしょうか。背景には、国がどれだけ「貯蓄から投資へ」と言っても、いまいち浸透しない状況があります。端的に示すのが日本家計の総資産における現金・預金の割合です。
新NISAと1100兆円の現金資産
2024年から新NISAが始まります。個人1人の年間投資額はそれまでの120万円(一般NISA)から360万円(成長投資枠とつみたて投資枠の合算額)に広がり、投資の活発化が期待されます。その一方で日本の家計の金融資産は約2100兆円で、うち現金・預金が過半数以上の約1100兆円に上ります。
金融機関の預入金利の低下、将来的な公的年金の不安がどれだけ叫ばれても、またはインフレ対策による運用の大切さをどれだけ発信しても、日本人は元来の現金・預金志向であることは明らかです。新NISAによる家計側の改革と同時に、今回は海外勢の参入促進策のほか、国内の資産運用会社の運用力、ガバナンス(企業統治)の改善策を盛り込んだ政策プランの準備が勧められているといわれています。
日本における投資の重要性は少しずつ変わってきたという印象を持つ一方で、投資を一緒くたにしてハイリスクと定義する声には一体の勢力があって、山はなかなか動かないような印象を持ちます。低金利くらいでは、彼らはリスクヘッジが必要と考えることはありません。NISAでインデックスを選んで、思わぬカントリーリスクで損失が生まれることが余程のリスクです。
資産運用特区では何ができるのか
では資産運用特区では具体的に何ができるのか。具体的な方策が発表されていない以上、漏れ伝わる情報を分析するしかありませんが、自治体の反応からそれを垣間見ることができます。
2023年9月26日、資産運用特区の候補地のひとつと見られている北海道の札幌市の秋元市長は、資産運用特区の具体的活用としてGX(グリーントランスフォーメーション)産業のサプライチェーン構築と、GX投資を支える金融機能の強化・集積を加速」と市議会で発言しました。
GXとはいわゆる脱炭素の概念です。脱炭素と経済発展を両立することによって、経済発展と両立しながらサステナビリティの実現を目指していきます。サステナビリティは時として、経済発展とトレードオフとなりかねないものです。それでは大多数を説得することはできません。
筆者の個人的な感想としては10年ほど前から繰り返し唱えられるSDGSやDXと何がどう違うのか理解しきれない部分もありますが、これから世界規模で産業の革新を進めていくにあたり、軽視してはいけない概念ということはもちろん理解しています。
また、ある報道によると資産運用特区内では日本円ではなく、ドルで経済活動が推進されるとの報道もあります。法人活動と非課税措置が関係する、法人版のNISAのような位置づけになるのかどうか、続編を待ちたいところです。なおGXとの連携は札幌の話であり、ほかの特区候補はオリジナルの戦略を磨いていると予想されます。
GX取組企業の「ええ格好しい」に終わらないために
いずれにしても今後1-2年にわたり、資産運用特区という言葉がバズワードになり、SDGSのようなバッジが登場して関係者がアピールをする(マウントを取る、とは書いていません)段階が到来し、そこからどのような発展していくかでしょう。
総じてこのような動きはサステナビリティを意識する国際的な企業のええ格好しい、に終わる傾向があるので、注目していきたいところです。そういう意味では既に生活に定着しているNISAとどのように絡ませていくのか、具体策が求められています。取り組むのは必ずしも国ではなく、経済界や我々一般の動きが大切なのかもしれません。
2023年9月時点の日経平均株価は32000円台と、株高が維持されています。資産運用特区は株価の維持を目的とした、諸外国に向けたメッセージと読み取ることもできるでしょう。これから発表される具体策に注目したいところです。