【米国株インサイト】電気自動車セクター(後編):フレイル・バッテリー、注目の半固体電池を量産へ

電気自動車(EV)のサプライチェーンの主軸にはテスラ(TSLA)が鎮座しているようです。今回はテスラをご紹介した前編に続き、サプライチェーンの一角を占める部品メーカーやテスラのライバル候補をご紹介します。


フレイル・バッテリー、ノルウェー発の新興企業

フレイル・バッテリー(FREY)はノルウェー発の新興企業です。2021年7月に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてニューヨーク証券取引所に上場しましたが、2023年4-6月期に至っても売上高はゼロ。ただ、半固体のリチウムイオン電池の量産化計画で大きな注目を集めています。


マサチューセッツ工科大学のイェットミン・チャン教授率いる24Mテクノロジーという会社が持つ半固体電池技術のライセンス供与を受け、量産に乗り出す計画です。従来の製造工程を少なくするほか、素材の使用量なども減らし、コストを圧縮することも可能なようです。



フレイル・バッテリーはノルウェーで大型工場の建設に着手しており、米国ではジョージア州に工場を建設する計画を発表しています。さらにフィンランドにも工場を建設する方向で検討を進めているようです。


2025年までに北欧と米国の工場で50ギガワット時(GWh)の生産能力を持つ水準にまで拡大を図る計画です。2028年までに100 GWh、2030年までに200 GWhに生産能力を引き上げる方針を明らかにしています。



次世代の車載電池開発を巡る攻防は激しく、テスラが新たな技術でバッテリーを内製化する意向を示していますが、開発には難航も予想されています。テスラが次世代電池を生産すればフレイル・バッテリーはライバルということになりますが、市場では開発に難航するテスラがフレイルから車載電池を調達することになるとの観測も浮上しているようです。


ボルグワーナー、EV製品シフトを加速

ボルグワーナー(BWA)は1928年創業の自動車部品メーカーです。世界中の主要な自動車メーカーに部品やシステムを供給しています。


2022年12月期の売上高は158億100万ドルで、セグメント別では全体の45%を占めるエアマネジメント部門が最大です。パワーを高めるターボチャージャーをはじめ、排ガスシステム、熱管理システム、バッテリーヒーターなどの製品や技術を提供します。


動力伝達装置などの推進・ドライブトレイン部門の売上比率が34%です。リチウムイオン電池モジュールなどのバッテリー製品をはじめ、自動変速システムや駆動力システムの部品などで構成されています。


燃料システム部門はガソリンや軽油の燃料噴射部品・システムなどを開発し、売上比率は13%。アフターマーケット部門は自動車修理や部品・カー用品販売などに向けた製品を生産しており、売上高に占める割合は8%です。


ボルグワーナーは企業理念として「クリーンでエネルギー効率の良い世界」の実現を掲げており、EVを含む新エネルギー車用の製品の開発や生産を強化しています。同社は2023年12月期について、EV向け製品の売上高が15億-18億ドルに達し、前年実績の8億7000万ドルから大幅に増加するとの見通しを示しています。


2021年に発表したEVシフト戦略では、売上高に占める純EV向け製品の割合を2025年までに25%、2030年までに45%に引き上げる計画です。こうした戦略を念頭にM&A(合併・買収)と再編を矢継ぎ早に実行に移しています。



まず2020年にはゼネラル・モーターズ(GM)系の自動車部品メーカーの流れをくむアプティブ(APTV)から分離したデルファイ・テクノロジーズを買収。2021-22年にはEV関連の技術や製造機能を持つ5社の事業や株式を買い取っています。


そして2023年7月には自社の燃料システム部門とアフターマーケット部門を切り離し、フィニア(PHIN)としてニューヨーク市場に分離上場させています。ボルグワーナーは分離の理由としてEV製品事業に集中することを挙げ、フィニアについては水素などの代替エネルギーの分野で成長を追い求めることができると説明しています。


ルーシッド・グループ、CEOはモデルSの開発責任者?

ルーシッド・グループ(LCID)は2021年7月に特別買収目的会社(SPAC)との合併を通じてナスダック市場に上場しました。上場時にEVの販売実績はゼロでしたが、テスラのライバルになり得るとの期待があり、高く評価されていました。


2021年9月にEVの高級セダン「ルーシッド・エア」の量産が始まるとさらに注目を集めました。2021年11月には時価総額が1400億ドルに到達し、その時点では独フォルクスワーゲンを超えています。


テスラは、2008年に2人乗りの「ロードスター」を発売して人気を集め、2012年に発売したセダンタイプの「モデルS」で本格的な自動車メーカーとしての礎を築いたといわれています。そのモデルSのチーフエンジニアとして開発の陣頭指揮をとったとされるのが英国出身のピーター・ローリンソン氏。現在のルーシッド・グループのCEOです。


ローリンソン氏とテスラのイーロン・マスク氏には確執があるようで、マスク氏はしばしば「ローリンソン氏はモデルSのチーフエンジニアではなかった」と主張し、ローリンソン氏は「自分がチーフエンジニア」だったと反論しています。マスク氏とすれば、ライバル候補のCEOがモデルSの開発責任者だったというのは受け入れがたいのでしょう。


ローリンソン氏はモデルS が発売された2012年にテスラを辞めており、辞任理由として「私を不当に扱うボスがいた」と語るなど、マスク氏と確執があった点を認めていますが、詳細については口を閉ざしています。テスラの発展に貢献したローリンソン氏がルーシッドに加わってテスラに弓を引くという構図も世間の関心を集めやすく、相手がマスク氏だけにマスコミにとっても格好のネタになったようです。



ルーシッド・グループはEVの高級セダン「ルーシッド・エア」を販売しています。同社のウェブページによると、ハイエンドモデルの「エア・サファイア」の価格は24万9000ドル、日本円で3700万円を超える超高級車です。


次のグレードの「エア・グランドツーリング」は最低価格が13万8000ドルで、2000万円を超えています。最長航続距離は516マイル(約826キロメートル)と長く、最高出力が1050hpに上ります。


「エア・ピュア」は最高出力が480hp、航続距離が410マイルと性能面では上位モデルに劣りますが、最低価格が8万7400ドルと初めて10万ドルを下回るモデルです。ただ、日本円で約1500万円に達しており、ローエンドにしてもなお高級車です。


ルーシッド・グループの新車販売は2023年1-3月期が1406台、4-6月期が1404台です。生産能力は高まってきましたが、販売が伸び悩んでいます。2024年には高級SUVの「ルーシッド・グラビティ」を発売し、販売台数を伸ばす意向です。






中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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