「ZOOMのURLをFAXで」と私たちはどうやって協業しろというのか

いま日本は人口減や産業構造の転換を受け、多くの場面でパラダイムシフトが発生しています。主な源泉となるのは金融機関からの事業融資です。


ところが日本国内の一部の金融機関では、いまだ最前線の行員がメールアドレスの所有を認められていません。時に面談もWEBで行われる時代です。「あの斬新なビジネスはDXの時代、金融業界にとっても価値がある」という会話を、金融機関と顧客はFAXでURLを共有したZOOMで行っています。これは果たして、チャップリンの喜劇でしょうか。

金融機関が行員にメールアドレスの所有を認めない理由

金融機関が自行の行員にメールアドレスの所有を認めない理由は、個人情報の流出と受送信のエラーを防ぐというのが理由です。いっけん説得力がありますが、受送信で部内の内容チェックや添付ファイルのチェックをすればいい話です。それをしないということは、そもそも新技術の導入に抵抗があり、可能な限り現状の状態を維持したいというものです。


ただ、2020年初頭から世の中は大きく動いています。あれほど日本に浸透しなかったリモートワークは当たり前のものとなり(コロナ禍が明けてオフィス業務に回帰気味ですが)、ZOOMをはじめとしたオンライン面談も当たり前のものになってきました。


筆者も現在、数多くの連載を頂戴していますが、そのうち半分以上のクライアントは実際に顔を合わせたことがありません。実際に顔を合わせるのは会食などの食事会か、何か顔を合わせる明確な理由が必要な場合に限られてきた印象があります。


金融機関側がメールアドレスを有していないと、顧客側はわざわざ資料を印刷してFAXのある場所へ行き(いまFAXの無い会社も多いです)送信します。ペーパーレスの動きとも逆境する動きです。喜劇と称したのは、FAXで最新の技術や世の中の趨勢がやり取りされ、融資が決まっているという事実です。


10年先の融資をするならせめて視座の一致を

融資(デットファイナンス)は事業の将来性を見た出資(エクイティファイナンス)と比較されます。事業の可能性を細部まで解きほどいて出資の決定をする後者に対し、前者は返済能力のチェックが主たる審査事項です。お金を返せなければ、貸し付けた金融機関にとっても損害になります。


2010年あたりから日本ではスタートアップという言葉が流行りました。外部から投資を受けて次世代の産業を作りにいくという、とても熱量の高い潮流でした。あれから10年余り、まだ斬新な取り組みが続いている一方、そこでチャレンジした勇敢な創業者には外部出資や融資を返済できず、整理や自己破産の道を選んだ人も増えてきています。次世代の産業づくりは9割が失敗することが前提です。


筆者からの見え方と断っておきますが、その方が次の挑戦をしようとすると「彼は以前失敗したから」「投資した人は(失敗を)覚えている」という声も聞こえています。子どもを含め人口減少と産業の先萎みが懸念されるこの国で、最も尊重すべきはこの挑戦と、挑戦によって得ることができたノウハウではないでしょうか。日本人は古来から持つ「失敗したらハラキリを」の思想が抜けないようです。


金融機関は日本の産業界に手堅い稼働基盤を有していることもあり、スタートアップにおいては協業の案がいくつも持ち込まれました。そのなかには現状の事業活動から見て5歩先のものもあれば、宇宙に飛び立つような現実味の少ないものもありました。ひとつの波が過ぎた後、金融機関は相変わらず何も変わらず、電話とFAXを使い続けているところが多いです。次の産業を生み出すのなら、せめて視座を上げて融資判断をすることを前提にしていただきたいと思います。それが10年先の世の中をつくることに繋がります。

金融当局による底上げを希望する

話をとびきり大きくすると、これは金融当局による底上げが必要ではないでしょうか。新型コロナ禍でとった融資枠の拡大や保証制度の導入と同じように、全金融機関にメールアドレスの導入を、と大号令をかけます。金融機関の自主性に任せていては、いつまでもZOOMのURLをFAXでやり取りする文化が変わらないためです。変わってくださいではなく、変わらなければダメです、にしないと、保守的な文化はなかなか変わりません。


少し話は異なりますが、会社に融資した場合、以前は社長(会社経営者)個人にも連帯保証を付けることが一般的でした。廃業時や倒産時に社長個人も連帯破産することが増えて社会問題となっているため、いま個人の連帯債務を外す動きが進んでいます。


メールアドレスの導入も同じ発想です。どこかがリードを取り、底上げをすることであらためてチャレンジの土台を作り直す。昭和の後期かと誤認するメールアドレスの導入はとても滑稽ですが、まずはそこから始めることで、10年先の利益が生まれるのかもしれません。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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