2023年10月、経済の規模を示す名目GDPが日本のメディアを賑わせました。これまで日本は世界3位でしたが、ドイツに抜かれ4位に転落する見通しとなりました。過去日本はアメリカに次いで世界2位だった期間が長かったのですが、日本より人口の低いドイツに並ばれたことが、社会にさまざまな影響を与えています。
このGDPはドル建てのため、日本円に対してドルの価値が高まれば日本国内には不利な傾向は否定できません。日本のランキング転落は為替相場の影響がすべてなのでしょうか。
GDP転落の影響は著しい円安が原因か
国際通貨基金(IMF)の発表した世界経済見通しによると、2023年の名目GDPは日本が約4兆2300億ドルです。一方のドイツは約4兆4300億ドルと、わずか2000億ドルの差であることがわかります。この統計はドル建てで統計を作成するため、1ドル130円と1ドル150円では数字が大きく動きます。対ドイツの経済比較に見るユーロ円の推移を見ても、2022年からの1年間で1ユーロが10円から20円の円安に振れていることが読み取れます。
(2022年~2023年のユーロ円相場)
出所:Trading View
ドイツのインフレ率を巡る議論
GDPの差が縮まったのは、ドイツの急激な消費者物価も影響しています。2022年からドイツの消費者物価上昇率(インフレ上昇率)は8%から12%の急上昇を記録しています。
2022年2月に発生したロシアのウクライナ侵攻により、ドイツをはじめとしたヨーロッパ各国で重宝する天然ガスの価格が急上昇し、エネルギー価格の上昇をもたらすようになりました。ドイツの天然ガスのシェアは62%がロシア産が占めており、影響を垣間見ることができます。インフレが計測できるのはもちろん天然ガスだけではなく、ロシアから輸入していない品目にも多く見られ、ドイツの国民生活を圧迫しています。
インフレはドイツ国民としても歓迎すべき状況ではないため、日本がGDP転落を悲観的に受け止めていることと並び、ドイツもまたGDP増加による「負の面」に苦しんでいることがわかります。さらにインフレ上昇の主な原因が、ドイツが絡まない当事者同士の戦争ということもあります。
ロシア・ウクライナ間の戦況を見ても、まだしばらくは事態が進むような報道はされていません。加えて2023年10月になり、イスラエルとハマス(パレスチナ自治区)の関係性が著しく悪化しています。ドイツを含むヨーロッパ各国にとっても、時刻にどのような影響があるか、またウクライナ戦線にどのような影響を与えることにならないかは懸念事項といえるでしょう。移民を受け入れるドイツの混乱を報道した映像も、記憶に新しいところです。
GDP下落の1番の影響は日本国民の自信低下か
今回のGDPのニュースに対する専門家の見解、そして多数のコメントを見るに、世間の反応は大きく分かれていることが読み取れます。大別すると円安とドイツの物価高があるから(一時的に)4位になったため、事実以上に悲観する必要がないという肯定的な感想です。
その一方で総人口の少ないドイツに抜かれたことを国力の低下とし、悲観的に分析する考え方です。なかには2022年のサッカーワールドカップと2023年秋のリベンジマッチに連勝したことで、「サッカーでは勝ったがGDPでは負けた」というウィットに富んだ表現もありました。今回のGDPの影響は円安とドイツの物価高に依るものという意見は前項で見てきたため、否定論にも触れていきましょう。
日本とドイツの人口差は約4000万人
2022年時点の人口は日本の1億2510万人に対し、ドイツは8400万人です。ネガティブな意見のなかにはこの人口差と、先の大戦にて同じく敗戦国だった立ち位置による意見が目立ちます。邪推ですが、これがフランスやイギリスとのマッチレースだったら、また日本社会の反応も違うものになったのでしょうか。
振り返ると日本は明治時代に社会を作り替えるにあたり、プロイセンを参考にした大日本国憲法(明治憲法)など多くの面でドイツを参考にしてきました。また3位と4位で分析をしているうちに、5位から人口世界第一位のインドが追ってきていることもあります。
いずれにしろ、日本は世界で評価されるほど勤勉性のある国民性です。その一方でチャレンジ精神の乏しさや、失敗した人間の再起を阻むようなニュース、人口減や都市地方格差などを聞くと、重苦しい気持ちになることも多いのではないでしょうか。
今回のニュースが目立たなくなった日本の上昇志向を後押しに、生産性の強化や革新技術の導入に進むことを期待します。考え方によっては2023年の年末を目前に控えるタイミングで、お尻に火をつけるニュースが報じられた印象です。繰り返しになりますが、すぐそこにインドが迫ってきています。