保険業界を席巻したAmazonによるペット保険参入のニュースです。2023年11月1日、ECの世界的大手のAmazon社日本法人がペット保険「わんにゃん安心保険」の販売を開始しました。Amazonがついに保険業界に襲来かと大きな話題になっています。
Amazonがペット保険領域を選択した理由
Amazon社は日本の損害保険会社であるあいおいニッセイ同和損保と提携し、あいおいニッセイの子会社が保険会社、Amazon社を募集代理人とする形でペット保険を販売しました。
0歳から2歳の猫と犬(小型犬)の場合、治療費の50%を補償するプランで月額の保険料は猫が1,240円、犬が1,400円です。8歳11ヶ月まで加入可能のため、日本でいうならば高齢層まで加入できる保険といえるでしょう(犬の年齢に7をかけると人間の相応年齢といいます)。さて、Amazon社が最初から生命保険や損害保険に進出せずに、ペット保険という一呼吸置く形になったのは、2つの理由があると考えられます。
ペット保険には公的保障がない
日本は国民皆保険です。現役世代では3割の自己負担で充実した医療が受けられます。猫や犬を家族の一因と考える家庭も増えてきていますが、猫や犬はこの公的保障の対象となりません。よって動物病院の医療費は、全額自己負担となります。
公的保障があると、民間の保険を不要と考える一定層がいます。先進医療など公的保障の対象外のものもありますが、1カ月の医療費に上限を定める高額療養費制度により、深刻な病気になった場合の医療費もカバーされているためです。
Amazonが保険会社に参入するのではという噂は何年も前からありました。導入として公的保障というハードルがあり、かつ競合も多い生命保険よりも、市場として歴史が浅く、Amazon社の得意とするペット保険からスタートしたのではないかという仮説が成立します。もう1つの理由は、生命保険の免許制度です。
生命保険業の新設はハードルが高い
生命保険業に新規参入することは高いハードルがあります。保険業法では事業計画書や定款などを金融庁に提出し、担当者との折衝を経て内閣総理大臣からの認可を受けます。また、資本金が最低10億円必要です。
Amazon社の場合、資本金条件は問題にならないと思われますが、当局との折衝にはある程度の時間がかかるものと考えられます。加えてAmazon社のように外資系企業の場合、さまざまな意見があり、日本における実績が特に求められることは想像に難くありません。そこで実績づくりのためにペット保険に進出し、当局との折衝を進めているのではないでしょうか。
ペット保険や免許の必要ない少額短期(少短)保険を経て、数年以内には本丸である生命保険業が開始される公算が高いです。インターネット×保険といえばライフネット生命ですが、同社は創業者が国内生保で重要なポジションを務めた方です。Amazon社も日本の保険業界に精通した方を参画させていることは想像がつきますが、交渉の推移が気になります。
Amazon社による生命保険はライフネット生命以来のインパクトに
生命保険は直販と保険代理店により提供されています。つまり、どのプレイヤーも提供する商品は同じものです。提供価値は保険の機能に加え、ライフプランや家計の課題、リスク対処などを付加しているものです。そう考えるとインターネットによる保険の販売はとても理に適っています。
インターネット専業の保険会社として2008年に保険の提供を開始したライフネット生命が当時大きな話題になりましたが、Amazon社による保険はライフネット以上のインパクトになることは間違いありません。
Amazon社の保険はライフプランの提供をせずに、Amazonの利用者に向けての展開やAmazonギフトカードなどの活用などが想定されます。きわめて商売上手なイメージであるため、我々があっと驚く戦略が組まれていく可能性も高いでしょう。
ライフネット生命は創業当時、インターネットで保険を購入するという斬新さに注目が集まる一方、知名度の広がりに難儀したという創業者のインタビューを読んだことがあります。その点、Amazon社は日本における企業の知名度は5本の指に入るかもしれません。世代によっては社会インフラとして定着しています。
病気やケガを保障する医療保険を必要とするも、保険の検討には時間も労力もかけず、自宅や職場へ募集人と面談をすることに強い抵抗感を示す層は、Amazon社の保険のメインターゲットになるでしょう。既存のインターネット保険ビジネスはもちろん、20代や30代の女性を対象に事業を展開している保険代理店もまた、Amazon社の襲来に身構えていることでしょう。