米国は世界有数の農業大国です。カロリーベースの食料自給率は優に100%を超え、輸出額も世界の上位にランクされています。広大な国土と農業に適した気候が農業大国の地位を支えているようです。生産量の割に農業従事者の数は多くないのですが、そこは機械化を通じた大規模生産でカバーしています。
特に穀物類と食肉の生産に強みを持っています。穀物類ではトウモロコシの生産量が世界一で、大豆が2位、小麦も世界有数です。トウモロコシや大豆は飼料にもなり、鶏肉の生産量も世界最大級。そしてUSビーフで知られるように牛肉の生産量も世界最大です。
農業大国だけに農業を巡る国際情勢とは無縁でいられません。特に2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことを機に食料安全保障への関心が高まり、各国とも重要視する姿勢を打ち出しています。
ロシアとウクライナはそれぞれ小麦の生産量で世界有数で、ウクライナの穀倉地帯は「欧州のパンかご」と呼ばれています。ただ、黒海経由でウクライナ産の穀物を輸出する国際協定からロシアが離脱したことで、安全な輸送が難しくなるなど食料安保を巡る問題が顕在化しました。
さらに米中対立も食料安全保障に影を落としています。中国が穀物調達の多様化を進め、国内生産の増強に乗り出すなど米国依存を軽減する体制の構築を図っています。産業としての農業は揺れ動く国際情勢の影響を受けますが、世界の人口が増える中、米国の農業は成長を続けています。
米国では5年に1度、農業を対象とする国勢調査を行っており、現在公表されている最新調査は2017年版とやや古いのですが、農業人口は5年前の2012年に比べて着実に増えています。農業生産者の人口は6.9%増の339万9800人です。
年齢別では35-64歳の生産者が2.3%減の196万400人に縮小する半面、65歳以上が26.0%増の115万4000人に増加しました。平均年齢は2012年の56.3歳から57.5歳に上昇し、米国の農業でも高齢化が進んでいる印象ですが、35歳以下の生産者が10.9%増の28万5400人達するなど若い層も拡大しています。
米国では国内総生産(GDP)に占める第1次産業の比率は1%程度ですが、すそ野の広い産業構造を持ちます。今回は農機や農薬、肥料などを含め農業関連の銘柄をご紹介します。
ディア・アンド・カンパニー、農機のサブスクモデルを検討
ディア・アンド・カンパニー(DE)は世界最大の農業機械メーカーです。創業は1837年で、180年超の歴史を持ちます。農機を中心に、油圧ショベルなどの建設機械、林業機械、芝刈り機などの開発と生産も手掛けています。
2022年10月末時点で米国とカナダに合わせて24工場を展開し、ブラジルや中国、インド、フランス、ドイツなどでも工場を運営しています。創業者の名前を冠した「John Deere」をはじめ、分野ごとに多様なブランドを持ちます。
事業別ではトラクター、コンバイン、収穫機、種まき機などを開発・生産する農機専門部門が主力です。2023年5-7月期決算の売上高の約42%、営業利益の51%を占めています。
酪農家や高級農作物の生産者に向けた小型農機に加え、芝刈り機なども生産する小規模農業部門は2023年5-7月期決算の売上高の約24%、営業利益の21%を占めています。建設・林業機械部門は売上比率が24%、利益比率が20%。金融サービス部門は売上比率が8%で、利益比率も8%です。
ディア・アンド・カンパニーは先端技術の開発にも積極的で、衛星画像や土壌データに基づき農地の生産性を高めるソフトウエアを開発し、将来的にサブスクリプション(継続課金)型のビジネスモデルを取り入れる方向で検討を始めています。
さらに2028年までに自動運転システムを搭載した農機の年間売上高を500億ドル、2030年までにソフトウエアの提供サービスの年間売上高を250億ドルに引き上げる目標を掲げています。農機というハードウエアの権化ともいえる存在のスマート化を強力に推進する腹積もりのようです。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド、植物油脂に強み
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)は穀物メジャーの一角です。穀物メジャーは穀物の買い付けから集荷、輸送、保管を手掛ける専門の大手商社で、穀物生産地に張り巡らせた集荷網をはじめ、サプライチェーンの要所を抑えている点が強みといわれています。
アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドは主要穀物の調達、商品化、輸送、貯蔵を手掛け、国内外に供給しています。穀物や油糧種子の調達、商品化、輸送、貯蔵などを中心とする農業サービス&植物油脂部門、トウモロコシや小麦を粉砕加工する炭水化物ソリューション部門、植物由来のタンパク質や食品添加物などの調達、加工、販売を手掛ける栄養素部門が主力3事業です。
主要穀物や油糧種子の調達、商品化、輸送、貯蔵などを中心とする農業サービス&植物油脂部門は2023年7-9月期の売上高の約81%、営業利益の60%を占める中核事業です。同社は特に植物油脂事業に強みを持っており、大豆、綿の実、ひまわりの種、菜種、亜麻の種などの破砕、圧搾、抽出、精製を手掛けています。
この事業では油糧種子から植物油と搾りかすのミールを生産します。植物油はサラダオイルなどの食用のほか、バイオディーゼルの原料としても利用されます。一方、ミールはタンパク質などを豊富に含むため飼料の栄養素として重宝され、主に酪農事業者などに供給されます。
米国で調達できる油糧種子は前述のように大豆や菜種が中心となりますが、アーチャー・ダニエルズ・ミッドランドはシンガポール市場に上場するウィルマー・インターナショナルの株式22.5%の保有を通じ、パーム油事業にも参入しています。ウィルマーはインドネシアのスマトラ島などで大規模なアブラヤシ農園を運営し、パーム油を生産しているのです。
炭水化物ソリューション部門は2023年7-9月期の売上高の約16%、営業利益の32%を占めています。トウモロコシや小麦を粉砕加工し、食品原料や飼料用に提供します。小麦粉やコーンスターチ、甘味料、シロップ、グルコースなどの原料として食品業界に提供するほか、エチルアルコールなども生産しています。
栄養素部門は2023年7-9月期の売上高の約9%、営業利益の10%を占めています。植物由来のタンパク質や天然香料、食物繊維、乳化剤などを生産し、販売します。食品や飲料、栄養サプリをはじめ、飼料やペットフードなどにも利用されます。