【米国株インサイト】ロボットセクター(後編): キャシー・ウッド氏、RPAのユーアイパスを選好

米国はロボット技術の分野でも世界の先頭ランナーです。ひとことで産業用ロボットと言っても多様ですが、前編では手術支援ロボットの世界最大手、インテュイティブ・サージカル(ISRG)をご紹介しました。


今回は、オートメーション化に不可欠なマシンビジョンシステムのコグネックス(CGNX)、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれる分野のソフトウエアを開発するユーアイパス(PATH)、半導体の自動検査装置のテラダイン(TER)、工場自動化のロックウェル・オートメーション(ROK)を取り上げます。



このうちユーアイパスは、「ハイテク株の女王」の異名を持つ著名投資家キャシー・ウッド氏が、エヌビディア(NVDA)に次ぐ人工知能(AI)関連の有望銘柄として選好しています。エヌビディアへの投資で大成功を収めたウッド氏の選好銘柄だけに注目度は高まっています。


コグネックス、マシンビジョン分野で着実に成長

コグネックスはマシンビジョンのハードウエアとソフトウエアのプロバイダーです。ハードウエアとソフトウエアを組み合わせたマシンビジョンシステムでは画像情報を収集・分析し、あらかじめ設定されていたタスクに基づき、機械類を動かします。


マシンビジョンは製造や物流の現場でのオートメーション化に不可欠なシステムです。高速かつ高精度という人間の目視では不可能な領域でも「機械の眼」が検知を可能にします。導入した企業は、人件費の削減や歩留まりの向上、品質の改善といったメリットを享受できるというわけです。


具体的にはビジョンセンサーや画像処理ソフトウエアなどを組み合わせて、システムを構築します。2次元はもちろん、立体的な形状をとらえる3次元のマシンビジョンツールも取り揃えています。また、物流業界では荷物の仕分けやピッキングにバーコードリーダーが不可欠で、コグネックスはこの分野でも強みを持っています。


コグネックスにとって自動車産業が最大の市場です。パーツの測定、組み立てロボットへの指示、レザーシートの縫製の検査などマシンビジョンシステムの活躍の場が広がっています。自動車業界では日産自動車やフォード・モーター(F)、独BMWなどへの納入実績があります。



コンシューマーエレクトロニクスもコグネックスのマシンビジョンが活用できる産業です。この領域でも世界的な大手が顧客で、ソニーグループや韓国のサムスン電子、フランスのシュナイダー・エレクトリックなどへの納入実績があります。


また、物流は過去5年にわたりコグネックスの成長を牽引役してきた産業です。特にネット通販の隆盛がバーコードリーダーシステムの需要を押し上げました。現状では米国を中心に事業を展開していますが、将来的には欧州とアジアで事業の拡大を図る方針です。


ユーアイパス、RPAソフトウエア開発の世界大手

ユーアイパスは、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)と呼ばれる分野のソフトウエアで世界最大のシェアを握っています。RPAは、パソコンで行う業務をロボットで自動化する技術のことです。ロボットと言っても人型の機械が出てくるわけでもロボットアームが動くわけでもありません。ユーアイパスは作業を自動化するソフトウエアを開発し、企業などに提供しているのです。


RPAではデータの入力やウェブサイトからの情報収集といった業務上の判断を伴わない定型作業をロボットにまかせます。人工知能(AI)が関与しているとの連想で、ユーアイパスへの注目度が高まることもあるようですが、判断を伴わない作業なので、初期段階のRPAではAIも不要です。


オフィスでの作業の自動化を巡り、これまでは大規模なシステムの変更などが必要でしたが、RPAでは自動化の設定が簡易で、導入のハードルが低くなったようです。働き方改革や新型コロナウイルスの感染拡大を背景としたテレワークなどを契機に日本でもデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が声高に語られるようになってずいぶん経ちました。RPAはDXの実現に向けた手段のひとつと言えます。



導入費用はかかるものの、人件費を抑えられるというメリットがありますし、自動化したほうが圧倒的に早く、効率的です。しかもRPAは作業するのがロボットだけに当然ながらヒューマンエラーはなく、ミス自体も人間の作業に比べれば少ないようです。


ユーアイパスにとって、日本は極めて重要な市場です。2024年1月期の年次報告書では、32カ国にプレゼンスを持つ中で主要な営業地域として本社のある米国、創業者の出身国であるルーマニア、そして日本を挙げ、特別視しています。


テラダイン、買収でロボット事業に参入

テラダインは半導体の自動検査装置(ATE)の世界的な大手です。SoC(システム・オン・チップ)デバイスの検査装置や関連のソフトウエアを中心に、DRAMやフラッシュメモリーなどの検査装置も開発しています。


ストレージ製品や防衛・航空関連製品、回路基板を対象とする検査装置とシステムに加え、ワイヤレス製品の検査システムの開発も手掛けています。2023年12月期決算の売上高に占める一連の検査装置・システム事業の割合は合わせて約86%に達しています。


1960年に創業し、60年を超える歴史を持つテラダインにとってロボット部門は比較的新しい分野です。2015年に産業用のロボットアームの開発・製造を手掛けるユニバーサル・ロボットを買収し、この分野に参入しました。ユニバーサル・ロボットのロボットアームは主に製造の現場で使われています。



テラダインは2018年にAMR(自律走行搬送ロボット)を開発するモバイル・インダストリアル・ロボッツ(MiR)、2019年に同業のオートガイド・モバイル・ロボッツを立て続けに買収。2022年に両社を統合しています。AMRは工場や物流センターで資材などを運搬する役割を果たし、顧客企業の効率化に貢献しているようです。


2023年12月期の売上高に占めるロボット部門の比率は14%にすぎませんが、着実に伸びています。2021年12月期の売上高は前年比34.4%増の3億7600万ドル、2022年12月期の売上高は7.2%増の4億300万ドルです。2023年12月期はやや失速し、2021年12月期の水準にまで後退し、税引き前損益で損失が続くなど黒字転換を果たせていませんが、検査装置とは異なる領域の事業として存在感を高めているようです。


ロックウェル・オートメーション、工場自動化を支援

ロックウェル・オートメーションは産業分野のオートメーション化に必要な機械・装置やソフトウエアを提供する企業です。前身の企業の創業は1903年で、120年を超える歴史を持ちます。


主に製造業のオートメーション化を支援しています。事業部門はインテリジェント・デバイス、ソフトウエア&コントロール、ライフサイクル・サービスという3つに分かれており、それぞれ異なるアプローチで顧客への支援を提供しています。


インテリジェント・デバイス部門は、製造工程の基盤となる装置やシステムの開発、生産に重点を置いています。工作機械や産業機器などの装置を動かすために必要なモーションコントロール関連製品をはじめ、電源制御装置、安全装置、モータ制御・回路保護装置などの開発を手掛けています。2023年9月期の売上比率は45%です。


ソフトウエア&コントロール部門は製造工程のオートメーション化に必要なハードウエアとソフトウエアを開発しています。顧客企業が求めるモーションコントロールやロボット制御、作業工程の安全確保などに対処できるシステムを提供します。生産のプランニング、から実行、管理、最適化を推進できる点が強みです。2023年9月期の売上比率は32%です。



ライフサイクル・サービス部門は、サイバーセキュリティーやデジタルトランスフォーメーション(DX)関連のコンサルティング、工場ネットワーク構築やクラウド導入などの接続サービス、従業員研修サービスなどで構成されています。2023年9月期の売上比率は23%です。


ロックウェル・オートメーションは2023年10月、AMR(自律走行搬送ロボット)を開発するカナダのクリアーパス・ロボティクスを買収し、AMR事業に参入しました。AMRを工場内のオートメーション化に活用するといった相乗効果が期待できそうです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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