【米国株インサイト】フィンテック(後編): インテュイット、金融関連ソフトウエアを開発

フィンテックとは金融(ファイナンス)と技術(テクノロジー)を組み合わせた造語で、日本銀行のホームページによると、米国では2000年代の前半から使われていたそうです。


消費者と事業者を結ぶデジタル決済プラットフォームを構築するというアイデアを掲げて1998年に登場したのがペイパル・ホールディングス(PYPL)の前身企業です。前編ではペイパル・ホールディングスとブロック(SQ)という決済ソリューションを提供する企業をご紹介しましたが、一言でフィンテックといってもさまざまなフィールドがあります。


今回はビジネス・金融関連のソフトウエアを開発するインテュイット(INTU)、金融サービス関連の技術ソリューションを提供するファイサーブ(FI)、仮想通貨取引所の運営を手掛けるコインベース・グローバル(COIN)を取り上げます。


インテュイット、8年連続で増収増益と着実に成長

インテュイットはビジネスや金融関連のソフトウエアを開発する企業です。日本での知名度はそれほど高くないのですが、米国株式市場の時価総額で50位前後とIBM(IBM)やアメリカン・エキスプレス(AXP)を上回っています。


セグメントは中小企業・自営業向けサービス事業、消費者向けサービス事業、クレジット・カルマ事業、そしてプロタックス事業の4つに分かれています。最大部門である中小企業・自営業向けサービス事業では会計ソフトの「クイックブックス」が主力製品です。


2023年7月期決算の売上高に占める中小企業・自営業向けサービス事業の割合は55.9%で、クラウドを通じて提供するオンラインサービスが売上高全体の40.1%、パッケージ製品の割合が15.9%です。2019年7月期まではパッケージ製品の売上比率が高かったのですが、2020年7月期に逆転しています。この事業は営業利益全体の56.2%を占めています。メールを使うマーケティングツールで、2021年に買収したメールチンプもこの事業に組み込んでいます。



消費者向けサービス事業は2023年7月期決算の売上高の28.8%、営業利益の33.6%を占めています。主力製品は確定申告ソフトの「ターボタックス」です。米国の確定申告の提出期限が4月半ばに設定されているため、季節要因が激しいという特徴があります。例えば確定申告に関係のない2022年8-10月期には消費者向けサービス事業の売上高がわずか1億5000万ドルでしたが、2023年2-4月期には約22倍の33億4100万ドルに膨らんでいます。


クレジット・カルマ事業は、米国で個人の信用力ともいえるクレジットスコアを消費者に無料で提供するサービスです。2020年に買収を通じて傘下に組み込みました。クレジットカードの申請や個人向けローンの紹介などで手数料を得るビジネスモデルです。2023年7月期決算の売上高の11.4%、営業利益の5.3%を占めています。


プロの財務担当者向けにサービスを提供するプロタックス事業は2023年7月期決算の売上比率が3.9%、営業利益比率が4.9%です。



インテュイットは企業合併・買収(M&A)などを交えながら着実に成長しています。通期決算の売上高は2017年7月期以来、2023年7月期まで8年連続で2桁増。純利益の伸びにはばらつきがありますが、それでも8年連続で増益を達成しています。


ファイサーブ、店舗向け決済処理事業が中核

ファイサーブは決済や金融サービス関連の技術ソリューションを提供しています。商店をはじめ銀行やクレジットユニオン(信用組合)といった金融機関、企業が主な顧客です。セグメントは店舗向け決済処理部門、フィンテック部門、決済&ネットワーク部門に分かれています。


店舗向け決済処理部門は2023年12月期決算の売上高の42.6%、営業利益の39.6%を占める主力事業です。商店がオンラインまたは対面で安全に支払いを受け取るための技術的なソリューションを提供します。


中小の商店向けでは販売時点情報管理システム(POS)を含む総合的な運営プラットフォーム「クローバー」が主力です。決済処理をはじめ、オンラインの注文処理や顧客管理などを一元的に担います。クローバーはクラウド上にあるソフトウエアを利用するSaaSで、ハードウエアも組み合わせます。大企業向けでは「カラット」という運営システムで、大規模処理を通じてコスト削減を実現します。


ファイサーブは企業統合・買収(M&A)にも積極的で、2021年には主にレストランのマーケティング・プラットフォームを運営するベントー・ボックスを買収。2022年にはクレジットカードの加盟店を開拓するマーチャント・ワンを買収し、店舗向け決済処理部門に組み込んでいます。


フィンテック部門は売上高の16.6%、営業利益の16.1%を占めています。金融機関向けに業務効率化を実現するソリューションを提供するのが主なビジネスです。顧客の預金口座管理をはじめ、デジタルバンキングやリスク管理など多様な金融機関の業務をサポートするツールを提供します。M&A では2022年にクラウドベースの銀行業務ソリューションを開発するフィンザクトを買収し、フィンテック部門に組み入れました。



決済&ネットワーク部門は売上高の35.1%、営業利益の44.3%を占めています。金融機関や事業会社、公共部門を対象にデジタル決済取引に必要な製品・サービスを提供しています。クレジットカードやデビットカードなどの決済処理に加え、不正防止ソリューションやデジタル決済ソフトウエアの開発も手掛けています。


M&A では2021年にデジタルエクスペリエンス・プラットフォーム(DXP)を開発するオンドットの株式を追加取得して傘下に置き、決済&ネットワーク部門に組み入れました。


コインベース・グローバル、仮想通貨取引所を運営

コインベース・グローバルはビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨(暗号資産)を取引するプラットフォームを運営しています。個人や金融機関などに利便性の高いサービスを提供しており、取引手数料や信用取引の金利などが主な収入源です。


個人向けではアプリを通じて取引や保管などが可能な総合的なプラットフォームを提供しています。非代替性トークン(NFT)や暗号資産などのデジタル資産を保有する電子財布「ウェブ3ウォレット」「コインベース・ウォレット」なども展開。利用者は100を超える国・地域にまたがりますが、米国が約40%、欧州が25%を占めています。



金融機関向けサービスの対象になるのは、資産管理会社、資産家、ヘッジファンド、銀行、決算プラットフォーム、上場企業、非上場企業などです。「コインベース・プライム」という総合プラットフォームを通じて取引、保管、投資、移管などが可能です。実際の取引は「コインベース・スポットマーケット」や「コインベース・デリバティブ・エクスチェンジ」で行います。


2023年12月期の実績では、月間取引ユーザー数(MTU)が700万と前年の830万から縮小しました。取引額は4680億ドルと前年の8300億ドルから急減しています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております