GWを目前にした休暇気分の個人投資家に、衝撃的なニュースが入ってきました。2024年4月25日、朝日新聞をはじめとした各メディアは「金融商品も社会保険料の算定対象に加える検討」という速報を流しました。まだ検討段階ですが、とてもインパクトのあるニュースです。現時点で「見えていること」を中心に、個人投資家にとってどのような影響があるのかを解説します。
金融商品を社会保険料の算定所得に加える
社会保険料は国民健康保険(国保)や介護保険、かつ75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の源泉とされるものです。現在は給与所得が対象であり、株や債券などの利子や配当は「確定申告をした場合のみ」、対象とされる仕組みです。まずはこの部分を噛み砕いていきましょう。
金融所得における確定申告の有無
利子や配当などの金融所得は、確定申告をする場合のみ社会保険料の対象となっています。1つの証券会社の口座で特定口座として処理する場合は源泉徴収となり、保険料の算定対象になりません。一方、金融所得を特定口座扱いとせず、ほかの所得と合わせて確定申告で申告する方法があります。
つまり現行制度は、同じ金融所得を得た方でも、確定申告の有無によって社会保険料が異なるという事態が生じています。
4月25日に初会合を開いたのは、自民党の「医療・介護保険における金融所得の勘案に関するプロジェクトチーム(PT:座長・加藤勝信前厚生労働相)」です。昨年12月に閣議決定された「社会保険の改革工程」では、2028年までに源泉徴収からも保険料を反映する仕組みを構築し、適用するとの方針が示されています。
二重課税にはならない
負担増は反発が生まれやすいため誤解されますが、源泉分離も確定申告も「税金を確定する手続き」であるため、更に社会保険料を控除することは二重課税には当たりません。それよりも確定申告の有無によって、社会保険料の負担感に不公平感が発生しているため、是正すべきという世論になるという見方もあります。
NISAの利益から社会保険料を引くことになるか
NISAにて生じた利益には所得税や住民税が課されません。これはNISAの「大前提」です。だからこそ国が先導する「貯蓄から投資へ」の方針が説得性を増し、たくさんの利用者にメリットを感じさせたという背景もあります。
ここで「社会保険料は税金では無いので、NISAも対象となります」という方針になれば、大きな反発を招くことになるでしょう。二重課税ではなくても、NISAの有する特別感に反した制度改定であることは間違いありません。
ただ、NISA=株式投資をしている全員ではありません。たとえば特例などの措置でNISAを対象外とし、ほかの口座で株式や投資信託を進める人を保険料の対象としては、それこそ平等感に欠けたものとなります。
2028年までに可否の検討を進める
前提として、この話はプロジェクトチームの段階です。自民党としての議論も成熟しておらず、今後大きな変更点が生まれることも考えられます。政権与党の支持率や、国勢選挙のスケジュールなども影響されることでしょう。
やはり気になるのはNISAを巡る扱いです。通常の資産運用に比べ税負担が著しく低いことは、社会保険料のこの制度が導入されたあとも変わりません。ただ、多くの方は短期的な売買の色合いが強い個別株投資ではなく、10年20年といったライフプランに当てはめ、着実に資産を形成するインデックス型などの投資方法を選んでいます。
新制度がつみたてNISAから引き継がれる傾向です。今回のPTの動きを多少意地悪に解釈するならば、ライフプランにおけるNISA活用という理想的な流れに対し、後出しで負担を付け加えた形になります。
また、会社員が加入する被用者保険については、保険料を給与所得にもとづき算出し、労使折半で負担している仕組みを運用しています。そのため多くの会社員にとっては確定申告は不要であり、年末調整を以って確定した所得税と住民税を、給与からの天引きで支払っていく仕組みです。国保における源泉分離の保険料算出が、組合・協会けんぽの仕組みを巻き込むには、大きな難工事となることは既に見えています。
一方で高齢化社会が進むこの国で。社会保険料の原資獲得は大きな問題です。負担が増えるのは嫌だ!では解決しない社会情勢もまた、前提として考えたいものではあります。
既にメディアをはじめとして、投資家界隈で大きな話題となっているニュースです。今後の展開を注視していきましょう。
それにしても自民党の趨勢を決める大切な補欠選挙の数日前に、このニュースが出るとは偶然だったのでしょうか、それとも意識的だったのでしょうか。蛇足ながら、その部分も気になります。