【米国株インサイト】CRMソフトウエア(前編):顧客との関係構築を支援

「お客様は神様です」という風潮の強い日本では「カスハラ(カスタマーハラスメント)」の弊害が問題視されています。過度な顧客サービスが生産性の低下を招いているとの指摘も多く、カスハラ対策とともに見直しが進んでいるようです。


とはいえ顧客は企業活動の中心に位置する存在で、特に優良顧客との関係構築はマーケティングや営業活動にとっての基盤です。もちろん顧客対策は以前から重要視されていましたが、それを体系的に整理したCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)は1990年代に米国で確立されたマーケティングの手法で、今日では世界中に広がっています。


特にカスハラ対策に追われるBtoCビジネスの企業だけではなく、企業間取引を主軸とするBtoBビジネス事業者にとっても効率的なマーケティング活動や営業活動は業績に直結する最重要分野です。


営利目的のあらゆる企業にとって不可避な分野ということもあり、市場規模も大きいようです。ドイツの調査会社スタティスタによると、CRMソフトウエアの市場規模は2024年に約882億ドルに上り、2026年には1080億ドルと1000億ドルの大台に乗る見込みです。2024年から2028年までの年平均増加率は10.6%で、2028年には1319億ドルに達するとみられています。


CRMは情報技術(IT)の発達を背景に飛躍的に進化しました。最近ではクラウドや人工知能(AI)も加わり、進化が加速している印象です。今回は一段の成長が見込まれるCRMソフトウエアの開発企業をご紹介します。


セールスフォース、CRMソフトウエアの世界最大手

セールスフォース(CRM)はCRMソフトウエアの世界最大手です。米国の調査会社IDCによると、2023年の世界市場シェアは21.7%で、2位のマイクロソフト(MSFT)の5.9%を大きく引き離しています。


ニューヨーク証券取引所に上場しており、ティッカーシンボルは「CRM」。ダウ平均の採用銘柄でもあり、名実ともにCRMソフトウエアセクターを代表する企業です。



セールスフォースは「Customer 360」と呼ぶプラットフォームを提供しています。企業内の販売、サービス、マーケティング、情報技術(IT)などの各部門が横断的に顧客データにアクセスできるシステムで、顧客情報や体験を共有することで、各部署による迅速な対応や効果的なアプローチが容易になります。


「Customer 360」は設定が容易で、柔軟性が高いという特徴があります。ほかのプラットフォームとの統合も簡単で、第三者が開発した利便性の高いアプリケーションを追加することも可能です。


セールスフォースは世界中の企業にCRMソリューションを定額課金ベースで提供しています。提携先の第三者を通じて提供するケースもあり、こうした提携が世界的に高い市場シェアにつながっているようです。


プラットフォームの「Customer 360」はもちろん、セールスフォースが開発した個別のツールと連動するように設計されています。「セールス」はSFA(Sales Force Automation=営業支援ツール)と呼ばれる営業部門向けのツールです。顧客情報を一元的に管理し、営業活動の効率化を促します。


営業部門の視点で使い勝手を考慮しており、データの保存、営業活動プロセスのモニタリング、見込み客の管理、商談の管理、売上高予想といった機能を使うことも可能です。さらにAI技術の進展を受け、議事録の自動要約、電子メールの自動作成、アプローチ方法の推奨といった機能も備わっています。


「サービス」はカスタマーサービスを管理するツールです。顧客先での機器やシステムの設置といった現場への人員派遣を含め、顧客サポートの強化を目的に開発しています。ルーティン業務の自動化を通じて顧客の生産性向上を支援し、顧客満足度を高めることも可能です。



このほかにも企業のマーケティング活動の計画、自動化、最適化などを支援する「マーケティング」、ブランドやショップの顧客対応を手助けする「コマース」、膨大なデータを視覚化するTableau(タブロー)を含めて広範な分析ソリューションを提供する「アナリティクス」、MuleSoftを通じてシステムを連携する「インテグレーション」といったツールもあります。さらに「データクラウド」では企業内で未接続だったデータを統合し、組織内の各部署がデータにアクセスできるようにすることも可能です。


セールスフォースは「アインシュタイン」と名付けたAI群も積極的に活用しています。さまざまなツールに組み込み、AI予測や要約、自動生成などに役立てているのです。


ペガシステムズ、企業向けの業務ソフトウエアを開発

ペガシステムズ(PEGA)は企業向けの業務ソフトウエアの開発、ライセンス供与、サポートなどを手掛けています。ワークフローの自動化や人工知能(AI)を使った意思決定などを通じ、企業のデジタルトランスフォーメーションを推進します。


主力商品は「Pega Infinity(ペガ・インフィニティ)」と呼ぶプラットフォームです。CRM(顧客関係管理)を含む顧客エンゲージメント、ビジネスプロセスマネジメント(BPM)などを含むデジタルプロセスオートメーション(DPA)、ローコード・アプリケーション開発プラットフォーム、ロボティクス・プロセス・オートメーション(RPA)、ビジネスルール管理システム(BRMS)などのソフトウエアを組み込んでいます。


CRMを含む顧客エンゲージメントでは「ペガ・カスタマー・ディシジョン・ハブ」というソフトウエアを開発し、提供しています。顧客価値の最大化と顧客サービスコストの抑制を目指す機能を持ち、顧客アプローチの方法などをAI主導で検討します。


顧客サービスを簡素化するアプリケーションが「ペガ・カスタマー・サービス」です。顧客ニーズの想定した上で、顧客対応の人員やシステムを適切に配置し、顧客満足度と生産性の双方の向上を目指します。



インテリジェント・オートメーションでは、「ペガRPA」などのソフトウエアを利用し、ワークフローの自動化を図ります。


ペガシステムズはフォーブス誌の「フォーブス・グローバル2000」にリストされるような国内外の大手企業を顧客に抱えます。このため競争も熾烈で、競合先としてIBM(IBM)、マイクロソフト(MSFT)、オラクル(ORCL)、セールスフォース(CRM)、サービスナウ(NOW)などの大手を挙げています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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