【米国株インサイト】CRMソフトウエア(後編):ハブスポット、135カ国の顧客に提供

顧客との関係構築はマーケティングや営業活動にとっての基盤です。もちろん顧客対策は以前から重要視されていましたが、それを体系的に整理したCRM(Customer Relationship Management=顧客関係管理)は1990年代に米国で確立されたマーケティングの手法で、今日では世界中に広がっています。


そして、CRMは情報技術(IT)の発達を背景に飛躍的に進化しました。最近ではクラウドや人工知能(AI)も加わり、進化が加速している印象です。こうした中、前編ではセールスフォース(CRM)とペガシステムズ(PEGA)を取り上げました。後編ではヴィーバ・システムズ(VEEV)、ハブスポット(HUBS)、ズームインフォ・テクノロジーズ(ZI)の3銘柄をご紹介します。


ヴィーバ・システムズ、生命科学産業にソリューション提供

ヴィーバ・システムズ(VEEV)はライフサイエンス(生命科学)産業向けのクラウドソリューション事業を展開しています。研究開発から商用化までの過程でライフサイエンス事業者が必要とするクラウドベースのソフトウエアやデータ、コンサルティングサービスなどを提供します。この中にはCRMソリューションも含まれています。


サービスの対象になるのは医薬品、バイオテクノロジー、医療機器、診断などのフィールドで事業を手掛ける企業です。ヴィーバ・システムズのサービスは研究開発向けと営業活動向けに大別されます。



研究開発向けでは「デベロップメント・クラウド」を軸に収益を上げています。この枠組みの中に「ヴィーバ・ボールト」というプラットフォームを展開し、臨床試験、法規面の情報管理、医薬品の安全性管理、品質管理などを支援するアプリケーションを開発しています。


特に臨床試験では「ヴィーバ・ボールト・クリニカル」というソリューションで、患者、研究機関、医薬品開発業務受託機関(CRO)、試験の主体などの間でデータの流れを円滑にするほか、手順などの適切な管理を容易にします。また、臨床試験データの管理などを簡素化する仕組みも提供します。


消費者製品や化学製品の業界向けには、品質管理や文書管理などのアプリケーションである「クオリティーワン」に加え、法規上の提出物を管理するアプリケーション「レギュラトリーワン」などを開発しています。



営業活動向けの「コマーシャル・クラウド」は、生命科学産業の企業が自社製品をより効率的かつ効果的に商用化するためのソフトウエアやデータソリューションを提供します。CRMに使うソフトウエアをはじめ、販促のためのマーケティングツールや顧客照会データなどが組み込まれています。


ヴィーバ・システムズは現在、自社のCRMアプリケーションをセールスフォースのプラットフォーム上で運用しています。ただ、2025年に期限切れを迎える契約を延長しない意向も明示しており、自社開発のプラットフォームに移行する方針です。


ヴィーバ・システムズ以外にもセールスフォースのCRMプラットフォームを使っている事業者がいるため、今回の動きを契機に「セールスフォース離れ」が進めば、利用料の徴収額が減るセールスフォースにとって痛手になると見込まれています。



ハブスポット、135カ国の顧客にCRMプラットフォーム

ハブスポット(HUBS)は主に中小企業や中堅企業を対象にCRMプラットフォームを提供しています。一般消費者に製品やサービスを販売するBtoCではなく、企業を相手にビジネスを行うBtoBの事業者が主要顧客です。定額課金ベースで収入を得るビジネスモデルです。顧客は135カ国に広がっており、顧客数は合わせて20万5000社に上ります(2023年末時点)。


セールスフォースの製品群に類似したツールが多く、「マーケティングハブ」ではマーケティング活動の利便性を高める機能を提供します。自動化の推進、電子メールとSNSの活用、SEO(検索エンジン最適化)対策、報告、分析といった業務の支援に主眼が置かれています。


「セールスハブ」は営業チームの生産性と効率性を高めるように設計されたツールです。商談の進捗状況の管理、メールやチャットを活用したコミュニケーションの効率化といった機能を持ち、営業活動を支援します。


「サービスハブ」は顧客管理、顧客への対応、顧客への接触を支援するために設計されたソフトウエアです。ヘルプデスクやチャットボットの実装など顧客情報満足度を高める機能を集約しています。


このほかにもウェブサイトの構築やブログ運営の最適化などで集客力を高めるためのツールである「CMS(コンテンツ管理システム)ハブ」、業務オペレーションを一元的に管理する「オペレーションハブ」などがあります。



こうした主要ツールで構成するのがカスタマープラットフォームの「スマートCRM」です。ツールはデータベースに接続されており、詳細な情報の引き出しが可能です。


ハブスポットは企業統合・買収(M&A)にも積極的で、2023年12月にはBtoBデータ収集のクリアービットを買収しています。クリアービットが持つ顧客情報などのデータを取り込むことで、サービスの強化を図るようです。



ズームインフォ・テクノロジーズ、営業支援ツールを提供

ズームインフォ・テクノロジーズ(ZI)の前身は2007年に現在のヘンリー・シャック最高経営責任者(CEO)が立ち上げたディスカバーオーグという企業です。2019年に同業のズーム・インフォメーションを買収し、再編を経て2020年にナスダック市場に上場しています。


ズームインフォ・テクノロジーズは企業向けにSFA(営業支援ツール)を提供しています。クラウドベースのツールを通じ、高度な情報と分析を販売、マーケティング、オペレーション、採用などの部署に届けます。


強みは豊富な企業・個人データとそれを分類し、重要な情報を抽出する能力です。人工知能(AI)などを活用して数百万のデータソースからデータを取得し、標準化や検証などを経た加工データを提供します。



ズームインフォ・テクノロジーズが提供するプラットフォームは柔軟性が高く、セールスフォースやハブスポットのCRMプラットフォームに統合したり、併用したりすることも可能です。CRMプラットフォームのプロバイダーと競合するのではなく、共存する方針を打ち出しています。


2023年末時点の顧客数は3万5000社を超えています。顧客はソフトウエア開発、ビジネスサービス、製造、通信、金融、メディア、運輸、教育、医療などの業界に広がっています。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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