2024年7月7日の東京都知事選では、50名を超える候補者のなかから現職の小池百合子知事が3選を果たしました。小池知事は少子化対策に力を入れており、3期目もさまざまな施策が打ち出されていくことでしょう。そのなかで注目したいのが「プレコンセプションケア」です。まだ聞き慣れない言葉ですが、社会的意義はとても大きいものです。ファイナンシャルプランナー(FP)としての視点から解説します。
プレコンセプションケアとは
コンセプション(Conception)とは受胎という意味です。つまり、おなかの中に新しい命を授かることをいいます。この言葉を含んだプレコンセプションケア(Preconception care)とは、将来の妊娠を考えながら、女性や夫婦(カップル)が自分たちの生活に向き合うことです。
プレコンセプションケアの理念は「健康寿命」の入口
プレコンセプションケアの対象は、妊娠を計画している女性だけではありません。すべての妊娠可能年齢の女性にとって、大切なケアとされるものです。東京都をはじめとした行政の役割は、現時点のあらゆる健康状態のチェック、および今後のリスクについて、各分野のスペシャリストに相談できる仕組みの構築を指します。より噛み砕いて、具体例に落とし込んでいきましょう。
自分を管理して、健康な生活習慣をつける
プレコンセプションケアは、将来の妊娠を考えながら、女性やカップルが自分たちの生活や健康に向き合うことです。元気な赤ちゃんを授かることを軸として、将来にわたって家族がより健康な生活を送れることを目指します。
食生活や就労環境、運動不足などは20代30代では表面化しなくとも、加齢期とともにリスクとして表面化します。「昔からちゃんと運動しておけば良かった」となっても、時間を取り戻すことはできません。
FP目線でいえば、これは当人だけの問題ではありません。子どもの成長期に親が大きな病気をすることが家計へのリスクに繋がると考えられます。現在の日本は生命保険領域が発達していることもあり、「何かあったときのリスク回避」として金融商品が提供されています。
根本的に病気になるリスクを子どもが生まれる前からコントロールし、適切な専門家に相談することができれば、そのリスクは著しく低下します。
当然生活習慣に依らない疾病や突然の事故などもあるため、ゼロにはなりませんが、行政とともに我々も関心を持っていくべき領域です。筆者ははじめてプレコンセプションケアの概念を聞いたとき、高齢期を迎えたときの「健康寿命」に近いのかなと思いました。
プレコンセプションの理念は「ふたり」で考えること
もうひとつのポイントは、プレコンセプションケアにもとづく専門家への相談、かつ取り組みが、「夫婦(カップル)で取り組むこと」とされていることです。「男は仕事、女は家庭」という時代は過ぎ去っていますが、いまも「家事・育児を手伝う」という男性の行動が賞賛される雰囲気はまだ残っています。手伝うという言葉は、男性が完全に主体では無いという裏返しでもあります。
プレコンセプションケアは今後、「プレコン」と略されるなどして社会に浸透し、新たな考え方として定着していくのではないでしょうか。そのうえでFPの視点を持ちだすと、プレコンの浸透とともに注目される投資領域はどこか、という視点です。
投資視点で見るプレコンはヘルスケアの次段階?
プレコンの意義は健康寿命と近いため、既存の投資領域でいえばヘルスケアに近いものです。ただ当人の健康ではなく、日々を一緒に生きる関係になった方と2人、もしくは生まれてくる子どもも含めた「複数形のヘルスケア」と考えることができるでしょう。
ヘルスケアから離れると、生命保険や万が一のための資産運用への影響も考えられます。健康生活を目指すための保険であるVitality(住友生命)が発売されて注目されましたが、夫婦(カップル)を申込主体として取り組む保険などが今後登場する可能性があります。
これまで夫婦はどちらかといえば、「被保険者と保険受取人」の関係でした。プレコンの浸透によりあらたな概念が生まれることで、応じた保険商品が生まれてくるのかもしれません。
また筆者のようなFPが得意とするライフプラン構築、または投資経験なども、健康な生活を送るうえで欠かせないものです。我々のようなFPには、お金の面での支援役では無く、相談者の夫婦(カップル)とともに円滑な人生のための計画づくりを支援していく、という役割が求められます。
日本において少子化の対策が急務であることは誰しも認識しています。とはいえ、さまざまな理由で「子どもを授かることのできる環境ではない」方々が多いのも事実です。その課題に対し正面から取り組み、社会を変えようとする行政の取組みに期待しています。また、それらの取り組みに投資として民間資力が加わることが、本当の意味での「社会インフラとしての展開」といえるのではないでしょうか。