【米国株インサイト】DXセクター(後編):多様なプレーヤーが多様なソリューション

デジタル・トランスフォーメーション(DX)はデジタル化を通じた社会や生活の変化・変革という意味です。経済産業省によると、産業界におけるDXの定義は「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」です。


米国ではDX推進のプラットフォームやソフトウエアを提供する企業が数多く存在します。多様なプレーヤーが多様なソリューションを提供し、生き残りを賭けて競合している状態です。前編ではサービスナウ(NOW)をご紹介しており、後編ではオラクル(ORCL)、ワークデイ(WDAY)、ペイチェックス(PAYX)、オクタ(OKTA)を取り上げます。


オラクル、法人向けソフトウエア開発大手

オラクルは米国を代表する法人向けソフトウエアのプロバイダーです。時価総額では米国株の中で20位前後にランクされ、コカ・コーラ(KO)やネットフリックス(NFLX)を上回っています。


2024年5月期決算の売上高は前年比6.0%増の529億6100万ドル、純利益は23.1%増の104億6700万ドルでした。売上高が500億ドルを突破したのは初めてです。


セグメントでは、法人向けにアプリケーションソフトやクラウドサービスを提供するクラウド&ライセンス部門の売上高が444億6400万ドルで全体の84.0%を占めています。オラクルのソフトウエアやハードウエアの保守などを手掛けるサービス部門は売上比率が10.3%。ネットワーク機器やストレージ製品などを提供するハードウエア部門は売上比率が5.8%でした。



オラクルは法人向けに多様なアプリケーションやクラウドサービスを提供しており、それだけでDXを推進する事業者として大手に位置づけられそうです。例えば、オラクルはデータベース管理システムがよく知られており、このシステムを軸に据えたDXも効果がありそうです。実績は十分で、産業ごとに積み上げた豊富なノウハウを持っています。


これまでの経験で培ったDX推進の手順として、オラクルははまず企業や政府機関がデジタル化で何を実現したいのかを特定する必要があると説いています。次の段階でDXで実現したいことに対し、どのようにDXを関連付けるのかを考え、現在のデジタル化の取り組みを査定するように提案しています。


こうして現実とDX実現に必要なデジタルインフラのギャップを認識し、どのように穴を埋めていくかを検討します。これに基づきDXに向けたロードマップを作成し、最終段階でDXを実現するという段取りです。もちろんそのためにオラクル・クラウドの利用を推奨しています。


ワークデイ、人材・資金管理プラットフォームを提供

ワークデイは法人向けに人材や資金を管理するクラウドベースのプラットフォームを提供しています。「ワークデイ人工知能(AI)」と呼ぶAIを搭載したプラットフォームを通じ、労働生産性の向上や財務管理の強化に向けた取り組みを支援します。


プラットフォームに組み込む主なアプリケーションは「財務管理」、「支出管理」、「人材管理」、「事業計画」などで、それぞれ独自の機能を持ちます。このうち「財務管理」では売り掛けや買い掛けなど主要取引の監視やリアルタイムでの財務状況の把握などを通じ、内部統制の機能を高めます。


「支出管理」は調達や発注などの支出を管理するツールです。サプライヤーの選定や契約の合理化に向けた取り組みを支援します。利用者が支出の承認を求め、上役が是非を判断する仕組みを使い、支出を制御することも可能です。



「人材管理」は、従業員の入社から退職までのライフサイクルを管理するツールです。雇用状態、給与、訓練、経験などを把握できる仕組みを使い、能力やスキルを生かすことも容易になります。


「事業計画」では、財務、人材、販売、営業などのデータを活用し、事業計画の策定を支援します。データに基づく経営判断や状況の変化への迅速な対処も可能になるようです。


ワークデイは1万を超える法人にサービスを提供しています。特に中堅企業や大企業への提供に強みを持ち、フォーチュン500に選定される米国の大企業のほぼ半分がワークデイのサービスを利用しています。


ワークデイは企業買収に積極的で、2024年4月には人材獲得や発掘のAIソリューションを提供するハイヤードスコアを買収しました。企業買収を通じ、「人材管理」の分野を強化する方針です。


ペイチェックス、人材管理ソリューションを提供

ペイチェックスは人材管理ソリューションのプロバイダーです。中小企業を対象に人事、給与計算、福利厚生、保険など煩雑な手続きを簡素化するソリューションを提供します。


こうした分野は州や地域ごとに法規や規制が異なる場合もあり、リソースや専門知識が必要になりますが、中小企業では十分なリソースを割り振ることができず、専門知識も不足しがちです。ペイチェックスのソリューションを利用することでこうした弱点を補い、リソースの適切な配分も可能になるというわけです。


ソリューションの特色は◇クラウドベースのプラットフォーム◇柔軟性の高いサポートオプションを含む技術を統合した労働力管理システム◇直感的なユーザーエクスペリエンス◇企業の成長に応じて機能の追加が可能で、カスタム化が容易なプラットフォーム◇クラウド上にあるソフトウエアを利用し、コスト削減が可能なSaas方式――などを列挙しています。



利便性の高いDXツールの提供で、業績は着実に成長しています。2024年5月期の売上高は前年比5.4%増の52億7800万ドルで、10年前の2014年5月期の2.1倍になりました。純利益は前年比8.5%増の16億9000万ドルで、10年前の2.7倍に達しています。


オクタ、クラウドで総合認証サービスを提供

オクタは法人向けにクラウドベースの総合認証サービスを提供しています。企業や組織の従業員などはまず、オクタが提供するプラットフォームでIDの認証を受けた後、パブリッククラウドや社内サーバーなどに接続し、作業する手順を踏みます。


インターネット上でソフトウエアを提供するSaas方式を採用しているため、オクタのサービスはIDaaS (ID管理サービス)とも呼ばれています。主力製品は「ワークフォース・アイデンティティー・クラウド」と「カスタマー・アイデンティティー・クラウド」の2種類です。


「ワークフォース・アイデンティティー・クラウド」は企業や組織の従業員、請負事業者、パートナーなどを対象とした認証システムです。ひと手間かけることでアプリケーションやデータへのアクセスにおいて安全性を高めます。



「カスタマー・アイデンティティー・クラウド」は企業が自社の顧客に対し、デジタル資産へのアクセス権を提供するための手段です。顧客の認証という負担を軽減する機能を持ちます。2021年に買収したオースゼロがこのサービスを提供しています。


世界中で広範に事業を展開し、数多くのパブリックプラウドやアプリケーションソフトのプロバイダーと提携しています。2024年1月末時点の顧客数は約1万8950に上ります。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

島野 敬之の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております