マサチューセッツ州は、バイオテクノロジーやライフサイエンスなどの産業集積地として世界的に知られています。ボストンとその近郊にはマサチューセッツ工科大学やハーバード大学など世界でも最高峰に位置する難関大学があり、バイオテクノロジーやライフサイエンスの分野の優秀な人材が豊富です。先端医療分野の研究開発機能が集中するのは自然な流れで、豊富な人材が産業クラスターの形成に一役買っています。
医療機器大手メーカーの一角もマサチューセッツ州に拠点を置いています。医薬品やバイオ産業の集積地だけに医療機器や消耗品を開発・生産するメーカーにも商機があるようです。
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック(TMO)は、2006年にサーモ・エレクトロンとフィッシャー・サイエンティフィックが合併して誕生しましたが、このうちサーモ・エレクトロンはマサチューセッツ工科大学の卒業生とハーバード・ビジネススクールの卒業生が1956年に共同で創業しています。現在の本社はボストン郊外のマサチューセッツ州ウォルサムにあります。
ボストン・サイエンティフィック(BSX)も同州で誕生しました。ウオータータウンという町で創業し、現在は州内のマールボロに本社を置いています。今回はマサチューセッツ州にゆかりのある両社をご紹介します。
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィック、研究施設に製品供給
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックは、バイオテクノロジーや医療分野の研究開発に使う機器類や消耗品のサプライヤーです。医薬品メーカーやバイオテック企業、検査センター、病院、大学、研究機関、政府機関などが主要顧客です。
事業は4つのセグメントで構成されており、売上高の規模が最も大きいのが研究所用製品&バイオ医薬品サービス部門です。2023年12月期の売上高は前年比2.4%増の230億4100万ドル、部門利益は16.9%増の33億5800万ドルで、全体に対する割合はそれぞれ51.6%、34.2%です。
この部門では、基本的に生命科学や新薬発見、病気治療などの研究を手掛ける研究所が必要とする多様な製品を提供します。自社生産の製品や外部製造委託の自社ブランド製品だけでなく、他社ブランドの製品も仕入れて販売します。消耗品、装置類、化学品などが対象となります。
また、医薬品サービスでは低分子と高分子の医薬品分野を対象に、開発や臨床試験、製造など広範なサービスを提供します。臨床リサーチでは、すべての段階の臨床試験や承認手続き、会場と患者へのアクセスなどに加え、分析サービスも手掛けます。
生命科学ソリューション部門は医薬品やバイオテクノロジー、農業、医療、学会、政府機関といった分野の顧客を対象に、生命科学・医療研究、新薬やワクチンの発見・開発、感染症や疾病の診断などで利用する試薬、装置類、消耗品を提供しています。2023年12月期の売上高は前年比26.3%減の99億7700万ドル、部門利益は38.7%減の34億2000万ドルで、全体に対する割合はそれぞれ22.3%、34.9%です。
新型コロナウイルスの流行時にはパンデミック対策に取り組む製薬会社などの需要増で、生命科学ソリューション部門の売上高と利益が急増しました。需要増の反動は大きく、2023年12月期でも2桁の減収減益となっています。
この部門はバイオ科学、遺伝子科学、バイオプロダクションに細分化されています。バイオ科学では分子生物学やタンパク質生物学、新薬発見などの領域で研究を手掛ける顧客に試薬、装置類、消耗品を販売します。遺伝子科学とバイオプロダクションでも顧客のニーズに見合った製品を提供しています。
分析装置部門では、医薬品やバイオテクノロジー、農業、医療、学会、政府機関といった分野の顧客を対象に、多様な分析装置と関連の消耗品、ソフトウエア、サービスを提供します。2023年12月期の売上高は前年比9.6%増の72億6300万ドル、部門利益が26.6%増の19億800万ドルで、全体に対する割合はそれぞれ16.3%、19.4%です。
特殊診断部門では、医療機関をはじめ、製薬会社や食品会社の研究施設に提供する診断キット、試薬、装置類、培養基などが主力製品です。2023年12月期の売上高は前年比7.5%減の72億6300万ドル、部門利益が9.8%増の11億2400万ドルで、全体に対する割合はそれぞれ9.9%、11.5%です。
サーモ・フィッシャー・サイエンティフィックは、基本的に顧客の要望に応じて製品やサービスを提供するため、対象の商品を生産できる企業を傘下に置くことは有効な事業拡張の手段です。企業統合・買収(M&A)を推し進めて業容を拡大しており、2023年も複数の買収案件を抱えるなどM&Aに余念がありません。
ボストン・サイエンティフィック、医療外科と心血管が主力部門
ボストン・サイエンティフィックは、前述のようにマサチューセッツ州に本社を置く医療機器メーカーです。セグメントは医療外科と心血管の2部門に分かれています。
医療外科部門は、内視鏡、泌尿器科、ニューロモデュレーションに細分化されます。内視鏡事業では出血部位の止血に使う内視鏡クリップや胆道ステント、内視鏡用のビデオスコープなどを開発しています。2023年にアポロ・エンドサージェリーを買収し、この分野を強化しています。
泌尿器科事業では、尿管用のステント、カテテール、ガイドワイヤー、バルーンなどを提供します。ウレテロレノスコープ(尿管鏡)やレーザー治療装置、前立腺肥大症のレーザー治療装置などの開発も手掛けています。
ニューロモデュレーションは電気や磁気によって神経の働きを調整する治療法です。この分野では脊髄電気刺激装置、がん治療に使うジオ波焼灼療法(RFA)装置、腰部脊柱管狭窄症用の間接除圧装置、パーキンソン病の治療に使う脳深部刺激装置などを開発します。
2023年12月期決算では、医療外科部門の売上高が前年比10.4%増の54億2200万ドル、税引き前利益が23.2%増の17億9600万ドルでした。全体に占める割合はそれぞれ38.1%、44.6%に達しています。
心血管部門は、心臓病と末梢血管インターベンションの各事業で構成されています。心臓病事業では心臓のインターベンション治療に使うカテーテルやバルーン、超音波イメージングシステム、冠動脈石灰化の治療に使うローターブレーター、経カテーテル大動脈弁植え込み術(TAVI)に利用する大動脈弁などを提供します。
不整脈の治療に使うリズムデバイスでは植込み型除細動器(ICD)やペースメーカーなどを開発。エレクトロフィジオロジーと呼ばれる分野では、心房細動の治療に使うパルスフィールドアブレーション用の医療機器類、カテーテルと画像を組み合わせた3 次元マッピングシステムを提供しています。
末梢血管インターベンション事業では、末梢動脈疾患や静脈疾患、がんなどの診断、治療、緩和措置に使う医療機器を開発しています。2023年1-3月期に香港上場のアコテック・サイエンティフィックの株式の過半数を買い取り、この分野の強化を進めました。
2023年12月期決算では、心血管部門の売上高が前年比12.6%増の88億1900万ドル、税引き前利益が27.9%増の22億3500万ドルでした。全体に占める割合はそれぞれ61.9%、55.4%に達しています。