ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)の傘下にあるユナイテッドヘルスケアの最高経営責任者(CEO)が2024年12月にニューヨークで射殺された事件は米国社会に衝撃を与えました。医療保険大手がなかなか保険金を支払わないとされることで義憤に駆られて犯行に及んだとみられており、一部では犯人を擁護する声も上がっているそうです。
ユナイテッドヘルス・グループは事件後に発表した声明で、保険金申請の約90%に保険金を支払っていると説明し、「保険金未払い」を報じた記事などにも反論しています。今回はユナイテッドヘルス・グループをはじめ、ヘルスケアサービスを提供する銘柄を取り上げます。
ユナイテッドヘルス・グループ、群を抜く事業規模
ユナイテッドヘルス・グループ(UNH)は医療保険や医療サービスを提供する企業の中では事業規模で群を抜いており、ダウ平均の構成銘柄にも採用されています。
主要事業は、医療関連サービスを手掛けるオプタム部門と医療保険プランを提供するユナイテッドヘルスケア部門に分かれています。このうちオプタム部門は「オプタムヘルス」、「オプタムインサイト」、「オプタムRx」に分類されています。
「オプタムヘルス」は個人、家族、雇用主に対し、プライマリーケア(かかりつけ医による初期の診断や治療)をはじめ、特殊な治療、手術、緊急医療などを提供します。情報技術(IT)を活用して患者、医療の提供者、保険会社、公共機関などと協働し、医療の質を高め、全体的な医療コストの抑制を目指します。2024年12月期決算ではこの事業の売上高が前年比10.5%増の1053億5800万ドル、営業利益が18.4%増の77億7000万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ19.1%、24.1%です。
「オプタムインサイト」では、医療産業向けに技術ソリューションやデータソリューションを提供します。医療提供者に支払われる金銭を管理する収益サイクル管理(RCM)、特定地域の社会保険受益者などに医療介入を通じてリスクの低減を図るポピュレーション健康管理(PHM)などがあり、主要顧客は医療機関や医師、保険会社、州政府などです。2024年12月期決算の売上高が前年比0.9%減の187億5700万ドル、営業利益が27.4%減の30億9700万ドルで減収減益でした。全体に占める割合はそれぞれ3.4%、9.6%と依然として利益率が高いビジネスです。
「オプタムRx」は薬剤給付管理(PBM)などを手掛けています。PBMは保険会社や製薬会社、薬局、医療提供者、患者などの関係者の間で、薬剤給付の管理を担う事業です。「オプタムRx」事業は2024年12月期決算の売上高が前年比14.8%増の1332億3100万ドル、営業利益が14.1%増の58億3600万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ24.2%、18.1%です。
ユナイテッドヘルスケア部門は保険商品を通じて顧客の医療体験を向上させると同時に医療費を制御する機能で加入者を支援しています。オプタムの機能を利用し、サービスを提供するのです。米国には日本のような医療分野の国民皆保険制度がなく、民間の医療保険会社がカバーします。このため効率的な医療サービスの提供と医療費の抑制を保険会社側が管理する「マネジドケア」という仕組みが普及しています。
ユナイテッドヘルスケア部門は企業、政府機関、個人に医療保険プランを提供するのが柱です。高齢者と障害者の公的医療保険制度「メディケア」や低所得者向けの公的医療保険制度「メディケイド」にも参加しています。民間の保険会社を通じて提供されるプログラム「メディケア・アドバンテージ」では市場シェアで最大です。ユナイテッドヘルスケア部門の2024年12月期決算の売上高は前年比6.0%増の2982億800万ドル、営業利益が5.1%減の155億8400万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ54.1%、48..3%です。
シグナ・グループ、薬剤給付管理サービスに強み
シグナ・グループ(CI)は医療サービスの大手です。30を超える国・地域で事業を展開し、顧客数は約1億8200万人に上ります。
特に薬剤給付管理(PBM)サービスに強みを持ち、米国市場でのシェアで上位にランクされています。このサービスでは傘下のエクスプレス・スクリプツが主要ブランドで、前述のユナイテッドヘルス・グループの「オプタムRx」などと競合しています。
PBMはエバーノース・ヘルス・サービシズ部門の主要事業に位置づけられています。主に契約先の薬局との処方薬値引き交渉、処方薬の薬剤リスト管理、薬剤給付のコンサルティング、処方薬の使用レビュー、処方薬の宅配、難病・希少疾病用医薬品の提供とモニタリングなどを手掛けます。
エバーノース・ヘルス・サービシズ部門では、プライマリーケア(かかりつけ医による初期の診断や治療)や往診、メンタルヘルスサポートなどのプログラムも提供しています。この部門の主要顧客は、マネジドケア機関(MCO)、医療保険会社、企業、医療機関などです。この部門の2024年12月期決算の業績は売上高が前年比31.7%増の2021億5500万ドル、税引き前利益は8.7%増の70億100万ドルです。
もうひとつのセグメントはシグナ・ヘルスケア部門です。国内外の顧客に医療保険を提供しています。主な商品・サービスには「使用者医療プラン」、「個人&ファミリープラン」などがあります。
ヘルスケアサービス業界では企業合併・買収(M&A)が盛んで、シグナ・グループは2018年にPBMサービスのエクスプレス・スクリプツを買収し、この分野で国内トップクラスに躍り出ました。2024年10月には保険・ヘルスケアサービスのヒューマナ(HUM)を買収するとの観測が浮上しましたが、11月にこうした観測を否定しています。