家計調査からみる貯蓄事情~高齢者の資産格差と勤労者の意識変化~

先日、総務省が集計する2024年の「家計調査(貯蓄・負債編)」が公表されました。二人以上の世帯では、1世帯当たり貯蓄の残高が2019年以降、6年連続で増加しました。


「家計調査」には、「家計収支編」と「貯蓄・負債編」があります。2024年の「貯蓄・負債編」から、金融資産残高に関するポイントをまとめました。


貯蓄保有世帯の平均は、1世帯当たり1,984万円、中央値は1,189万円


二人以上の世帯における2024年の貯蓄額(保険と有価証券を含む)は、貯蓄がゼロの世帯を含めた平均で、1世帯当たり1,984万円でした。前年に比べ4.2%増、金額にして80万円の増加となりました。さかのぼって比較できる2002年以降での最高額となりました。


もう少しで2,000万円に届きそうだというこの水準は、一部の資産家によって平均が押し上げられています。貯蓄ゼロの世帯を除き、貯蓄残高の少ない世帯から順に並べたとき、ちょうど真ん中に位置する世帯の貯蓄額(中央値)は、1,189万円でした。この中央値も、前年の1,107万円から増加しています。貯蓄を保有していない世帯を含めた2024年の中央値は、1,099万円です。


貯蓄残高の分布をみると、貯蓄残高平均の1,984万円を下回る世帯が全体の約3分の2で、貯蓄残高が少ない世帯に分布が偏っています。


勤労者世帯の平均は1,579万円、中央値は947万円


二人以上の世帯のうちの勤労者世帯に絞ると、貯蓄ゼロの世帯を含めた平均値は1,579万円。前年比7.1%増で105万円増えました。同じ調査で平均年収の増加額は21万円でしたので、年収に対する貯蓄の比率(貯蓄年収比)は199.9%となり、前年比8.2ポイント上昇しました。


勤労者世帯の貯蓄残高(平均値)は、10年前に比べて20.6%上昇しています。2015年は貯蓄残高が1,309万円で、年収が709万円。平均貯蓄年収比が184.6%でした。老後の生活費を不安視する人が多いなかで、年収の増加率以上に貯蓄残高を増やしている様子がうかがえます。


中央値については、貯蓄保有世帯では947万円(前年895万円)で、貯蓄ゼロ世帯を含めると885万円(前年836万円)でした。勤労者世帯は、平均値、貯蓄保有世帯の中央値、貯蓄ゼロ世帯を含めた中央値のいずれも、二人以上の世帯全体より少ない結果になっています。


リタイア世帯の貯蓄に占める証券投資の割合は、現役世代より多い


次は、リタイア世帯の貯蓄状況を見ていきましょう。


二人以上の世帯のうち世帯主が65歳以上の世帯の貯蓄額は、1世帯当たり平均2,509万円でした。貯蓄保有世帯の中央値は1,658万円で、二人以上の世帯全体に比べると貯蓄残高が高い階級にも広がった分布になっています。残高2,500万円以上の世帯が全体の約3分の1を占める一方、300万円未満の世帯が全体の14.8%。格差が感じられます。


興味深いのは、貯蓄の種類別残高です。貯蓄残高のうち19.6%が有価証券で、5年前の16.1%からほぼ毎年上昇しています。二人以上の世帯のうち勤労者世帯の有価証券の割合18.7%よりもやや高い水準です。【グラフ1】で、勤労者世帯と世帯主が65歳以上の無職世帯について、金融資産の内訳を示しました。



勤労者世帯では、主に普通預金である「通貨性預貯金」が588万円で貯蓄に占める割合が37.2%、定期預金に代表される「定期性預貯金」は344万円で21.8%、株式・債券・投資信託などの「有価証券」は18.7%となっています。


一方、高齢者無職世帯は「通貨性預貯金」が801万円で貯蓄に占める割合が31.3%、「定期性預貯金」は859万円で33.6%。預貯金の合計が1,660万円で、貯蓄全体の64.9%です。


勤労者世帯は、有価証券での資産形成を始めたところ


ここまで見てきたように、勤労者世帯は高齢者無職世帯より有価証券の保有割合が低いのが現状です。しかし近年は、NISA(少額投資非課税制度)への関心が高まっていることもあり、残高が毎年増えてきました【グラフ2】。



家計調査の結果からは、全体として貯蓄額が増加しているとともに、勤労者世帯において金融資産に対する意識の変化が読み取れます。今後も有価証券を活用した資産形成の動向には注目していきたいところです。


家計管理のポイントとしては、ライフステージや金融制度の変化に応じて、どのように資産を配分していくかが大切です。長期的な視点で預貯金と投資のバランスを見直しながら、安定した家計運営を行い、心豊かな人生を歩んでいきましょう。



【参考サイト】

●総務省 統計局

家計調査(貯蓄・負債編) 調査結果

家計調査報告(貯蓄・負債編)-2024年(令和6年)平均結果-(二人以上の世帯)




ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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