投資ビギナーのための「IR」入門 ~企業のストーリーを見つける~

株式投資を始めたばかりの方にとって、「IR(インベスター・リレーションズ)」という言葉はあまりなじみがないかもしれません。IRとは、「Investor Relations」の略で、日本語では「投資家向け広報」と呼ばれます。企業が、投資家向けに自社の情報を継続して発信する活動のことです。


なぜIRが必要なの?


証券市場は公正な評価が行われる場でなければならず、IRは、そのための重要な役割を担っています。投資家が企業を正しく判断するためには、IRが必要です。


それは、上場企業は投資家から資金を預かって事業を行っているからです。どのような事業を行いどのような結果を出したのか、さらに将来はどこを目指しているのかなど、上場企業には投資家が知りたい情報を開示する責任があるのです。


また、上場企業にとっても、IRは投資家からの信頼を得るために重要な活動といえます。


IRは、法で開示が定められている情報や企業からの一方的な発信だけでなく、企業の自主的な情報提供活動や、ステークホルダーとの双方向のコミュニケーションまで幅広く、企業によっては戦略的に活用しています。


なお、傘下に東京証券取引所を持つ日本取引所グループでは、上場企業に対し、2025年7月をめどにIR体制の整備を義務付けることとしています。


主なIR 


ほとんどの企業はホームページに「IR情報」のページを設けており、以下のような資料を掲載されています。


【決算短信】

証券取引所の規制によって、決算期末から45日以内に作成して開示する義務のある書類。決算から最も早く開示されるIR情報で、速報性を重視しているため、売上高や利益といった業績や配当情報、財務などの必要最小限の情報に留まるが、前期・今期の2期分が記載される。多くの企業は、来期の業績予想も公表している。


【決算説明会資料】

決算発表や四半期業績の発表の際、投資家向けに作成。スライドや動画を用いて、足元の業績についてグラフや写真などを使って経営者の考えをわかりやすく伝えていることが多い。企業独自の資料で、作成しない企業もある。


【中期経営計画】

3~5年先の目標や戦略が具体的に書かれている。売上や利益率などの財務情報やそれらの目標のほか、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取組みや新規事業なども紹介。どの分野に力を入れるか、課題は何かなど、企業の長期的な戦略が具体的に読み取れる。数価目標だけでなく、戦略キーワードに注目して読むのもおすすめ。


【株主通信】

年に1~2回、企業が株主に向けて発行する報告書。「株主レポート」「株主便り」などの名称を使う企業もある。株主総会招集通知と一緒に送付する企業が多い。個人株主にも読みやすいよう、親しみのある文体やデザイン、図表が多く使われ、詳細な業績ではなく簡潔に紹介されている。


【有価証券報告書】

金融商品取引法によって提出義務のある書類。決算期末から3ヵ月以内に、金融庁の電子開示システム「EDINET」に提出しなければならない。企業情報の正式記録であり、信頼性が最も高い資料。業績や財務、リスク、人材、ガバナンスなど網羅的に記載されているが、その分、専門的で初心者には難解な面も。以前は四半期ごとに「四半期報告書」の開示が義務付けられていたが、2023年の制度改正によって現在は廃止されている。


【統合報告書】

財務情報(売上・利益・ROEなど)と非財務情報(ESG、人的資本、リスク、価値創造モデルなど)を一冊に統合した、幅広い内容を記載した資料。株主・機関投資家・ESG評価機関など広い対象者に向けて、決算期末から3-5ヵ月後に発行されることが多い。企業によっては、海外の投資家向けに英語版を作成している場合も。発行は義務ではないが、ディスクローズの重要性から、開示は事実上必須となっている。ビジュアルが中心だが、文章量も多い。中長期の投資判断の材料。


これらの資料を、公開される時期と内容、難易度について、【表】にまとめました。



個人投資家が活用するには?


IR情報は、専門家だけが見るものではありません。むしろ、長期的に投資をするなら、個人こそIRを活用したいものです。IRは、「企業からの手紙」ともいえます。


ですが、これまで挙げてきたように、IRにはさまざまな種類があり、投資ビギナーにとってはどれが重要なのかもわからないことでしょう。情報量が多すぎず、会社の姿がよりよくつかめるものとしては、「決算説明会資料」と「中期経営計画」がおすすめです。


数字を眺めていても面白くないと感じたら、その企業が目指すストーリーが見える資料から開いてみましょう。最初から全部理解しなくてもよいと思います。写真や図が多く、読み物として楽しいと思えるものから読んでみるとよいのではないでしょうか。投資の視野がぐっと広がりますよ。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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