2026年7月に三菱UFJアセットマネジメントが、国内トップの純資産総額を誇る投資信託「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、いわゆる「オルカン」を含む12本のファンドを対象に、有価証券の貸し付け、通称「レンディング(貸株)」を始めると発表しました。
オルカンといえば全世界の株式に分散投資できる手軽さから、新NISAをきっかけに投資を始めた方にも絶大な人気を誇る商品です。NISA代表商品のオルカンと貸株に何の関係があるのか、そもそも貸株とは何なのか見ていきたいと思います。
貸株とは何か
貸株は、投資家が保有している株式を証券会社に貸し出し、その対価として「貸株金利」を受け取れる仕組みです。貸し出した株式は、証券会社を通じて他の投資家や機関投資家などに又貸しされ、主に「空売り」(信用取引で株を借りて売る取引)などに使われます。
株を保有しているだけでは配当や株主優待を待つしかありませんが、貸株サービスを利用すれば、株を売却せずに保有したまま追加の収益(金利)を得られるのが最大の特徴です。貸している間は配当金を受け取れませんが、配当金相当額を受け取ることができます。配当プラス金利というように、株式からのインカム収入を引き上げられるのが貸株という仕組みです。

金利は銘柄によって異なり、人気の高い銘柄や品薄になりやすい(貸株してくれる株主が少ない)銘柄ほど金利が高く設定される傾向があります。多くの場合、通常の金利は年0.1%程度ですが、需要が強い銘柄では年数%、時には10%を超える金利がつくこともあります。
メリットとデメリット
貸株サービスの最大のメリットは、株式を保有しながら金利収入という副収入を得られる点です。長期保有を前提とした株式であれば、値上がり益や配当に加えて貸株金利も得られるため、資産効率を高められます。
一方でデメリットも存在します。まず、株式を貸し出している間は名義が証券会社に移るため、原則として株主優待を受け取れなくなったり、議決権を行使できなくなったりする場合があります。証券会社によっては優待を維持できるサービスもあるため、確認しておくことが重要です。
また、配当金についても「配当金相当額」として支払われるため、税制上の扱いが通常の配当と異なり、確定申告で調整が必要になるケースがある点にも注意が必要です。さらに見落とされがちな点として、NISA口座で保有する株式は貸株サービスの対象外というルールがあります。主要ネット証券でもNISA口座の株式は名義移転を伴う貸株には利用できないと注意書きがあるため、非課税枠と貸株金利を組み合わせて収益を狙うことはできません。
可能性は高くないですが、証券会社が万一破綻した場合、貸株は預金保険機構の保護対象外となります。株式が返還されないリスクもゼロではないため、通常株を保有しているときの保護預かりとは扱いが異なる点にも注意が必要です。

オルカン貸株開始の意図
オルカンのような人気ファンドがレンディング(貸株)を始めたことは、運用会社が投資家によりよいリターンを届けようとする工夫の表れといえます。
営利企業としての悩みもあると思います。オルカンの純資産総額は国内トップの約13兆円であり、eMAXIS Slim 米国株S&P500と合わせてほかの追随を許しません。ただ、信託報酬も業界最低水準です。投資家が負担する運用コストは年率0.05775%であり、仮に1000万円分保有していたとしても、時価が変わらなければ年間5775円程度の手数料しか得られないことになります。
しかも5775円から委託会社、販売会社、受託会社で3等分するので、1社あたり1925円。純資産13兆円だったとしても76億円(それぞれ25億円程度)となります。もし、運用コスト1.5%のアクティブファンドで同じ純資産額だった場合の信託報酬はおおよそ1980億円。投資家にとって低コストはありがたいですが、企業側が少しでも収益を上げようと考えた結果、貸株を開始すること決めたのかもしれません。
今回の件のリリースでは「レンディングを行った場合に品貸料として得られた収益は、その一部を信託報酬として委託会社と受託会社が受け取り、残りの部分については、ファンドの収益として残ります」とのことなので、投資家側にもメリットがある話です。

なお、オルカンに限らず投資信託が貸株を始めたことは過去にもあります。貸株を始めることで運用成績が劇的に変わることは想定しづらいですが、パフォーマンスが0.1%でもよくなるとすれば、投資家にとっては実質手数料ゼロとなる可能性もあります。長期投資には地味に効いてくることが期待できそうですね。


