中国株、あのテーマはどうなった?

第92回 中国AI半導体新興が相次ぎ上場、「四小龍」そろい踏み

26年1-3月期の中国AI計算能力需要、前年同期の5.2倍


9月11日、人工知能(AI)半導体開発の燧原科技(エンフレーム・テクノロジー)が上海証券取引所のハイテク新興企業向け市場「科創板」に上場しました。これにより、中国で「四小龍」と呼ばれる新興の国産AI半導体4社が株式市場でそろい踏みとなりました。他の3社は、2025年12月に科創板で上場した摩爾線程(ムーア・スレッド)と沐曦集成電路(MetaX)、2026年1月に香港証券取引所メインボードで上場した上海壁仞科技(06082)(ビレン・テクノロジー)です。


株価の推移をみる限り、市場は四小龍の将来性を高く評価しているようです。科創板上場の3社の株価は足元で公開価格の3-4倍で推移し、香港市場の上海壁仞科技も60%超上昇しています。


中国ではAI利用を支えるデータセンターなどのインフラ向けに、高性能な半導体の需要が拡大しています。中国情報通信研究院のデータによれば、2026年1-3月期の中国国内のAI計算能力需要は前年同期比417%増加しました。ところが有効供給の伸び率は128%にとどまっています。


この需給ギャップ拡大が国産AI半導体メーカーにとってまたとない成長の機会となっており、四小龍も2026年上半期に売上高を大きく伸ばしました。各社の売上高は摩爾線程が前年同期比147.4%増の17億3600万元、沐曦集成電路は44.7%増の13億2400万元、上海壁仞科技は1997.6%増の12億3550万元、燧原科技は279%増の11億2000万元でした。


市場の熱狂が後退、黒字化見通しに注目


ただ、中国メディア『証券時報』は11日、国産AI半導体メーカーに対する資本市場の姿勢は、当初の熱狂から、業績を実現する能力を見極める段階へと徐々に変化していると伝えました。


同紙によると、北京市社会科学院で研究員を務める王鵬氏は、中国国内でAI半導体を国産品に代替する需要が拡大するなか、四小龍は売上高の急成長する段階に入っているが、損益が黒字に転換する時期を見定める必要があると指摘しました。「研究開発投資、製品性能、ソフトウエアのエコシステム、顧客からの受注を持続的に収益化するビジネスチェーンにいち早くつなげられる企業こそ、業界で本当の地歩を固めることができる」と王氏は述べました。


この見方は、四小龍の経営陣にも共有されているようです。『証券時報』によると、沐曦集成電路の陳維良会長兼総経理は以前、AI半導体業界の急成長と国産代替の加速が市場空間を拡大するとの予測を明らかにしていました。同社製品の市場見通しは良好で、売上高の伸び率は高水準を維持し、早ければ2026年に損益均衡を達成する可能性があるとしています。


また、燧原科技の趙立東会長は、新規株式公開(IPO)を前に9月初めに開いた投資家向け説明会で、足元の受注残、製品納入ペース、人件費予算、研究開発計画などを踏まえると、2026年または2027年に連結ベースで黒字化できる見込みだと説明しました。


もっとも、市場や四小龍の経営陣は、急成長を阻むリスクなど見当たらないと楽観しているわけではありません。黒字化見通しを示した燧原科技の趙立東会長にしても、「国際貿易環境などの不可抗力による重大な影響を受けないことが前提だ」と断っています。



米国の規制、国内の競争激化がリスク


趙立東氏が黒字化への前提条件として意識しているのは、米国政府による対中規制でしょう。米国では、高性能な半導体チップや、それを製造する技術・装置の対中輸出を制限することは、トランプ政権のみならず、超党派で合意が形成されている政策指針です。対抗する中国では、中核技術とサプライチェーンを国内に確立し、外国への依存から脱却する「自立自強」が習近平国家主席の肝いり政策スローガンとなっています。


この連載でもご説明してきた通り、半導体の国産化は中国の重要な国策です。四小龍を含む中国企業にとって政策は大きな追い風になりますが、他国から「不当な補助金」批判を受ければ海外事業の展開が阻害されかねません。


また、製品の性能と使いやすさで他社より優れていなければ淘汰されるという、厳しい課題に直面することになります。科方得諮詢機構の研究責任者、張新原氏は「AI半導体の競争は、カード単体の性能から、1万枚規模のクラスター、超ノード技術、エネルギー効率の最適化、ソフトウエアエコシステム、アプリケーションへの導入を含むシステム的な競争へと移行している」と指摘。中国のAI半導体企業はカードの性能、ソフトウエアエコシステム、クラスター間の相互接続、システム全体のソリューション能力のいずれにおいても、米エヌビディアなどの海外メーカーに差をつけられているとの見方を示しました。


四小龍にとって当面の主戦場となりそうな国内においても、競争が激化するでしょう。北京市社会科学院の王鵬氏は、華為技術(ファーウェイ)傘下の華為海思半導体(ハイシリコン)や、2020年に科創板で上場した中科寒武紀科技(カンブリコン)などの中国のAI半導体大手が、すでに大規模な商用化の実現に向けた検証を終えており、四小龍と比べて業界の顧客数やクラスター導入の実績で優位とみています。


海外進出が安全保障上の理由で阻まれ、国内市場では株式市場での資金調達に成功した新興企業が続々と参入するとなれば、行き着く先は「内巻」と呼ばれる過度な消耗戦を伴う価格競争となりかねません。また、AIの暴走事例が相次いで伝わったことで、AI開発のスピードを緩めるべきとの意見が開発に携わる技術者や経営トップの間で一定の支持を集めつつあります。投資家としては、各社の研究開発の進展だけでなく、中国を含む各国のAI政策を注視していく必要があるでしょう。


この連載の一覧
第92回 中国AI半導体新興が相次ぎ上場、「四小龍」そろい踏み
第91回 勢い止まらぬAI関連の上場、月之暗面は目標評価額500億米ドル
第90回 「Kimi K3」:米中AI相場を揺るがす高性能モデル
第89回 中国軍事企業:米国防総省、アリババや百度も指定
第88回 AI関連が上場ラッシュ、トップモデルは誰だ
第87回 ハンセンテック指数:ナスダック追走へ、AIモデル開発2社を採用
第86回 中国自動車業界(その2):EVで狙う北米・日本市場
第85回 ハンガリー政権交代:中国企業の欧州進出に逆風か
第84回 オープンクロ-: 中国AI市場のゲームチェンジャー、テンセントに追い風
第83回 HALO:AIブームからの逃避先、中東紛争で脚光
第82回 ステーブルコインは統制可能か、香港が挑む「実験」
第81回 中国自動車業界、輸出から海外生産へシフト
第80回 「閉じる、は即ち開放」海南自由貿易港の逆説
第79回 香港ステーブルコイン:ネット大手と金融機関が免許争奪戦
第78回 香港ステーブルコインの裏表
第77回 中国映画:官民で描く国産作品の成長シナリオ
第76回 中国本土の投資家が香港市場で買った銘柄トップ10
第75回 「国家隊」その3:対トランプ戦線に参画、中国株ETFを買い増し
第74回 銀髪経済:攻守一体の長寿ビジネス
第73回 全固体電池:車載開始は27年、30年に量産化へ
第72回 中国の家電 その2:DeepSeekがゲームチェンジャー
第71回 ヒューマノイド:2025年は量産元年
第70回 ディープシーク その2:米中プラットフォームが続々提供
第69回 ディープシーク:トランプ氏コメントがまともな理由
第68回 人民元の先安観が消えない理由
第67回 2025年の消費:若者がこだわる6つの新潮流
第66回 新中式飲食業:若者を引き付ける「ネオ中華」消費トレンド
第65回 中央政治局会議 その2:金融政策を「緩和」に転換
第64回 「氷雪経済」が熱い!25年に1兆元突破へ
第63回 中国製ゲーム:世界で勝負、先兵は孫悟空
第62回 観光業界: 25年は休日が2日増加、国内旅行ブーム到来か
第61回 鉄鋼業界:経営統合に再点火、業界団体が政策主導を要望
第60回 少子化:「出産・育児しやすい社会」目指す総合措置を発表
第59回 自動運転業界、「スパイ活動疑惑」にヒヤリ
第58回 伝統の「白酒」:ネット世代は「飲まずに投資」
第57回 中央政治局会議:市場が大歓迎した「3つの異例」
第56回 名月も陰る中国景気、月餅も「お手頃価格」が主流
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第54回 中国の金融政策 その2:なぜ中央銀行は独立しているべきなのか
第53回 「高配当株」その2:香港市場、主役はバリュー株に交代か
第52回 中国の金融政策:大胆な利下げに踏み出せない事情
第51回 250日移動平均:香港市場に帰ってきた「ベア」
第50回 米大統領選:香港の投資家を悩ます二重の不確実性
第49回 香港市場の「もしトラ」:米インフレ再燃を予想、金融セクターに「買い」
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第45回 「不動産発展の新モデル」その4:地方政府の住宅在庫買い取り、人民銀が支援
第44回 「高配当株」:中国ならではの買われる理由
第43回 「不動産発展の新モデル」その3:中国指導部、住宅在庫の消化策検討を指示
第42回 「国9条」:配当利回り重視の投資戦略に脚光、注目銘柄は国有企業
第41回 「啓航企業」:国有企業のゆりかごでユニコーンは育つか
第40回 「kimi」:市場を沸かせる中国ユニコーンの生成AI
第39回 「不動産発展の新モデル」その2:痛みを伴う改革に踏み込めるか
第38回 期待は高い「低空経済」:eVTOL離陸に投資家も浮き立つ
第37回 「洋上風力発電」:低迷を脱するか、行方は政策の風向き次第
第36回 「24年の香港IPO」: 地位回復に向け中国本土、米国と競り合い
第35回 「辰年の投資戦略」:一押しは日本株、A株市場には慎重
第34回 「美麗中国」:習近平氏肝いりの“生態文明”建設事業
第33回 内巻、寝そべり、潤学、献忠学:ネットに見える若者の本音
第32回 住宅神話と「発展の新モデル」: 待ったなし、中国不動産市場の構造改革
第31回 「十不青年」: 家を買わない中国の若者、投資にも興味なしか
第30回 「国家隊」:株式相場を「実弾」で支える官製チーム、その実力は?
第29回 「生成AI」:中国市場を制する一般向けサービスはどれか
第28回 資本市場の活性化と逆行する「IPO抑制」
第27回 消えた「房住不炒」、投資家を走らす
第26回 医薬品業界に嵐を呼ぶか「反腐敗」
第25回 「ハンセンテック指数」3周年を機に巻き返しなるか
第24回 地方歳入増の妙案になるか「城中村」の改造
第23回 中国通信株の未来を担う「工業インターネット」
第22回 「ハンセン指数」上昇シナリオ実現の根拠と条件
第21回 株式市場を揺るがす「人民元相場」
第20回 習近平氏の肝いり「郷村振興戦略」
第19回 習近平色に染まるシン「新型都市化」
第18回 上半期のネット通販王者を決める「618」開幕
第17回 中国の株式相場を動かす「中特估」とは?
第16回「医薬品ネット通販」アリババとJDがしのぎを削る成長市場
第15回「半導体の国産化」(その3) 腐敗は一掃、戦略を再設計へ
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中国株情報部

村山 広介

日本の出版社や外資系出版社に勤務したほか、シンガポールの邦字新聞社でビジネスニュース編集を経験。 2011年8月、T&Cフィナンシャルリサーチ(現・DZHフィナンシャルリサーチ)に入社。

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