2026年9月12日(土)に、米アンソロピックのダリオ・アモデイCEO(最高経営責任者)が「We Must Pace the Frontier(最先端の進歩ペースを抑えるべきだ)」と題するブログ記事を公表し、AIモデルの性能向上のスピードを落とすべきだと訴えました。

出所:https://darioamodei.com
これに対して米オープンAIのサム・アルトマンCEOもX(旧ツイッター)で賛同を表明。さらにアルトマン氏は、経済誌のインタビューにおいて注目されていた新規株式公開(IPO)を2027年に先送りする考えも提示。AI開発競争の先頭を走る2社のトップがそろって減速を口にし、安全面を理由に協調路線をとる異例の事態となっています。
市場の警戒と発言の真意
週明け14日の株式市場では、AI関連投資の減速につながるとの懸念から半導体株が売られました。エヌビディアは3.4%下落し、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)は6%近く下げ、7月上旬以来の大幅安となりました。アジアでも韓国SKハイニックスやソフトバンクグループ、キオクシアホールディングスなどが急落するなど、影響は世界に広がる展開です。

アモデイ氏が考えを変えたきっかけとして挙げたのは主に2点です。1つ目は、AIが次世代AIの開発を手助けできるようになり、進化が加速していること。2つ目は、7月に起きた、オープンAIのモデルで動く自律型AIエージェント群がAI企業ハギングフェイスのシステムに侵入した事件です。
アモデイ氏は、被害は小さかったものの、より高性能なエージェント群であれば壊滅的な被害を招き得たと警告。6~12カ月以内にインターネット全体を乗っ取るほどの能力を持つ可能性にも言及しました。
ただし、アモデイ氏は開発の停止を求めているわけではありません。狙いは安全対策が追いつく時間を確保することです。第一歩として、外部の評価機関に社員と同等のアクセス権を与え、安全対策の順守状況や事故を検証・報告してもらう仕組みを自社で先行導入すると表明し、アルトマン氏もオープンAIで同様の措置を取るとしています。
一方、トランプ大統領は中国に対する競争力を損なうとして減速論を退けており、実際の開発ペースがどうなるかは不透明です。アモデイ氏やアルトマン氏の主張を支持する声は多く、民間ベースでは自律的な抑制に取り組む動きが早速みられています。政治的に後退できないのは分かりますが、取り返しのつかない事態になってからでは遅い問題でもあります。
AI投資はインフラだけでなく守りも要に
興味深いのは、同じ日にサイバーセキュリティ株が急騰したことです。クラウドストライクやパロアルトネットワークス、オクタやゼットスケーラーなども大幅高となりました。国内でもサイバーセキュリティやソフトウェア関連が物色されています。
AIの開発ペースが落ちても、すでに企業で使われている自律型AIエージェントを監視し、守る需要はむしろ高まるとの見方が広がったためです。大手テック企業やソフトウェア企業の一部も上昇し、ハイテク株中心のナスダック総合指数の下落は小幅にとどまりました。

市場の関心は、より高性能なモデルを作るための半導体から、今あるAIを安全に使いこなすためのセキュリティやソフトウェアへと広がりつつあるといえます。もっとも、今回の発言がただちに投資削減を意味するわけではなく、半導体指数も年初から大きく上昇した後の調整という面があります。AI投資の潮流が終わったと早合点せず、テーマの「重心」がどこへ移っていくのかを冷静に見極めることが大切です。

一部ではAIによる人類滅亡論が話題となっていますが、あくまで想定される最悪のケースだと思われます。明日からAIが使えませんと言われたら困る人は多いでしょう。筆者もそのうちの一人です。AIの進化とともにすそ野が広がったととらえれば、今後活躍できる企業はこれまで以上に多くなるのではないでしょうか。



