ドル独歩高にみる、プラザ合意2.0の可能性

ドル独歩高、政府・日銀は約24年ぶりにドル売り・円買い介入


全ての道は、ドルに通ず―9月20~21日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)開催前に、欧州系の為替ストラテジストがつぶやいた言葉です。この言葉通り、実際にドルはあらゆる市場から資金を吸収しつつあります。



9月開催のFOMCで公表されたドットチャートを受け、年内125bpの追加利上げを行い、FF金利誘導目標を4.25~4.5%に設定する見通しが強まりました。Fedがタカ派姿勢を強調した結果、ドル独歩高が加速。日銀の金融緩和継続に加え、英国のトラス新政権が発表した今後5年間で450億ポンド(約7兆円)に及ぶ大型減税策、さらにイタリアでの極右政権発足など矢継ぎ早に悪材料が飛び出し、円やポンド、ユーロの売りもドルを押し上げています。

 

特に対円では、日銀金融政策決定会合後に145円を突破した9月22日に政府・日銀が1998年以来、約24年ぶりに介入を断行し、衝撃が走りました。その日の介入規模は3兆円超えと、1998年4月10日の2.6兆円を上回る規模と推算されただけあって、一時は140円台までドル安・円高へ巻き戻したが、対欧州通貨でのドル高や輸入筋のドル買いも手伝い、円高へ反転できるかは微妙な情勢です。

 

売られる理由がない「ドル」


何より、ドルが売られる理由が見当たりません。米国は2020~21年にわたり石油の純輸出国であり、天然ガスでは2017年から自立した状態です。食料についても小麦を始めコーン、大豆、さらに牛肉などに肉類でも自給率はそれぞれ100%を超え、地政学的リスクに極めて強い。ロシアによるウクライナ戦争長期化でエネルギーと小麦の不足に喘ぐ欧州とは、雲泥の差です。しかも、ユーロ圏でのインフレ率は冬季にかけ一段と上昇が見込まれ10%乗せが警戒される反面、米国ではエネルギー価格が押し下げ物価はゆるやかながら鈍化しつつあります。ユーロ圏と米国共に景気後退が懸念されるも、米国はFF金利のレンジが3.0~3.25%と利下げ余地を確保しており、他地域・国より早期の回復が期待できます。


 

日本はインフレ率こそユーロ圏ほど上振れしていないものの、円安による家計支出の下押し効果が問題視されがちです。円安進展の追い風を受けながら、輸出数量が6カ月連続で前年比マイナスとなり、8月貿易赤字が過去最大の2兆8,173億円を計上したことも、構造変化による恒常的な円安圧力を予感させます。

 

G7で為替市場に不介入の姿勢貫くも・・


このような状況で、日欧が主導して米国にドル高是正を要請することはあるのでしょうか?可能性は現時点で低く、7月時点で米保守系シンクタンクのアトランティック・カウンシルも9月時点で「2013年以降、G7(主要7カ国)は為替市場への不介入を確約しており、今年5月の声明でもこれを明記した」と分析しています。しかも足元、米当局によってドル高は輸入物価高を抑制する上で好都合ですから、米国自体がドル高是正に参加するは考えづらいところです。

 

一方で、2024年の米大統領選を控え、バイデン政権がいつまでもドル高を黙認するかというと疑問が残ります。既にパウエル氏は、米7月貿易収支で輸出が2カ月連続で過去最大水準だったにも関わらず、9月FOMC後の会見で「海外の成長鈍化が輸出を抑制している」と初めて輸出減速に言及していました。


 

米大統領選のタイミング次第で米国がリセッションに陥るならば、1985年9月のプラザ合意2.0が現実味を帯びるかもしれません。その形が当時のような声明での協調介入発表と実弾投入となれば、パウエル発言と日本の9.22大規模介入への米財務省の容認は、その布石として振り返られたり?いずれにしても、世界情勢が混沌とするなか「Never say never(絶対ないということはあり得ない)」でしょう。

ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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