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「内巻」:過当競争で業界全体の成長力が低下、反内巻の取り組み加速へ

中国では最近、ニュースなどで「内巻」という言葉を目にする機会が多くなりました。「内巻式競争」や「反内巻」などのように使われますが、内巻とは、厳しい競争に直面した企業が技術革新や効率向上ではなく、コスト削減や価格競争に注力することで消耗戦が繰り広げられる事態を指しており、結果的に業界全体の成長力が落ちるほか、企業や従業員、サプライヤーも疲弊させ、悪循環に陥ることになります。


内巻式競争、最近はNEVやフードデリバリーで顕著

内巻式競争が目立つ業界としては、建材や太陽光発電、新エネルギー車(NEV)、Eコマースなどが挙げられますが、うちNEVについては、業界最大手のBYD(01211/002594)が今年5月に「王朝」シリーズや「海洋」シリーズの計22タイプを対象に最大5万3000元の値引きを実施したことが記憶に新しいかと思います。BYDの値下げを受け、吉利汽車(00175)や奇瑞汽車、上海汽車集団(600104)と米ゼネラル・モーターズ(GM)との合弁企業である上汽通用汽車などが相次いで値下げ競争に加わったことで、市場では自動車メーカーの業績悪化懸念が強まり、その後、自動車株は大きく売られる展開となりました。


また、フードデリバリー業界の内巻式競争も注目を集めています。同業界ではこれまで美団(03690)が圧倒的なシェアを誇ってきましたが、今年2月にJDドットコム(09618)が「京東外売」として業界への参入を発表したことがきっかけで、JDドットコムは5月1日までにサービスに加わった飲食店の年間手数料を免除すると発表したほか、消費者には補助金や割引などの大規模なキャンペーンを展開するなど、資金力を武器に事業規模を急速に拡大させています。一方、美団やアリババ集団(09988)傘下の「餓了麼」などもシェア確保に向けて対抗策を次々と打ち出しているほか、美団の幹部がJDドットコムを公然と批判するなど、プラットフォーム間の競争は激しさを増しています。


内巻式競争の防止に関する言及増加、反内巻の取り組み加速へ

一方、中国では昨年以降、内巻式競争の防止に関する言及が目立つようになり、昨年7月に開催された中央政治局会議で初めて内巻式競争の防止が提起されました。また、今年3月の政府活動報告では内巻式競争の総合的な是正が盛り込まれ、太陽光発電やEコマース、自動車などの業界が重点的な監督対象とされています。


今年7月に習近平総書記(国家主席)主宰で開かれた中央財経委員会では、法と規則に基づいて企業の無秩序な低価格競争を是正し、企業に対して製品の品質向上を促し、老朽化した生産設備の秩序ある退出を促進する必要があると指摘。誠通証券は中央財経委員会での言及は国家レベルで反内巻政策が開始された明確なシグナルであるとし、今後、反内巻の取り組みが重点的に加速するとの見方を示しています。


反内巻で恩恵が期待できる銘柄、資金流入期待も

華泰証券は、企業が反内巻に協力するかどうかは、企業の収益状況によって左右されると分析。企業が深刻な赤字に陥り、改善の見通しが立ちにくいほど協力する動機は強まるとみています。また、国有企業の割合が高い業界ほど政策調整のメリットがあるほか、業界の集中度が高い業界では、業界をリードする企業の影響力が強く、意思統一しやすいため、生産削減の効果も期待できるとしています。


一方、『香港経済日報』は、反内巻で恩恵が期待できる業界として、鉄鋼、セメント・建材、石炭、家電、太陽光発電、リチウム電池、NEV、Eコマースプラットフォームの8つをピックアップ。このうち、セメント・建材、太陽光発電、リチウム電池の3つが短期的に先行して上昇する可能性があるとし、中国建材(03323)、信義光能(00968)、江西カン鋒リチウム(01772)の3銘柄を注目銘柄として挙げています。反内巻政策の推進により、市場では一部業界の競争環境の改善や収益力の回復に対する期待が強まっており、今後より多くの資金が流入する可能性もありそうです。


この連載の一覧
「内巻」:過当競争で業界全体の成長力が低下、反内巻の取り組み加速へ
「人型ロボット」:長期的な成長に大きな期待
「限韓令」:韓国コンテンツの流入禁止措置に緩和の兆し 新大統領就任で一気に加速も
「文化広場」:全国規模の株式取引マーケットの形成に歴史的な役割
「上場廃止問題」:中国企業のADRにリスク再浮上、香港証券取引所の役割に期待
「初のブル相場」:上海総合指数は99日続伸や105%高を記録
「ナタ2」:空前の大ヒット、興行収入は160億元到達の予想も
「胖東来」: 中国で「小売業の奇跡」と称賛される地方都市のスーパーマーケット
「栄耀」:華為から分離・独立、株式制改革完了で上場に現実味
「一簽多行」:深セン住民を対象にマルチビザの発給開始、香港経済回復を後押し
「打風不停市」:悪天候下での通常取引、初回は混乱なく通過
「上海証取の株券ペーパレス化」:世界に先駆けて実現
「新中国の証券取引所の誕生」(その2):“正式開業”は上海が第1号
「新中国の証券取引所の誕生」(その1):“営業開始”は深センが第1号
「市場介入の始まり」:投機熱抑制と相場救済
「先A後H」:A株企業の香港上場、美的集団で注目 新たなトレンドに
「証券口座の開設者急増」:中国で株式投資ブームが再来?
「香港小売業」:かつての「買い物天国」、中秋節・国慶節で巻き返しに期待
「無人タクシー」:商業化に熱い期待
「プライマリー上場切り替え」:アリババ集団が手続き完了、本土投資家も近く投資可能に
「蘋果概念株」:iPhone16発表控え再注目、代表銘柄に瑞声科技やBYDなど
「パンダ寄贈」:国慶節に香港へ2頭、経済効果に期待高まる
「中国股民の誕生」:冷淡から熱狂へ 1990年の株式投資ブーム
「相互取引制度」:本土投資家は香港株に、海外投資家はA株に投資が可能 制度の整備進む
「新中国の証券取引市場の誕生」:発行市場の広がりで流通市場が生まれる
「中国恒大集団」:本土不動産子会社に罰金、仲介機関や監査事務所にも波及
「新中国の株券の誕生」:株式制度の原点からのスタート
「金と中国」:人民銀は21年11月から買い増し継続、産金株は高値更新相次ぐ
「万科企業」:中国不動産市場と資本市場発展の縮図
「白名単」:融資に適した不動産プロジェクトを集めたホワイトリスト
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「景勝地運営」:上場企業を通してみる中国観光地、黄山や玉龍雪山など
「辰年相場」:過去4回は平均14%上昇、風水では年後半に上昇か
「映画市場」:23年興行収入は4年ぶり高水準、国産映画が圧倒的存在感
「胡潤百富榜」:英会計士が趣味で始めた長者番付、トップは農夫山泉の会長
「三条紅線」:不動産企業が超えてはならない3本のレッドライン
「シグナル8」:台風襲来で取引停止、制度見直し議論本格化
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「房住不炒」:不動産投機を封じ込む中国の不動産政策基調
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「国務院」、最高国家行政機関
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「n中全会」、5年間に7回開催の重要会議
「共産党大会」、事実上の中国の最高指導機関
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中国株情報部 アナリスト

竹内 なつ子

大学卒業後、日本の証券会社に勤務。中国・北京での語学留学を経て、日系証券会社の上海駐在員事務所や台湾の会計士事務所で翻訳業務に従事。2級FP技能士。

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