バイデン政権がギグワーカー保護に動くも、Fedにはバッドニュース?

バイデン政権、中間選挙前にギグワーカーに照準


中間選挙を11月8日に控え、バイデン政権が矢継ぎ早に票集めに動いています。


バイデン大統領は10月6日、大麻(マリファナ)を所持していただけで有罪となった人々に恩赦を与えると発表しました。10月11日には、米労働省が労働者権利保護を念頭にギグワーカーを従業員として規定しやすくする改正を提案。ギグワーカーとは、企業と契約して請け負う個人事業主で、労働時間や体系を選べる柔軟性を確保できることで知られます。その裏側で、最低賃金と労災保護の対象外で、残業規定からも見放され、労働組合や企業年金に加入できないなど不利な側面が多い。以前から、配車サービスのウーバーやリフト、食品宅配サービスのドアダッシュなどのドライバーや配達員は、待遇改善を主張していましたよね。


ここで、米国でのギグワーカー動向をみてみましょう。


アップワークの調査では、過去1年間でギグワークを請け負った米国人は約5,900万人と、労働人口の36%に及びます。結果、ギグワーカーの賃金は全体で前年比1億ドル増の1.3兆ドルと、2021年の賃金・給与の12%を占めるんですね。


ピュー・リサーチ・センターによれば、ギグワーカーを行った米国人の割合は16%に低下します。これは、アップワークの調査がコンピューター・プログラマーを始め、高スキルのフリーランサーを含めるに対し、ピューはアプリやウェブサイトで直接雇用され、自身の車などで配達、配送などをして業務を行う者を指すためです。ギグワーカーの所得別をみると、低所得者層が25%と最も多く、次いで中所得者層が13%、高所得者層は9%程度でした。人種別ではヒスパニックが最も多く30%年齢層では18~29歳が30%と最大です。所得の不足を補う目的で、ギグワークに飛び込む人々が多いことが分かります。何より、2020年の米大統領選でバイデン氏に投票した層とも言えます。


チャート:ギグワーカー、所得別、人種別、年齢別の割合 

 

 


気になる平均時給は、各種求人サイトによればウーバーは18ドル、ドアダッシュは16ドル。生産労働者・非管理職の9月の平均時給の27.77ドルを大幅に下回ります。中間選挙を前に、バイデン氏が自身を大統領に選出した層に配慮し、中間選挙を前に是正を図ったと言えるでしょう。


賃上げ、価格引き上げにつながりFedには頭痛の種


以上を踏まえれば、ギグワーカーの実態をみると、多くの当事者にとって朗報に違いありません。しかし、あちらを立てればこちらが立たぬで、米企業とインフレ抑制の観点でいえばグッドニュースとは言い難いのですよ。雇用問題を専門とした非営利機関の全米雇用法プロジェクトの試算によれば、ギグワーカーの3割を本来、従業員に分類されるといいます。従って、企業の雇用コストが増大し利益率を縮小させかねません。


インフレを退治すべく大幅利上げを続ける米連邦準備制度理事会(FRB)にとっても、頭痛の種となりそうです。米9月雇用統計では、生産労働者・非管理部門の労働者の平均時給が21年9月以来の6%割れとなりピークアウトを示唆しました。9月公表分のベージュブックでも、12地区連銀中5行と約半数が賃上げペースの鈍化を報告していたものです。


しかし、今回のガイドライン改正により、賃上げ圧力が再燃しかねません。イングランド銀行の利上げとトラス政権が発表した大型減税策ほどのねじれインパクトほどではないものの、金融政策の方向性との乖離は明白です。言わずもがな、Fedの積極的な利上げの目的は、需要の減退を通じたインフレ圧力低下ですから。おまけに、企業側がコスト上乗せを最終価格に反映させるリスクもはらみ、インフレ高止まりを誘導しかねません。


ウーバーやリフトの株価は10月11日に10%超も急落し、ドアダッシュも下落しましたが、バイデン政権発足時点から想定内だったため、冷静そのものです。リフトは声明にて、分刻みで働ける労働環境は従業員と比べ特殊で、ドライバーを従業員に再分類するものではないとの見解を表明。ウーバーも「「オバマ時代に戻るだけだが、その間に我が社は成長を遂げた」と説明します。


チャート:ウーバー(緑)、ドアダッシュ(紫)、リフト(黄)の株価は年初来で大幅安、S&P500の25.0%安、ナスダックの33.4%安(10月12日時点)を大幅に上回る下げ 

(出所:Tradingview)


米労働省は、トランプ前政権で企業側に有利となった法改正に向け45日間の意見を公募します。ギグワーカーだけでなく、Fedも固唾をのんで見守っているのではないでしょうか。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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