大統領首席補佐官に指名予定、”ミスター・フィックス・イット”の横顔

民主党の大統領首席補佐官としては最長、クレイン氏が退任へ


バイデン政権発足から2年が過ぎ、発足時から大統領首席補佐官を務めたロン・クレイン氏(66歳)がホワイトハウスから去ることとなりました。

同氏と言えば、2000年米大統領選でのフロリダ再集計問題を映画化した”リカウント”で俳優ケビン・スペイシーが演じたことでご記憶の方も多いのではないでしょうか。


共和党右派が”クレイン首相”と呼んだ同氏は、2月7日の一般教書演説後に退任する運びとなります。骨身を削るハードワークとあって、在職期間2年超えというのは民主党大統領の1期目の首席補佐官として最長記録です(注:トルーマン大統領は副大統領から昇格なので除外、ケネディ政権下は特別補佐官として2年以上務めたケネス・オドネル氏は”首席補佐官”ではなかった)。


画像:バイデン氏とクレイン氏、大統領執務室の一幕

 

(出所:The White House/Flickr)


振り返ればオバマ政権1期目、盟友で現駐日米大使のラーム・エマニュエル氏が2009年1月から2010年10月までその役割を担いつつ、シカゴ市長に立候補すべく1年254日で退任しましたよね。ちなみに、トランプ前政権の1期目の大統領補佐官は共和党全国委員会委員長だったラインス・プリ―バス氏が務め、2017年1月~同年7月、わずか192日で解任されてしまいました。


クレイン氏はバイデン氏のツイッターからeメールなどを一気に引き受け世論へのアピールに邁進し、且つ2021年8月のカブール陥落から高インフレ、ガソリン価格高騰をめぐる対応、そして中間選挙の戦略などで屋台骨を支えてきました。バイデン氏にとっては、自身が委員長を務めた上院司法委員会の主任弁護士にクレイン氏が1989年に着任してからの付き合いであり、機密文書が発見される状況下での退任は痛手に違いありません。なお、クレイン氏は中間選挙を見届けてから退任する意志を固めていたようで、機密文書押収問題と無関係とされています。


後任の首席補佐官、オバマ政権でのシステム障害時に辣腕振るった実務家


そのクレイン氏の後任に、ジェフ・ザイエンツ氏(56歳)の名前が浮上しています。


画像:オバマ政権時代、バイデン氏と話すザイエンツ氏(赤枠左側)

 

(出所:Obama White House Archived/Flickr)


同氏はワシントンD.C.生まれ、デューク大学卒業後に経営コンサルタントとして辣腕を振るいました。オバマ政権1期目からホワイトハウス入りし、2010年7月~11月と12年1月~13年4月には行政管理予算局(OMB)局長代理、2014年4月には国家経済会議(NEC)議長に着任。これらの要職経験の陰に、システム障害への貢献が挙げられます。2009年夏には”キャッシュ・フォー・クランカーズ(低燃費車への買い替え促進策)”、2013年秋にはオバマケアのオンライン保険市場”エクスチェンジ”の復旧などに尽力し、”ミスター・フィックス・イット(修理の第一人者)”との称号を得ました。


オバマ政権を去った後、英選挙コンサル会社ケンブリッジ・アナリティカがフェイスブック・ユーザーの個人情報を不正に取得した問題を経てフェイスブックの取締役に就任するなど、暫く政界から遠ざかっていたものの、2020年米大統領選にバイデン陣営に加わり政権移行チームの共同議長を担当。バイデン政権発足後は、2021年1月から22年4月までホワイトハウスで新型コロナウイルス対策調整官として、コロナ対策を主導してきた人物です。余談ながらザイエンツ氏は若くして財を成し、弱冠35歳にして米誌フォーブスの”40歳以下の富豪40人”に選出されました。


クレイン氏とザイエンツ氏の決定的な違いは2つ。クレイン氏が民主党関係者と緊密な関係を築いた一方で、ザイエンツ氏はビジネス業界との結びつきが強いんですよね。また、クレイン氏がツイッターを趣味と公言するほど広報活用で多用する一方で、ザイエンツ氏はテクノロジー方面に明るいもののツイッターへの関心は低いのだとか。ザイエンツ氏の大統領補佐官就任で大きく変わるならば、バイデン政権のツイッター活用法かも?


ジョークはともかく、ザイエンツ氏にはバイデン氏の機密情報押収問題に加え、米債務上限引き上げ交渉のサポートなど2024年の米大統領選を占う重要な責務が目白押し。ミスター・フィックス・イットが登場するには、最高のタイミングとなるでしょうか?


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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