つなぎ売り(クロス取引)とは、現物取引で株式を保有すると同時に信用取引で同じ銘柄を売り建て、株主優待の権利を確定させた後に信用取引で現渡(信用取引で借りた株を現物で保有している株で返す)するものです。
株主優待の権利付最終日前後は株価の動きが不安定なことから、「つなぎ売り(クロス取引)でリスク回避を」と謳う証券会社もあります。
しかしつなぎ売りは、貸株料を支払わなければならず制度信用取引では逆日歩というコストもかかります。注文ミスで損をする恐れがある、そもそも信用取引や「売り」のリスクが高いという点にも注意が必要です。
今回はつなぎ売りとは何か、つなぎ売りと株主優待、デメリットやリスクを解説していきます。
つなぎ売り(クロス取引)とは
つなぎ売り(クロス取引)とは、株価が下がりそうな時に同一銘柄を現物株式で保有しつつ、信用取引で売り建てることです。主に、株主優待の権利を得るために利用する投資家が多い傾向にあります。
信用取引とは証券会社から顧客が株式などを借りて行う取引で、つなぎ売りでは借りた株式を信用売り(空売り)します。信用取引では実際に株式を保有していなくても、委託保証金を担保として差し入れることで証券会社から株式などの貸し付けが受けられます。
株式の現物取引は「売り」から入ることができません。
ただし、信用取引では「売り建て」ができますので、現物取引の「買い」と組み合わせることで株価下落のリスクを軽減できると言われています。
株主優待とつなぎ売りの方法
新規に株式を購入し株主優待としてモノやサービスを受け取るためには「権利付最終日」までに株式を買い付け「権利確定日」に株式を保有しなくてはいけません。
権利付最終日に売買を成立させ、成立した日も含め3営業日目に決済(受け渡し)を完了させ権利確定日に株式を保有する(企業の株主名簿に記載されている)必要があるのです。
株主優待の取引では、優待を受けたい企業の「権利付最終日」「権利落ち日」「権利確定日」を把握することが重要となります。
株主優待は多くの投資家に人気があり、優待目当てで株式を購入する事例は少なくありません。よって権利付最終日以降は株価が下がる恐れがあります。
例えば株主優待の人気が高い、ヤマハ発動機の2024年12月末日前後の株価の動きを見ていきましょう。
※赤丸は権利付最終日
権利付落ち日以降は株価が下がりました。続いて直近1年間の株価の推移は以下の通りです。
※赤丸は権利付最終日
株価は低迷しており、短期的に見ると「すぐ売った方が良かった」という結論となります。ただし、今後株価が上昇する可能性もあります。
このように株価が下がるリスクがありますので、権利付最終日の最初の取引(寄り付き)までに、株式を「現物の買い」と「信用の短期」で同じ株数を成り行き(価格を指定せずに注文する方法)で発注します。
そして権利付最終日の翌営業日以降に、株価が下がった場合に信用売りを行います。
具体的には信用取引の売り建玉(売り建てている株式)で「現渡」という決済を利用します。「現渡」で決済すると、信用取引で証券会社から借りた株式を現物で返すことができますが、
NISA口座では「現渡」はできませんので注意しましょう。
つなぎ売りのデメリット、リスク
貸株料などのコストがかかる
逆日歩(品貸料)がかかることがある
注文ミスのリスクがある
そもそも信用取引のリスクが高い
1.貸株料などのコストがかかる
信用取引は証券会社から株を借りて取引をするため、新規建ての受渡日から返済受渡日までの間貸株料がかかります。土日祝日をまたぐ場合には貸株料が高くなってしまいますので、気を付けましょう。証券会社によっては売買手数料もかかります。
2.逆日歩(品貸料)がかかることがある
制度信用取引では、信用売り残高が信用買い残高を超えると「逆日歩」(品貸料)と呼ばれる費用が生じます。株主優待で人気が高い銘柄は、売り残高が多くなり権利確定前に逆日歩が発生することがありますので注意しましょう。
なお一般信用取引では逆日歩(品貸料)はかかりません。
3.注文ミスのリスクがある
注文を間違える、忘れてしまう、正確なスケジュールを把握していないなどのミスで思わぬ損失が生じてしまうリスクがあります。
4.そもそも信用取引のリスクが高い
信用取引は上記のようにコストがかかり、「売り」はリスクが高い取引と言われています。
買いの場合は損失の上限は元本ですが、株価に上限が無いため売りは理論上損失が無限大になってしまいます。ただし、日本の株式市場はストップ高がありますので海外と比べると損失が比較的少ないでしょう。
信用取引自体が現物買いよりリスクが高いため、信用取引を利用するつなぎ売りもリスクは高めと言えます。
まとめ
つなぎ売りはミスをせずに適切なタイミングで株価の下落リスクを軽減できますが、コストがかかりますのであらかじめコストを試算・把握しておきましょう。
発注やスケジュールミスなどが無いように、方法を確認しシミュレーションしておくことも重要です。