「ラップ口座」でお任せ、あなたはそれで本当にいいの?

個人投資家を対象にした各種意識調査によると、投資判断を他者に依存する人は徐々に減少し、投資家自身で判断を下す自己責任意識は高まっているように感じます。一方で、「ラップ口座」「ファンドラップ」といった、投資家自身がほとんど判断を下さない投資の方法も一定の支持を受けています。


「放ったらかし投資」という言葉も聞かれるように、仕事や生活に追われる中、投資のための情報収集や熟慮をする時間を割くのは厳しい人もいるでしょう。けれど、お任せの投資だけでは、投資経験を積む機会が乏しくなり、いつまでも投資初心者から抜け出すことができないのではないでしょうか。


投資判断をお任せする「ラップ口座」


本来、投資は、投資家自身が銘柄を選び、タイミングを見計らって売買を行うもの。それに対し、顧客と金融機関との間で、「投資判断を金融機関にお任せする」という契約を結ぶサービスもあります。


これを「投資一任契約」といいます。


金融商品取引法では、この契約を「当事者の一方が、相手方から、金融商品の価値等の分析に基づく投資判断の全部又は一部を一任されるとともに、当該投資判断に基づき当該相手方のため投資を行うのに必要な権限を委任されることを内容とする」と規定しています。


この「投資一任契約」に基づいて、証券会社や銀行などの金融機関が顧客の資産運用を任される口座を「ラップ口座」といいます。金融機関によっては、ラップ口座をSMA(Separately Managed Account)と呼ぶところもあります。 なお、ラップ口座のうち、運用対象を投資信託に限るものを「ファンドラップ」といいます。


ラップ口座では、契約時に、金融機関が顧客の投資方針などを聞き、その顧客の意向に合った金融商品を選んでポートフォリオを組みます。運用資産は、日本株中心、外国債券中心、といったようにさまざまなタイプが用意され、顧客の好みに合う運用が選べます。一般的には、顧客の意向に幅広く応えられるよう、金融商品の組み合わせによって、運用タイプは数百種類が用意されています。


運用がスタートすると、顧客の目指す運用に合うよう、口座の資産は適宜売買されます。顧客の目指すゴールに向けて、一任された金融機関が経済環境などに応じて運用するのです。


例えば、保守的な投資方針の顧客の場合、景気が悪化しそうであれば株式の保有比率を引き下げ、安定運用に切り替えます。この時に、顧客には売買の確認を取りません。顧客には、定期的にレポートなどで運用の報告がなされます。


ラップ口座の手数料は「報酬」と呼ばれる


ラップ(WRAP)とは、包むという意味。金融機関は、顧客から預かった資産全体を管理します。通常の証券取引では売買ごとに委託手数料がかかりますが、ラップ口座では、売買のたびには手数料はかかりません。資産全体のバランスを見る口座管理や売買などの運用を包括した全てのサービスの対価として、一括して報酬を徴収するしくみです。


報酬は、大きく分けて3つのタイプがあります。1つのタイプは、固定報酬制です。預かり資産残高に対して、あらかじめ年率数%と決められている方法です。もう1つは、実績報酬制です。運用で増えた額に対して、定率で報酬が計算されます。運用の結果が良ければ高い報酬額になり、うまくいかなければ報酬は少なくなるしくみです。さらに3つ目のタイプとして、固定報酬と実績報酬の併用制もあります。


この報酬のほかに、運用資産が投資信託の場合には、別に運用管理費用(信託報酬)がかかります。ただし、ファンドラップの多くは、運用管理費用(信託報酬)が比較的低めのラップ専用投信で運用しています。ラップ口座内の投信が一般に購入できる投信の場合は、他の投資家と同じ率で運用管理費用(信託報酬)が徴収されます。


ネット専業ではロボアドで低コスト


インターネット専業の金融機関は、ロボアドバイザーを使って低コストのファンドラップを提供しています。


顧客がいくつかの質問に答えて、AI(人工知能)が投資家としての顧客をタイプ分けし、その顧客に見合うコースでお任せ運用をするというもの。街で店舗展開をする金融機関が富裕層を対象にしているのに対し、ネット専業では低コストでサービスを提供できます。最低金額が少額で、積立投資に対応していたり、追加投資ができたりなど、柔軟なサービスが魅力です。



「お任せ」のデメリット


このように、本来は投資家自身が資産の管理や運用をすべき部分を金融機関にお任せするのがラップ口座です。「お任せ」に対する報酬を払う価値があると思えば、利用すれば良いでしょう。例えば、かなりの多忙で、資産運用に時間をかけていられないなどという人です。


一方、ただ単に「運用は苦手だから」というだけでラップ口座を利用するのは、いかがなものでしょうか。「コストが高いからラップ口座はやめた方が良い」というつもりはありません。費用で解決させたい方は、納得の上で利用すれば良いのです。


「お任せ」のデメリットを考えてみたことはあるでしょうか。


投資をするメリットは、資産を殖やすだけではありません。投資を通じて世の中の流れや経済の動きを知ることができます。また、政策が民間や家計に与える影響を実感し、暮らしに役立つ知恵も身に着きます。アンテナ感度が高まれば、生活防衛にもなりますし、人生の選択肢も増えることでしょう。ラップ口座の利用で、これらを学ぶ機会を逃しているのはもったいないと思いませんか。


ぜひ、お任せの投資だけでなく、ご自身の頭を使った資産作りにも関心を寄せていただきたいと思っています。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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