株式分割ラッシュ! 値がさ株が買いやすくなる

2022年後半から、株式分割を行う東証上場銘柄が増えています。2022年10月1日は任天堂(7974)が1株を10株に、2023年3月1日にはファーストリテイリング(9983)が1株を3株に分割しました。さらに、4月1日には、32銘柄が分割を予定しています(2023年3月17日時点)。


株式分割ラッシュの背景


東京証券取引所は、個人投資家が株式を買いやすくするために、上場会社に対して最低投資単位を引下げるよう、以前から要請していました。数百万円も出さなければ買えない株は、個人投資家には敷居が高いからです。


2001年に東証は、投資単位50万円未満を上場の努力義務と明示。50万円以上の会社には投資単位の引下げに係る方針を開示するよう義務づけました。2022年10月26日時点で最低投資単位が50万円未満の会社は、東証上場の95%を占めるまでになっています。


しかし、株価は会社の価値を表すもの。伸びる会社ほど、株価は上昇します。上場会社にとって、高い株価は成長の証ともいえます。努力を重ねて価値を高めてきた結果ですから、株価の引下げに応じるのは簡単ではないでしょう。


そこへ、「資産所得倍増プラン」の登場です。2022年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2022」が閣議決定され、東証は動きました。残る5%は236社です。10月27日、東証は上場会社に対し、文書で「投資単位の引下げに係るご検討のお願い」をし、10月26日時点の株価で投資単位100万円以上の38社について、社名を公表したのです(既に株式分割を予定している1社を除く)。


政府の「資産所得倍増プラン」に基づき、東証が個人投資家の投資環境整備として、上場会社に投資単位引下げ検討をお願いした結果、株式分割を実施する会社が急に増えたというわけです。


株式分割とは?


株式分割とは、株式全体の実質的な価値を変えないまま、発行済株式数を増やすことです。資金集めが目的ではないので、株数は増えるものの、その会社の資本の規模は変わりません。既存株主に、持株数に応じて増加分の株式を無償で分配します。


例えば、1株を4株に分割する場合、会社の発行済株式数が4倍になります。100株を保有する株主は400株に、200株の株主は800株に持株が増えます。


このとき、100株が400株になる株主に対し、増加する300株分の資金は求めません。では、株主は資産が4倍になるのかというと、そう甘くはありません。この場合、株式数が4倍になると同時に、株価は4分の1に調整されます。一人ひとりの株主が持つ資産価値は変わらないのです。会社全体の時価総額も理論上は変わりません。


この例を、具体的な株価を当てはめて【図】で説明しましょう。



1株20,000円の「いまからコーポレーション」が1:4の株式分割を行うと、分割後は、理論上1株5,000円になります。分割前に100株を保有していた株主は400株の株主になり、5,000円×400株=200万円で、分割前と資産価値は同じです。


株式分割が行なわれると


株式分割が行なわれると、その会社の流通株式数が増えます。これがどのような影響をもたらすか、立場によって見ていきましょう。


【既存株主】

それまで100株のみを保有していた株主は、1単元を売るか売らないかで迷う場面もあったかと思います。株式分割によって複数の単元を持つことになれば、1単元を売っても手元にまだ株式が残ります。前述の1:4の分割の例では、100株を売っても300株が手元に残っています。売却の決断が下しやすくなるのではないでしょうか。


【購入を検討している投資家】

例に挙げた「いまからコーポレーション」株は、分割前に買おうとすると200万円の資金が必要でした。分割後は最低投資単位が50万円になり、買いやすくなります。他の銘柄との分散投資も容易になるでしょう。


【上場会社】

株式数が増えれば流動性が高まります。売買を経て、株主数が増えることも期待できます。東証プライム市場の上場基準が瀬戸際の銘柄は、基準をクリアできるかもしれません。


ただし、これらはメリットにもデメリットにもなり得ます。流動性が高まると一般的には株価の安定が期待できますが、投資単位の引下げで売却に抵抗感が薄れることから短期売買に至りやすいとも考えられます。一時的には値動きが荒くなる場合もあるかもしれません。


高嶺の花に手が届く?


2023年4月1日付で株式分割を予定している会社は32銘柄。3月30日の取引から分割後の株価になります。信越化学(4063)やオリエンタルランド(4661)、ファナック(6954)、東京エレクトロン(8035)など、これまで高嶺の花だった銘柄が手に届くかもしれません。


ただし、株主優待が魅力のオリエンタルランドは、1:5の分割で買いやすくなるものの、2023年9月以降に株主優待制度が変更になります。4月1日の株式分割後、年に1回の1デーパスポートを受け取れるのは、500株以上の株主です。これは、分割前の100株に相当します。


分割後の100株~400株を保有する株主については、「2023年9月30日以降3年以上保有した場合に1デーパスポートが1枚配布」となり、優待を受けるには3年の辛抱が必要です。ご注意ください。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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