持ち株がTOBの対象に。どうすればいいの?

東芝が、日本産業パートナーズの買収策を受け入れると報道されました。2015年に不正会計が明るみになって以後、米国での原子力事業の巨額損失などもあり、東芝の経営は迷走していました。この買収に際し、東芝の株主はTOBに参加するか否かの決断をしなければなりません。


TOBとは?


TOBとは、Take Over Bidの略で、「株式公開買付」といい、広く不特定多数の株主から株式を買い取る制度です。会社が他の会社を買収する手法のひとつです。また、他社の株式のみならず、自社株を大量に買い付ける場合にも実施されます。大量の株式売買が市場で行なわれると株価形成に支障があるので、TOBは市場外取引で行なわれます。


TOBの話題といえば、2005年のフジテレビとライブドアの間で繰り広げられた、ニッポン放送株式の買収劇でしょうか。


当時、フジテレビが「ニッポン放送の株式を買い集めます」と広く知らせ、ニッポン放送の株主の持ち株を買い集めた制度がTOBです。その後、ライブドアがニッポン放送株を大量に購入。「敵対的なTOB」「友好的なTOB」という言葉も広まったせいか、TOBというと会社を取り合う買収合戦だと思っている方も多いかもしれません。


敵対的なTOBは、買収相手の会社には買い付けの情報を全く耳に入れず、こっそり買うやり方です。この場合、買収される側の会社は、TОBの公告が出されて初めてTOBを仕掛けられたことを知ります。


一方、友好的なTОBとは、買収される会社の取締役会が買収に賛同しているケースです。通常、大株主には、会社の取締役のみならずメインバンクや縁故関係者、取引先の会社なども名を連ねています。この場合、経営陣は大株主に対して「株式を譲ってあげてくれないか」と交渉するなどして、スムーズにTOBが進むように働きかけます。


最近では、親子上場を解消するために親会社が子会社の株式を買い取るTOBが盛んです。東証によるコーポレートガバナンス・コードの改定に加え、2022年は市場の再編に伴う上場維持基準の見直しで、流通株式比率を満たすために、親会社が子会社のTOBを実施する例が多くありました。


TOBは期間限定、少し高い株価での買い取りが一般的


TOBは、買い手が「○○会社の株式を買い取ります」と公表し、財務大臣に届出書を提出します。この時に買付価格も公表し、どの株主からも同一条件で買い取ります。一般には、時価よりも数%高い株価が設定されます。予定している買付株数、買付目的、買付期間なども公表事項です。売りたい投資家は、この期間内に申し込みをします。


買付期間が終了した後には、買付目標の株数を集められたかどうかの結果を公告します。目標数に達した場合は、TOBに参加した株主に代金を払います。


もしも自分の保有株がTOBの対象になったら?


株式投資をしていると、保有株のTOBに直面することもあるでしょう。この時、投資家として取れる行動は、以下の3つです。


【1】 TOBに参加する

保有株をTOBで買い取ってもらうことを、証券会社は顧客がTOBに「参加する」「応募する」「申し込む」などと表現します。その株式を、TOBの条件で買収者に売ることになります。なお、TOBは株主が取引している証券会社で手続きができるとは限りません。「公開買付代理人」と呼ばれる、指定された証券会社でTOBの手続きを行ないます。


TOBの税金は、一般口座・特定口座は上場株を市場で売却した場合と同様に扱われます。NISA(少額投資非課税制度)で保有している銘柄の場合は、取引証券会社が公開買付代理人であればNISAのまま売却できます。公開買付代理人に移管する場合は、いったん課税口座に振り替えた後の移管となります。


【2】 TOBに参加せず、株式市場で売却する

上場している間は、日々の株価で、通常の売却手続きを経て売却できます。


【3】 保有し続ける

持ち続けることも可能ですが、TOBが成功した場合に上場廃止とするケースがあります。この場合、証券会社の預かり資産から外れ、信託銀行の管理下になります。将来、換金する際は、信託銀行に買い取ってもらうのが一般的ですが、非上場株式として扱われます。すると税制が上場株式とは異なりますので、注意が必要です。


また、TOBの実施者が、参加しなかった株主の保有株式を強制的に買い取ったり、株式交換を行なったりするケースがあります。「公開買付説明書」をよく読んで判断することをお勧めします。


このうちの【1】の手続きについて、流れを【図】で説明しましょう。



TOBの対象銘柄が公開買付代理人(手続きする証券会社)の預かりでない場合、【図】で示した一連の移管手続きに日数がかかります。TOBに参加すると決めたなら、早めに手続きするのが良いでしょう。「公開買付応募申込書」を提出した後に、取り消しも可能です。株式市場の株価動向を見ながら、取り消して市場で売っても構いません。


TOBの細かい条件は、銘柄ごとに違います。株式が買付目標数に達しなかった場合は、TOBがキャンセルされることもあります。個別案件による詳細は「公開買付説明書」をよく読んで理解して判断するようにしましょう。


ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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