【米国株かんたんナビ】資本財セクター(後編):米国の国防・安全保障に深く関与

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。


構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、それぞれセクター指数も算出されています。


11に分類されるセクターのうち、このコラムでは前回に続き資本財セクターをご紹介します。構成するのは76銘柄で、S&P500に占めるウエートは8.4%に達しています。


時価総額のベスト10はユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、レイセオン・テクノロジーズ(RTX)、ハネウェル・インターナショナル(HON)、ボーイング(BA)、ユニオン・パシフィック(UNP)、ロッキード・マーチン(LMT)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、ディア&カンパニー(DE)、キャタピラー(CAT)、オートマチック・データ・プロセッシング(ADP)となります。



前回は首位のユナイテッド・パーセル・サービスと5位のユニオン・パシフィックという運輸サービスの銘柄をご紹介しましたので、今回はレイセオン・テクノロジーズ、ハネウェル・インターナショナル、ボーイング、ロッキード・マーチンという米国の国防や安全保障にも深く関与する企業を取り上げます。


レイセオン、航空・防衛に重心

資本財セクターには航空・防衛産業に分類される銘柄が多く、ボーイングとロッキード・マーチンという航空機メーカーに加え、ハネウェル・インターナショナルやゼネラル・エレクトリックも航空機エンジンを製造しています。


資本財セクターで時価総額2位のレイセオン・テクノロジーズは中でも航空・防衛分野の売上比率が高く、世界の航空機エンジン市場でトップクラスのシェアを誇ります。


レイセオン・テクノロジーズの主力部門は4つに分かれています。売上高や営業利益の規模に大きな偏りがなく、バランスがとれている印象です。


最大の事業部門であるコリンズ・エアロスペース部門では航空・防衛関連システムの開発や関連製品の製造を手掛けています。航空電子システム、航空システム、通信システム、ナビゲーション装置、運航制御システム、航空データ・航空機センサーシステム、エンジン制御システム、エンジン部品、着地システム、ブレーキシステムなどが主力製品です。



航空機メーカーや航空会社、政府機関などにシステムや製品を提供しており、ボーイングとエアバスが主要顧客です。2022年12月期決算の売上高全体に占めるコリンズ・エアロスペース部門の割合は29%、営業利益に占める割合は37%です。


プラット&ホイットニー部門は航空機用エンジンの開発と製造を手掛け、売上比率は29%、営業利益に占める比率は17%です。大型旅客機から戦闘機まで多様なエンジンの開発に定評があり、ロッキード・マーチンが開発する米主力戦闘機「F-35」用のエンジンも提供しています。


ミサイル&防衛部門は、空対空ミサイル、空対地ミサイルなど多様なミサイルの開発と製造を手掛けています。地対空ミサイルの「パトリオット」や巡航ミサイルの「トマホーク」などはニュースで耳にしますが、同社の製品です。この部門の売上高が全体に占める割合は21%、営業利益に占める割合は24%です。


情報&スペース部門は航空・防衛関連のセンサーシステムやソフトウエア・ソリューションを提供しています。売上高全体に占める割合が20%、営業利益に占める割合は21%です。


ハネウェル、主力4分野で事業展開

時価総額の3位はハネウェル・インターナショナルです。事業分野は宇宙航空、機能性材料・技術、安全・生産性ソリューション、ビルディング技術の4つに分かれています。



宇宙航空部門は航空機用の製品、ソフトウエア、サービスなどを航空機メーカーや航空会社に提供します。エンジンをはじめ、補助動力装置、安全装置、通信システム、ナビゲーション・システム、レーダー、監視システムなどが主力商品です。2022年12月期決算の売上高全体に占める割合は33%です。


機能性材料・技術部門は、製造業のオートメーション化に必要なソリューションを提供します。石油・ガス、発電、金属、生命科学といった産業が対象です。機能性材料は中間品として製造し、電子、医薬、石油化学などの業界に提供しています。売上高全体に占める割合は30%です。



安全・生産性ソリューション部門は、製造業などの生産現場での安全性確保と生産性向上を目的に製品やソフトウエアなどのソリューションを提供しています。ガス検知システムやクラウドベースの警報システムなどに加え、労働者が着用する衣類や靴なども開発、製造しています。売上高全体に占める同部門の割合は19%です。


ビルディング技術では、施設の安全性を守るセキュリティーシステムや防災システムに加え、建物の管理を総合的に手掛けるシステムも提供しています。売上高全体に占める同部門の割合は17%です。


ボーイング、防衛部門でも存在感

時価総額の4位は航空機メーカーのボーイングです。民間航空機の世界シェアでエアバスと激しいつばぜり合いを演じていますが、軍用機でも大きな存在感を持っています。特にコロナ禍で民間の航空機需要が減退した2020年と2021年には、防衛・宇宙・セキュリティー部門の売上高が民間航空機部門を上回りました。


民間航空機部門では「ボーイング737」「767」「777」「787」などが主力です。2022年12月期には売上高全体に占める割合が39%に達し、防衛・宇宙・セキュリティー部門を再逆転しました。



防衛・宇宙・セキュリティー部門では、1997年に吸収合併したマクドネル・ダグラスが開発した主力戦闘機「F15」の製造を引き継いでいます。また、米大統領専用機「エアフォースワン」は大型民間旅客機「ボーイング747-200」をベースに改修されていますが、発注元は米空軍です。同部門の売上比率は35%です。


ロッキード・マーチン、防衛分野に力点

時価総額の6位はロッキード・マーチンです。軍用機など防衛分野の比重が高いことで知られています。


航空部門では戦闘機や輸送機、無人航空機などを含む軍用機の開発と製造を手掛けています。米国の主力戦闘機「F35」がよく知られており、日本などの同盟国も導入しています。2022年12月期決算の売上高全体に占める同部門の割合は41%です。



ロータリー・ミッションシステム部門では、ヘリコプターの製造をはじめ、ミサイル防衛システムやレーダーシステムなどの開発を手掛けています。売上比率は24%です。宇宙部門では人工衛星を開発、製造しており、売上比率は17%です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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