年初来高値更新の裏で懸念点も
日経平均株価が3万1000円を超え、バブル後の高値を更新する水準まで上昇したことはテレビのニュースや新聞などでも盛んに報じられ、注目を集めました。それに伴いファーストリテイリング<9983.T>の株価が年初来高値水準にまで上昇していることが、市場関係者の間では俄かに話題となっています。
ファーストリテイリングの株価は5月23日時点で3万4700円を付け、年初来高値を更新。日経平均が大幅に上昇するなかで日経平均に占めるウエートの高い同社の株価も上昇しやすいという構造的な要因が、同社株価の上昇の要因になっていると考えられます。
ファーストリテイリング日足チャート
日本経済新聞が公表している日経平均プロフィルによれば、4月末時点の日経平均ウエート一覧における同社のウエートは11.28%。2位の東京エレクトロン<8035.T>のウエートが5.46%、同3位のソフトバンクグループ<9984.T>が3.59%であることを考えると、いかに高いかがわかります。
ここまで日経平均に対するファーストリテイリングのウエートが高まると、ファーストリテイリングの株価が上下することによる日経平均株価への影響も非常に大きなものとなり、1銘柄の株価が指数全体を左右することにもなりかねません。
そのため、日本経済新聞社は2022年10月に構成銘柄のウエートに上限を設ける「ウエートキャップ」を導入しました。これは、指数としての分散効果や指標性の維持、向上を図るため、ウエート(構成比率)が著しく高い構成銘柄に対して、当該ウエートが一定の水準以下となるよう新たに「キャップ調整比率」を導入し、定期見直しごとに調整を行うものです。
定期見直しの基準日時点のウエートがキャップ水準を超えた銘柄に対して、キャップ調整比率(0.9)を設定されます。また、対象となった銘柄にすでにキャップ調整比率が設定されていた場合は、同比率をさらに0.1引き下げられます。
日経平均の定期見直しと同時に実施され、2023年10月からキャップ水準が現行の12%から11%に引き下げられることになっています。また、2024年10月以降には同10%までさらに引き下げられる予定です。
さきほど、ファーストリテイリングのウエートがすでに4月末時点で11%を超えていることをお伝えしました。10月の定期見直しの際には、7月末時点の株価がもとになるとされているため、同時点まで今の株価水準が維持された場合、同社株価は日経平均株価算出の際、現在(4月末時点)の株価換算係数3にキャップ調整比率0.9を乗じた2.7が使用されることになります。
そうなると同社の株価に影響があるのか?指数算出にあたっての計算が変わるだけではないのか?と思われる方もいるかもしれません。しかし、このウエートキャップは需給面で大きな影響を与えることとなります。
ファーストリテイリングの株価にキャップ調整比率0.9が設定されることで、指数のなぜなら、値動きに連動することをめざすパッシブファンドは、それまでファーストリテイリングを購入していた資金について、指数に連動しなくなる0.1%の部分を売却する必要が出てくるからです。
日経平均の定期見直しが10月からですから9月末の大引けで、この指数連動のパッシブファンドによるリバランスの売り需要が発生すると想定されます。この売り需要がどの程度か、というのはパッソブファンドが運用する資金がどの程度か、という前提によって変わってきますが、約700万株、2500億円の売り需要が発生すると指摘する声もあり、それなりのインパクトが出そうです。
ウエートキャップによる需給面への影響が、この先思わぬ落とし穴になる可能性も頭の片隅に入れておいた方が良いでしょう。