男は外で仕事、女は家を守る。いま、居酒屋でもそんな発言をすれば、年代問わず集中砲火を浴びる世の中です。
長いあいだ、日本はこの価値観が浸透せず、諸外国に後れをとっていました。2023年、いまだ男女差が強く残る社会があります。公的年金制度の領域です。
公的年金の男女差が見直される方向に
3月28日に東京都内で社会保障審議会が開催されました。厚生労働大臣の諮問機関である会にて、遺族厚生年金が指摘を受けました。配偶者が亡くなったとき、遺されたのが女性ならば何歳でも遺族年金の受給対象者になりますが、男性は配偶者の死亡時に55歳以上、かつ受取は60歳からという年齢条件があります。
男女の雇用機会がこれほど進んだ世の中で、糾弾されるような男女差が現行で生じています。これは、昭和時代の女性の就業率の低い時代で制度設計が整ったため。もちろん制度開始当時は当事者を救済する形として最適なものでした。
年金制度は5年置きに見直されるものの、これまで男女差が議題に上がったことは少ないものでした。民間の保険が男女比のみならず、事実婚などを対象とするなか、公的年金は「何も変わらずにいる」ものです。女性優位の制度だけではありません。
子どもがいない妻が40歳になったときに受け取れる中高齢寡婦加算も、同様の制度が男性には設けられていません。男女ともに認められている厚生年金保険の第3号被保険者との違いは、「何かあったときに女性は国が助けなければならない」という先入観です。
公的年金制度は2025年に次の制度改正のタイミングを迎えます。男女比が是正されるのは確実で、注目はどのような新制度になるのかの深度次第といえるでしょう。今回新聞紙上で旗が上がったことは、時間をかけて世論が動いていく契機になります。
その先に見える第3号被保険者制度
遺族年金の男女差を埋めたあとは、いよいよ第3号被保険者の制度変更も現実に見えてきます。遺族年金が男女差ならば、第3号被保険者制度は「年金を納付したことにする」制度です。
第2号被保険者と夫婦であれば実質的に年金保険料を納めなくてもいい点には兼ねてより反対論がありました。まして第1号被保険者の国民年金には適用されていない制度という点もアンバランスです。
3号被保険者がいる場合は、2号の保険料を2倍とは言わずとも割高にすべきではないか。現実的か否かはともかくとして、そのような意見が出るのも理解はできます。
気をつけなければならないのは、制度するときにこれまでの説明をされていた納付者に虚偽の制度変更になってはいけません。
以前厚生年金開始受給の制度変更がありましたが、受給開始(報酬比例部分)を生年月日により60歳、61歳、62歳と段階的な移行に定めました。今回仮に3号被保険者を制度変更するとして、どのように段階的変更をするのかは難しいですが、さらに遡及導入をすることのハードルが高いといえるでしょう。
筆者個人の率直な意見としては、既に街が建物に埋め尽くされている東京の渋谷の街の上に、新しいビルや道路を作るイメージと重なります(渋谷はそれを成し遂げてしまうのですが)。
公的年金制度の変更と生命保険・証券業界
公的年金制度が大々的に変更されると、生命保険と証券業界にも大きな波が訪れます。
まず生命保険の営業の最前線では、遺族年金制度を前提としたライフプランを組み、保険のニーズを探ります。前提とする制度が変われば、必要となる保険や規模感も変わってくることでしょう。
証券は必要額というよりも、ライフプランに必要な金額が顧客側で設定されています。対応できる期待リターンがある運用商品を、証券会社やIFAが案内するという傾向があります。もちろん保険・証券に依らず、バランスの取れた状態で案内できる専門家もいます。
懸念されるのは遺族年金の男女平等傾向施策で、「自分の身は自分で守らなければ」という視野の狭い専門家(自称)がメディアやらインターネットコンテンツやらに溢れ出し、当事者を誘導することです。
なかには手数料目的でリスクの高いサービスなどを誘引する人間もいるでしょう。そのときに医療でいうところのセカンドオピニオンのような意識があればいいのですが、情報の値段が安い日本は時間をかけて判断することに苦手意識を持った人が多い印象を受けます。
我々専門家としては、念には念を押して各行動のリターンとリスクのバランスを伝え続けるか、バランスの取れた案内を徹底するかが問われてくることでしょう。
メディアに長く寄稿するものとして、果たして臨床的な(目の前にいる顧客だけへの)アドバイスでいいのかはいつも振り返る部分といえます。ライフプランや生活に即したTechのサービスを見ても、結局や士業や専門家に誘導するものが多いのです。
ロボットアドバイザーのように最後までTechで貫くサービスも出てきてはいますので、これがChatGPTなどの高度なテクノロジーで今後どう変わっていくか、注目する部分です。