米大型トラック販売台数の急増は、年内2回の利上げをサポートするか否か

6月FOMCは年内2回利上げを示唆、米景気は利上げに耐えられる?


6月13~14日に開催した米連邦公開市場委員会(FOMC)では、2022年3月に利上げ開始してから初めて、据え置きに転じました。ただ、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長はあくまで「見送り(skip)」と強調。四半期に一度公表される経済・金利見通しでは、2023年末のFF金利誘導目標・予想中央値が5.6%と、前回の5.1%から0.5%引き上げられ、年内残すところ7月、9月、11月、12月の4回のFOMCで、2回の利上げを示唆しています。


FF先物市場では、6月15日時点で7月FOMCでの利上げの後、年内据え置きの見通しが優勢です。また、一部の市場関係者の間では、大型トラックの販売台数が急増中とあって、米経済は堅調で追加利上げに耐えられるとの観測もあります。


実は米5月大型トラック販売台数は年率55.8万台と、2019年4月につけた過去最大の57.1万台に近いレベルなのですよ。


チャート:米大型トラック販売台数は、過去最多に接近中 


大型トラック販売の急増、コロナ禍での反動か―堅調な景気の裏付けとならず


しかし、トラック輸送業者に聞いてみると、絶好調な販売動向とは裏腹に、現実的な答えが返ってきました。


まずは、こちらをご覧下さい。米小売売上高に占めるネット比率ですが、コロナ禍での経済活動停止を経て、2020年Q1の11.9%から、同年Q2に16.5%と過去最高に急伸した後、概ね高止まりしていますよね。


チャート:米小売売上高に占めるネット比率、20年Q2に急伸後、高止まり 


その間の米大型トラック販売台数と言えば、逆に生産活動の停止や稼働力の制限、供給制約などが重なり、コロナ前の水準である50万台を回復するまで2021年1月まで待たねばなりませんでした。つまり、足元の大型トラック販売台数の増加は、①コロナ禍での供給制約で購入に遅れ、②運転手不足で購入手控え、③これらの反動ーーなどが背景というわけです。また、買い替えが遅れた結果、経年劣化した大型トラックも増えたため、景気減速に反し販売台数が急増しているのだとか。また、OEM OEM(相手先ブランドによる生産)供給元へのインセンティブとして、トラックメーカーが受注する場合もあるそうで、この時期が当初より先送りされ、足元の急増につながったとの指摘も聞かれています。つまり、大型トラック販売台数の急増は堅調な景気動向の裏付けではないということです。


在庫率など需要減退を示唆、“貨物リセッション”の報告も


大型トラック販売急増の陰で、需要減退の数字も確認できます。例えば、営業店・事務所の棚卸資産を除く米卸売在庫ですが9,157億ドルと高止まりしているだけでなく、在庫率は1.85倍と2020年5月以来の高水準で、在庫の積み上がりが見て取れます。


チャート:在庫率、経済活動が概ね停止していた2020年5月以来の高水準

 

加えて、5月31日に公表されたベージュブック(地区連銀)では、リッチモンド連銀とアトランタ連銀から“貨物不況”との文言が飛び出しました。リッチモンド連銀は「荷物の確保が難しい」、アトランタ連銀は「前年比で貨物輸送量が急減した」と報告しており、大型トラック販売の急増と正反対の状況を伝えます。

さらに、バンク・オブ・アメリカによれば、段ボール箱の出荷数は直近の3カ月比で前年比8.3%のマイナスと、金融危機後まもない2009年以来の水準へ落ち込む状況です。


Fedの積極的な利上げで需要は減退、市場からは「年内利上げなし」の見方も


在庫率や段ボール箱の出荷数減少、加えて“貨物リセッション”をめぐる報告は、Fedが2022年3月から5%もの積極的な利上げを行った結果、Fedのお望み通り需要は低下しつつある証左と言えます。

今後の利上げを占う上で、問題は物価なのでしょうが、その物価自体はPPIが5月に前年同月比1.2%と2019年平均値の2.1%を下回る減速を遂げていました。つまり、足元の物価高は実際の物価動向より企業収益を優先したグリードフレーションが色濃いと考えられます。


チャート:米PPIは大幅減速、CPIへ波及するか 


ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック共同創業者やモルガン・スタンレーのエレン・ゼントナー米国担当チーフエコノミストは、Fedの年内2回の利上げどころか、足元の5.0―5.25%での利上げ打ち止めを予想していますが、米労働指標関連に加え、需要減退を示唆する数字を意識しているからでしょう。


ストリート・インサイツ

金融記者やシンクタンクのアナリストとしての経験を生かし、政治経済を軸に米国動向をウォッチ。NHKや日経CNBCなどの TV 番組に出演歴があるほか、複数のメディアでコラムを執筆中。

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