【米国株かんたんナビ】素材セクター(後編):産業界のいぶし銀が勢ぞろい、塗料や鉱業大手が上位に

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴のひとつです。


構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、それぞれのセクター指数も算出されています。


11に分類されるセクターのうち、今回は前回に続き、素材セクターをご紹介します。構成するのは29銘柄で、S&P500に占めるウエートは2.5%です。


時価総額のベストテンはリンデ(LIN)、シャーウィン・ウィリアムズ(SHW)、エアープロダクツ&ケミカルズ(APD)、フリーポート・マクモラン(FCX)、エコラボ(ECL)、ニューコア(NUE)、コルテバ(CTVA)、ダウ(DOW)、PPGインダストリーズ(PPG)、ニューモント(NEM)となります。



前回は首位のリンデをご紹介したので、今回は2-5位の銘柄を取り上げます。2-5位の中で2023年7月3日時点で時価総額が1000億ドルを超える銘柄はありません。


シャーウィン・ウィリアムズ、老舗の塗料メーカー

時価総額の2位は塗料大手のシャーウィン・ウィリアムズです。創業は1866年。日本で薩長同盟が結ばれた年に創業した老舗で、塗料やコーティング剤などを製造・販売しています。米国を中心に中南米、欧州、アジアに製品を提供しています。


普通の塗料メーカーと異なるのは直営の小売店をチェーン展開している点で、2022年末時点で米国をはじめとする北米や中南米に4931店を出店しています。DIY大国の米国ならではの事業形態と言えそうです。



セグメント別では直営店を通じて小売事業を展開するアメリカン部門の売上高が2022年12月期に前年比13%増の126億6100万ドルに達し、全体の約57%を占めました。小売店は業者や個人を対象にしており、「シャーウィン・ウィリアムズ」や傘下企業のブランドの製品を取り扱っています。


消費者ブランド部門は小売店に卸す塗料、着色剤、ワニス、木材防腐剤、腐食防止剤、エアロゾル塗料、コーキング剤、接着剤などを製造します。売上比率は12%と低いのですが、全体の67%をアメリカン部門に卸しており、グループ向けを除く販売だけが売上高として計上されるのがその理由です。


パフォーマンス・コーティング部門では産業用の塗料やコーティング剤を製造しています。木工、金属、プラスチック、自動車、船舶といった分野に製品を提供し、全体の売上高に占める比率は31%です。


エアープロダクツ&ケミカルズ、産業ガスで世界3位

エアープロダクツ&ケミカルズは、産業ガスの市場シェアで、リンデと仏エア・リキードに次ぐ世界3位の企業です。リンデと同様に酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス、ヘリウム、水素、特殊ガスなどが主力製品で、ビジネスモデルも似ています。


供給方法はオンサイト、リキッド・バルク、パッケージ・ガスに大きく分かれています。リンデのマーチャントがリキッド・バルクに相当し、タンクローリーなどで液化ガスを顧客企業に提供しています。


エアープロダクツ&ケミカルズもやはり世界中で事業を展開しています。地域の区分方法はリンデと異なり、米州、アジア、欧州、中東・インドに分けられています。


2022年9月期決算では、米州事業の売上高が前年比29%増の53億6900万ドル、営業利益が10%増の11億7400万ドルです。全体に占める割合は売上高が42%、営業利益が45%です。米州事業では米国をはじめ、カナダ、メキシコ、南米などが対象となります。



アジア地域の売上高は8%増の31億4300万ドル、営業利益は7%増の8億9800万ドルでした。中国、韓国、台湾、マレーシア、インドネシア、インドネシアなどで事業を展開しており、全体に占める割合は売上高が25%、営業利益が35%です。


欧州事業はオランダ、英国、ベルギー、フランス、ドイツ、スペインなどが対象地域で、売上高が32%増の30億8600万ドル、営業利益が5%減の5億300万ドルでした。全体に占める割合は売上高が24%、営業利益が19%です。


中東・インド地域はサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、インドなどが対象です。売上高は30%増の1億3000万ドル、営業利益が25%減の2100万ドルです。全体に占める割合は売上高と営業利益がともに約1%です。


フリーポート・マクモラン、川上特化で高利益率

時価総額の4位は鉱業大手のフリーポート・マクモランです。米国やペルー、チリ、インドネシアに鉱山の権益を持ち、銅や金、モリブデンなどを生産しています。


銅の可採埋蔵量は2022年末時点で確認・推定を合わせ連結ベースで1110億ポンド、権益ベースで804億ポンドに上ります。地域別では北米が486億ポンド、南米が317億ポンド、インドネシアが308億ポンドです。


金の確認・推定埋蔵量は連結ベースで2690万オンスで、地域別では北米が60万オンス、インドネシアが2630万オンスです。インドネシアのパプア州にある金銅鉱山の権益が48.8%にとどまるため、権益ベースでは1350万オンスとなります。



モリブデンの確認・推定埋蔵量は連結ベースで35億3000万ポンドで、地域別では北米が28億3000万ポンド、南米が7億ポンドです。権益ベースでは32億ポンドとなります。


埋蔵量が示す通り、主力事業は銅の採掘と関連製品の製造です。銅鉱石の品位を高めた銅精鉱の売上比率(2022年12月期)が39%、自社の生産設備で精錬して加工した電気銅が21%、銅棒・精錬製品が15%と銅製品だけで75%に達しています。このほか金製品の売上比率は14%、モリブデン製品が6%です。


エコラボ、衛生ソリューションの世界大手

時価総額の5位は1924年に設立され、来年に創業100周年を迎えるエコラボです。主力事業は節水や水の浄化、衛生ソリューションなどで、企業や公共機関向けにサービスを提供しています。世界170カ国以上で事業を展開しています。


2022年12月期決算によると、主力部門は3つに分かれています。産業部門は多様な産業を対象にした水供給や水処理、飲食セクターの衛生サービスなどで構成され、売上比率は48%、全体に占める営業利益の割合も48%と事業全体のほぼ半分を占めています。



行政機関&特殊部門は政府機関や病院、学校、飲食業界などを対象に洗浄剤や消毒剤を販売する事業を展開しています。全体に占める割合は売上高と営業利益がそれぞれ31%です。


ヘルスケア&生命科学部門では病院や医療機器メーカーなどに感染症予防ソリューションを提供しています。生命科学事業は製薬会社などを対象に衛生サービスを手掛けていますす。全体に占める割合は売上高が11%、営業利益が10%です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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