預貯金や保険の割合が減り、株式や投資信託が増加

筆者は、ファイナンシャル・プランナーとして、20年以上、セミナーで資産形成の話をしています。近年は、ちょっと様子が変わってきました。


以前、セミナーの来場者数は株価に連動していました。参加者を集計したら株価指標になるのではないか、と本気で思ったほどです。株価が上昇しているときには定員以上になる一方で、株式市場が冷え込むと、セミナーも空席が目立っていました。


ところが最近は、来場者数が株価の動向には左右されなくなっていると感じるのです。


セミナー会場の景色が変わった


筆者の肌感覚でしかないのですが、同業の仲間たちに聞いても、だいたい同じような感触を持っているようです。


ここ数年は、株式市場が活況であろうとなかろうと、投資や資産運用、資産管理をテーマにしたセミナーは大人気。特に、投資経験が浅いか全くない方々が増えてきました。


また以前は、平日昼間に開催されるセミナーに来られる方は、ご年配の男性が圧倒的でした。「投資は頭の体操」などとおっしゃる方が多かったです。「初心者向け」と銘打っていても、それなりに投資経験がある方もお越しになり、時にはとても詳しい方だとお見受けするような質問も飛び交っていました。


ところが最近は、平日昼間は30歳代~50歳代の女性がほとんどです。休日開催では年齢層が広がるものの、やはり女性が多く集まります。今年に入ってからは、曜日、時間帯を問わず、会場に男性が一人だけ、という光景が何度もありました。


以前なら、いかにも「投資家」という方々が多かったのですが、最近では「投資」というより「資産づくり」を学びに来るような傾向です。


預貯金・生命保険の割合が減り、株式・投資信託が増えている


実際、家計が持つ金融資産全体に占める、株式や投資信託といったリスク性のある金融資産の割合も、年々増加しています。


【グラフ1】では、家計が保有する金融商品の構成比について、隔年で推移を見てみました。データは、金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)が公表している、「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕をもとにしています。



大まかに、オレンジ系が預貯金、緑色系が保険、青色系が有価証券という色分けをしてみました。細かく見れば凸凹はありますが、ざっくりいえば預貯金の割合が徐々に減少傾向(2020年は、一律10万円の特別定額給付金が影響していると思われます)です。


一方、株式と投資信託の割合は徐々に拡大しています。特に2022年は、株式の割合が20%に達し、それ以前の生命保険のシェアと逆転しました。


この変化は、投資への関心が高まっているからでしょうか。それもあるとは思いますが、同調査の他の質問と併せて見てみると、理由はそれだけではなさそうな感じもします。


万が一の病気より確実に訪れる「老後」、子どもより「自分」の心配


【グラフ2】は、金融資産の保有目的についての変化を示しています。


金融広報中央委員会の「家計の金融行動に関する世論調査 2022年」〔二人以上世帯〕では、金融資産を持つ目的を質問しています。1人3つまでの複数回答で集計した結果の毎年の推移のうち、2022年版で上位7位までの回答を抜き出し、まとめました。



グラフで示した期間の前半では、「病気や不時の災害への備え」として金融資産が最も多かったのですが、徐々に低下。2014年から「老後の生活資金」と順位が逆転しました。


「病気や災害への備え」は、さらに2022年に大きく低下し、同時に【グラフ1】の生命保険のシェアも縮小しています。万が一の備えより、確実に訪れる老後の資金準備を優先しているのではないかと推測します。


また、意外だったのは「こどもの教育資金」です。教育熱の高まりは衰えている感じがしませんが、資金の意識は横ばいから急に縮小しています。


病気や災害は、いつ資金が必要になるかわかりません。価格変動リスクのある金融商品は換金したい時に思わぬ値下がりをするかもしれず、それでは困ります。また、教育資金は必要な時期がだいたい決まっていますが、これも目減りさせるわけにはいきません。


これらは一般的に、リスク資産より預貯金にしておく人が多いと考えられます。預貯金や保険の割合が減っているのは、病気や災害への備えやこどもの教育資金という目的の低下傾向が背景にあるのではないでしょうか。


一方で、老後資金づくりを目的とする人が増えたことが、リスク資産の割合を増やしたと見ても良いのではないかと感じました。


好ましいのは、特に目的がないという割合が減っている点です。何となく普通預金に置きっぱなしにしていては殖えませんし、かといって深く考えずに全財産を投資に回してしまっては、いざというときに換金できずに困ってしまいます。


「使いたい時にいつでも使える」「使いたい時に元本割れをしては困る」「長期的な資産作り」「余裕資金の運用」といった資金用途がはっきりすれば、それに適した金融商品を選ぶことができ、効率よく資産形成ができるでしょう。


【出典】「家計の金融行動に関する世論調査」〔二人以上世帯〕(金融広報中央委員会)

ファイナンシャル・プランナー

石原 敬子

ライフプラン→マネープラン研究所 代表 ファイナンシャル・プランナー/CFP®認定者。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。終活アドバイザー® 大学卒業後、証券会社に約13年勤務後、2003年にファイナンシャル・プランナーの個人事務所を開業。大学で専攻した心理学と開業後に学んだコーチングを駆使した対話が強み。個人相談、マネー座談会のコーディネイター、行動を起こさせるセミナーの講師、金融関連の執筆を行う。近著は「世界一わかりやすい 図解 金融用語」(秀和システム)。

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