令和版見通せない物価高と一般入札

1円を削り競合先に競り勝ち、受注を獲得する。日本の商慣習において、特に対行政からの受託案件は、そうして獲得先が決まっていきます。もし後から「すみませんがその受託金額では無理です」という話になったときに、変更が許されるのであれば受注時の価格競争は無意味になります。


一方で2023年は急激な物価高に見舞われており、企業の経営者視点で見ると、「あの時には〇〇円でできると言ったが前提が違う」という状況も考えられます。そんな背景を印象づける倒産劇が前日報じられました。


給食提供業者に課せられた定額価格での提供

2023年9月、関西圏を中心に学校や官公庁への給食・食堂委託事業を手掛けていた株式会社ホーユーが破産開始決定を受けました。負債総額は16億8000万円とみられています。同社は2016年11月期に売上高15億4484万円を計上するも、新型コロナウイルス感染拡大による休校などの影響や食材価格、人件費の上昇から資金繰りが悪化し、今回の措置となりました。


筆者が注目したのが、給食の提供ストップが報じられた際に、同社の経営陣が発した「何度も値上げをお願いしたのに対応に時間がかかった」という言葉でした。一読すれば世の中を覆う物価上昇に同社が悲鳴を上げたのに対し、学校や官公庁などは値上げへの対応を拒み、いわば間接的に同社の首を絞めたとも解釈できます。


ただ、立場によってはこの前提、違うようにも読み取れます。その背景が、一般競争入札です。



競争入札時の価格が変わるなら他社でもいいのでは?

学校や官公庁の給食費など費用関係は、特定の企業有りきで勧めるものではありません。広く募集をかけ、そのなかから「最低価格」で受注可能とした企業に委託するものです。特定の企業有りきで進める随意契約に対し、この形態は一般競争入札契約と呼ばれます。官庁と民間企業の癒着を防止するため、国や地方自治体で幅広く採用されています。


今回の給食の案件があったとき、ホーユー社が提示した価格があります。それは当時の原材料価格などを反映し、かつ同社に一定の利益が生まれるよう十分に積算した見積価格です。その金額が競合他社より安かったというのが、同社が案件を受託した最大の理由であることは疑いありません。


ところが同社の受託後、原材料費が高騰し、同社が自分たちが提示した価格では提供困難となりました。同社の見積もりより高額を提示し、受注を逃した競合社から見れば、「提供できなくなるなら、はじめからその金額での見積出さないで欲しい」となります。


まして物価高を受け、官公庁が同社とのあいだで価格増加に応じたら、一般競争入札はなんだったんだという大前提が崩れます。それが可能なら他社比較を前提とした競争入札ではなく、最初から随意契約で締結し、値上げのリスクを織り込んでおいてくれという話になるわけです。


今回インターネットでは、「低い価格で提供している給食業者が可哀想だ」「安く請け負っている中小企業に救済を」という声が溢れています。多くの方の生活が苦しいなか、これはまっとうな指摘だと思います。ただ前提として、その価格で良いと言ったのは業者側のはずです。


そもそも自由競争を前提とする行政サービスが一般競争入札で良いのかという議論は残ります。ただ随意契約では価格を判断材料とするわけにはいかず、官公庁側になぜその企業を選んだのかの説明責任も求められます。現状の課題を解決するため、一般競争による選別をしなければいいという単純な話ではありません。



物価変動条項と他社排除のリスク

結果的に提供業者の破綻という形で終わりましたが、今回の事例から、物価高騰時の案件受注はどうすればいいのか、とても考えさせられます。随意契約や民間企業同士の契約においても、潜在的に価格で他社に競り勝っているケースは多数あり、後から受注者だけ値上げの権利を持ち出すのは不公平だという見方があるでしょう。


その一方で、誰も今回の物価高をあらかじめ読めなかったのでは、値上げに応じるべきだ。または物価が上がったときに改めて交渉のテーブルにつく物価変動条項を設定しておくべきだという声も、その通りだと思います。ただ、それが他社排除に繋がってしまうのでは、平等性の原則から見て大きな問題です。


今回の倒産劇を受け、サービスの提供を受けていた官公庁は代替となる企業探しを開始しています。同等の金額で給食が提供されるのか、それとも提供社を変えたうえで値上げとなるのかは見えません。


官公庁や自治体が自前で給食センターを設置するという選択肢もゼロではないと思います。何よりも避けるべきは、数年後に同じことの繰り返しにならないようにしたいものです。それは給食だけではなく、さまざまな案件受託選びに関係している要素といえます。


独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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