全銀ネット障害に見るインフラ銘柄投資の怖さとは?

2023年10月、全国11の金融機関で甚大な送金システム障害が発生しました。全国銀行資金決済ネットワーク(全銀ネット)が稼働不能を起こし、12日の朝になってようやく沈静化しました。


日本の株式相場において、稼働するのが当たり前とされるインフラ企業、そしてインフラ銘柄は変動率も相対的に小さいため投資初心者におすすめとされています。ただ、現実はこのような「まさか」があるのも事実です。


銀行振り込みが止まることの恐さ

全銀ネットの障害により、2つの異なる金融機関で行われた送金255万円のうち、87万件が処理が完了しなかったと報道されています。その影響はメガバンクからゆうちょ銀行まで幅広いものでした。


全銀ネットは1973年に稼働が開始され、日本における金融期間取引を陰から支え続けてきました。今回のような障害は、稼働依頼はじめてのケースとのことです。長期間にわたり、如何に正常稼働するのが当たり前だったかがわかるでしょう。障害沈静化時点で判明している理由としては、10月の3連休(10月7日~9日)に今回の11金融機関を対象にシステム機器の更改が行われたことによります。


そのなかで金融機関と全銀システムをつなぐ「中継コンピューター」と呼ばれる機器が不具合を起こしたと初期報告されています。銀行振り込みは社会のインフラです。給料の送金や経済活動、着金による権利取得に至るまで、振込による資金移動が活用されています。システム障害の発生した10日を給料の支給日に設定していた会社も多く、混乱に拍車をかけた印象です。



この事態を投資家の視点で見ると、たとえば2023年には多くの企業が物価高に悩まされていますが、物価高は実際の価格や公的指数などで推移が共有されるリスクです。「原料となっている物価が高いから、この企業の次の決算は厳しいかもしれないね」という会話がされます。例えるなら天気でしょうか。どれだけ急でも2-3日前にはトラブルの前兆が見えてきます。投資家はそれだけ準備する時間があり、企業の株価への影響を生むを十分に検討してから行動を起こします。


一方のインフラ銘柄への投資はまったく性格が異なります。「振込の調子が悪いから、これは3連休の明けに大きな事故になるかもしれないね」とはならず、ある日突発的に事故が明るみに出て、社会が混乱します。いわば突然の災害です。日本においてインフラ銘柄はリスクの低さが評価され、株価は安定する傾向にありました。2023年、この安定性に穴が見られるようになっています。


インフラ銘柄の安定感に「穴」があるとき

全銀ネットの運用を担っているのは日本を代表するITベンダーであるNTTデータ(9613)です。10月13日現在の株価は弱含みの動きとなっています。今後も障害経緯の調査や対応策の検討など、多方面への影響を懸念する展開も考えられます。足元の株価はもともと下落基調ではありましたが、さらに低迷するのか、いったん悪材料出尽くしとなるのか、先行きを注視する必要がありそうです。


同社のようなインフラ銘柄はポートフォリオの安定運用には不可欠なディフェンシブ性が評価されています。安定性の裏には業績浮き沈みが穏やかで、株価も短期的な変動が起きにくい傾向があります。狭義ではインフラではありませんが、一部の製造業などにも見られることがあります。


NTTデータ(9613)の株価推移

 

2023年では先頃のマイナンバーカードの不具合に続くインフラ銘柄の信用失墜のように感じられます。マイナンバーシステムも委託業者は富士通Japanであり、日本を代表する企業グループの一員です。日本国民すべてに関係あるカードの運用において初歩的な事故が起こるなど、事前にリスクとして拾っていた方は皆無だったのではないでしょうか。マイナンバーは様々な民間サービスとの連携も予測されていましたが、当面は行政限定のカードに落ち着く印象です。


今後より詳細が明るみに出ると思いますが、COBOL古い開発言語を使っていたから、という話が各所から出ているようです。そう考えると、日本のインフラ企業においては対岸の火事ではなく、自社システムももしかしたら、と慌てている声が意外にも多いのかもしれません。なおCOBOLは金融機関の印象が強いですが、ほかの領域でも使用頻度はいまだ高いようです。



ポートフォリオのインフラ銘柄を見直そう

もちろん現在自身が投資している銘柄がCOBOLを使っているかどうかはわかりませんし、仮に使っていたとしても、リスクに直結するものではありません。


そのうえでリスクを完全に除去できない場合は、今回のような「まさか」を念頭に銘柄所有を吟味しましょう。先回りしたその動きが、次にインフラ関連のトラブルが発生した際に、皆様を救う一手になってくれるかもしれません。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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