「ポムポムプリン」にみる強い二代目

日本の歴史のなかで、何度かひとつの「氏」が天下の派遣を握り続けたことがあります。源氏、足利氏、徳川氏然り。時代が変わって今や批判の矛先になることの多い政治家の世襲も同様ですが、実業の世界は様相が異なります。


本記事は60歳以上の世代交代を実現した、ある上場企業の話です。2024年に31歳でサンリオの社長に就任した辻朋邦氏は減収減益を乗り越え、2025年5月に2期連続の過去最高益を達成しました。


コンサル出身を入れて社内を劇的に改革

同社は日本におけるキャラクタービジネスの牽引役といえるものの、2015年から7期連続の減収減益に悩まされ続けてきました。コロナ禍で同社が展開する「サンリオピューロランド」の一時閉店のニュースを見た人も多いでしょう。コロナ禍の数年前にトップに就任した朋邦氏は、2021年からボストン・コンサルティングなどの大手コンサル出身を入れ、伝統的な社内を劇的に改革しました。ともすれば「創業者が築いたものを2代目が壊した」と外野から評価されそうな荒療治です。


厳密にいえば朋邦氏は2代目ではありません。2002年に創業者である辻信太郎氏は長男である辻邦彦氏を次期後継者として副社長に据えていたものの、出張先で急逝したという出来事がありました。創業者である祖父のうえに父親が築いたブランドを引き継ぐはずが、30代でその手に命運が握られるという流れ。母親が補完役として取締役に就任しましたが、その重責はとても大きなものです。通常世代交代は十分な時間と綿密なスケジュールのもとで実施しますが、同社は想定外のなかでの承継だったことを伺わせます。


あるインタビューで朋邦氏は「外部から人材を取ったことを、自分の言葉で伝えられたのは大きかった。昔から会社を支えてきてくれた人たちも、嫌な顔を一つせず、サンリオの未来を一緒に考えてくれた」と答えています。会社の伝統と積み重ねたブランド、利益を出すための柔軟な組織、そして社員の一体感があり、元祖キャラクタービジネスのサンリオは劇的な回復を遂げることになりました。その流れを受け、同社の株価や時価総額も一気に伸びています。



「ポムポムプリン」は同社社長がモデル?

そんなサンリオのキャラクターのひとりに「ポムポムプリン」がいます。公式ではゴールデン・レトリバーの男の子をモチーフにしたキャラクターとされていますが、SNSでは朋邦社長がモデルという噂も広がっています。真偽のほどは定かではありませんが、ESGの観点から世襲においても厳しい目が向けられるようになったなかで、若き二代目が創業者からバトンをつないでの業績改善は見事の一言でしょう。


現在、同社は強いIPを活用し、グローバルにおける展開を推し進めています。ゲームへの進出のほか、卓球やスケートボードへのスポンサー活動を展開しており、築き上げたブランドを上手に上書きしている印象です。2025年に40回目を迎える「サンリオ総選挙」はSNSでも広く周知され、同社のブランドの強さを再認識させました。2024年に朋邦氏は「時価総額1兆円を目指している」と発言していましたが、2025年5月時点でそれを大きく超え、1.6兆円を達成しています。


サンリオ(8136)の株価推移


 

日本の上場会社が描く「二代目」に注目する

10年程度振り返ってみると、日本では非上場企業において「二代目による見事な承継」がみられます。2015年に35歳で株式会社ジャパネットホールディングスの社長に就任した高田旭人氏を思い浮かべる読者も多いでしょう。また非上場会社の代表格であるサントリーでも、創業者一家である鳥井信宏社長が2025年に誕生しました。偶然にもこれら二社は非上場の会社ですが、確固たる地盤の承継という意味ではサンリオと同様、世の中の大きな期待を受けた世代交代劇です。


同様にこれからの10年で「世代交代をする可能性が高い」といわれている企業も多いでしょう。そのなかには、これまで何度か社内の後継者、または外部人材を登用してバトンタッチを試みたものの、結果的に上手くいかず前任者が返り咲いたり、市場に迷走人事の印象を与えたりしている会社もあります。そう考えると、90代の創業者から30代へのバトンタッチは素晴らしい成功例です。「二代目」の登場するタイミングにおいては、株価上昇を牽引するきっかけになっていくのかもしれません。


創業者たこれまでの担い手が大きくしたものを、若年の新リーダーが変わらず伸ばしていくのはとても難しいものです。ましてや日本市場の縮小化や、世界におけるビジネスルールの変化など予想できないことが次々と発生しています。そんな逆境のなかで旗を上げる二代目に、引き続き注目していきたいと思います。それはファンダメンタルズともテクニカル分析ともいえない、日本ならではの再成長の号砲のようにも聞こえます。


そしてポムポムプリンは、これから発表される総選挙でも無事に上位を担うことができるでしょうか。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

工藤 崇の別の記事を読む

人気ランキング

人気ランキングを見る

連載

連載を見る

話題のタグ

公式SNSでも最新情報をお届けしております