【米国株インサイト】バイオ医薬品セクター(後編):ギリアド、抗HIV治療薬に強み

バイオテクノロジーを使った医薬品は1980年代に相次いで実用化されています。1970年代に遺伝子組み換え技術が確立され、医薬品に応用するケースが飛躍的に増えたのです。


今回ご紹介する5銘柄は、インターコンチネンタル取引所(ICE)のバイオテクノロジー指数をベンチマークとするiシェアーズ・バイオテクノロジーETF(IBB)の構成上位銘柄から選んでいます。バイオ医薬品関連の銘柄が上位を独占しています。


前回はアムジェン(AMGN)とバーテックス・ファーマシューティカルズ(VRTX)を取り上げました。今回はギリアド・サイエンシズ(GILD)、リジェネロン・ファーマシューティカルズ(REGN)、IQVIAホールディングス(IQV)の3銘柄をご紹介します。


ギリアド・サイエンシズ、抗HIV治療薬の分野に強み

バイオ医薬品の世界的な大手、ギリアド・サイエンシズは創業が1987年。ジョンズ・ホプキンス大学やハーバード大学で医学の学位を取得したマイケル・ライアダン氏が29歳のときに立ち上げました。社名は古代の中東地域で世界初の医薬品として使われたとされる「バルサムポプラの木(balm of Gilead)」から拝借しています。


新薬を開発する新興の製薬会社の例にもれず、創業後は資金調達に苦労します。1992年にナスダック市場に上場しますが、本格的に売上高を上げられない時期が続きました。


1996年12月期にようやく3300万ドルの売上高を計上し、その後は右肩上がりに増えていきます。約20年後の2015年12月期の売上高は100倍に当たる326億3900万ドルに達しました。


現在の主力製品はHIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症やウイルス性肝炎、新型コロナウイルス、がん、肺動脈性肺高血圧症などの治療薬です。特に感染症の治療薬が中心です。


中でも抗HIV治療薬の分野に強みを持ち、主力製品である「Biktarvy(ビクタルビ)」の2022年12月期の売上高は前年比20.5%増の103億9000万ドル。売上高は、ブロックバスターの基準とされる10億ドルの10倍以上に達しています。


HIV感染症の治療薬では「Genvoya(ゲンボイヤ」」や「Descovy(デシコビ)」、「Odefsey(オデフシィ)」などもブロックバスターです。この分野の治療薬の売上高は合わせて171億9400万ドル。2022年12月期の売上高の63%を占めています。



新型コロナウイルスの治療薬として日本で初めて承認された「Veklury(レムデシビル)」もギリアド・サイエンシズの製品です。2022年12月期の売上高は39億500万ドル。流行が下火になり始めたことで前年比で29.8%減りましたが、売上比率は14.3%に達しています。


このほかにC型肝炎とがんの治療薬で年間の売上高が10億ドルを超える製品があり、ブロックバスターは合わせて7種類です。


リジェネロン、世界大手と提携

リジェネロン・ファーマシューティカルズは1988年に創業しています。創業者は神経科医で、名門コーネル大学医学部の助教授だったレオナルド・シュライファー氏です。治療薬の対象となる主な分野は現在、眼疾患、アレルギー・炎症性疾患、がん、心血管疾患、代謝性疾患、感染症などです。



ナスダック市場への上場は1991年。フランスの医薬品大手、サノフィと早い段階で提携し、売上高を立てていましたが、米国食品医薬品局(FDA)に初の自社開発商品である再発性心膜炎の治療薬「Arcalyst」が承認されたのは2008年で、創業から実に20年を要しています。


サノフィとの親密な関係はいまも続いており、特にリジェネロンの技術プラットフォームを利用した抗体の研究開発に力を入れています。アトピー性皮膚炎や喘息の治療薬である「Dupixent(デュピクセント)」は両社が共同で開発し、リジェネロンの柱の1つになっています。


もう1つの柱は、加齢黄斑変性や糖尿病黄斑浮腫といった眼疾患の治療薬「EYLEA(アイリーア)」です。こちらは米国外での開発・販売でドイツの製薬大手、バイエルと提携しています。日本でもバイエルが販売を手掛け、あらかじめ決めた比率で利益を分配しているようです。


このほか「REGEN-COV(ロナプリーブ)」は新型コロナウイルス感染症の治療薬です。いろいろな抗体の中から効果が高いと判断された2種類の抗体を組み合わせる抗体カクテル療法に使用されました。



「ロナプリーブ」は2021年12月期に売上高が75億7400万ドルに達し、「デュピクセント」を上回りましたが、コロナが下火になったことで、2022年12月期には売上高が前年比76.6%減の17億7000万ドルにとどまっています。


ブロックバスターは合わせて3種類です。2022年12月期の売上高は「アイリーア」が前年比4.7%増の96億4700万ドル、「デュピクセント」が40.1%増の86億8100万ドルと圧倒的に大きく、事業の2本柱になっています。


IQVIA、製薬会社に支援サービス提供

IQVIAホールディングスは医薬品開発業務受託(CRO)のクインタイルズ・トランスナショナルと医療情報のIMSヘルスが合併し、2016年に誕生しました。クインタイルズの創業は1982年。ノースカロライナ大学の生物統計学の教授だったデニス・ギリングス氏が立ち上げました。IMSヘルスは医療データや情報技術(IT)の世界的な大手でした。


ライフサイエンス事業を手掛ける企業にサービスを提供するIQVIAホールディングスは、前身企業の強みを引き継いでいます。事業別では研究開発ソリューションが売上高の55.0%を占める最大の部門です(2022年12月期)。医薬品や医療機器の臨床試験をサポートするのが中核事業で、広範な支援サービスを提供します。顧客が質の高いデータやエビデンスを取得できるように支援し、当局による認可の獲得を手助けします。


技術&分析ソリューション部門は、クラウドを通じてソフトウエアを提供するSaaSサービスなどでライフサイエンス事業者の業務を支援します。豊富な医療関係データや独自のアルゴリズム、医療の専門知識などを駆使し、医療関係の分析やコンサルティングも手掛けています。この部門の売上比率は39.9%です。



営業受託・医療ソリューション部門は、マーケティングや営業の面でバイオ医薬品メーカーなどを支援します。前述の通り、バイオ医薬品の開発が成果を上げるまでには多大な労力が必要で、これまでに蓄積したノウハウなどを提供するビジネスです。売上比率は5.1%です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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