アニメカルチャー西軍とスポーツ東軍の「築地市場の戦い」

戦国の雄である徳川家康を放映する2023年の大河ドラマでは、天下分け目の関ケ原の戦いを終え家康率いる東軍が勝利し、江戸幕府を開きました。


約420年後、江戸から名前を変えた首都東京では、老朽化して移転した「台所跡」を巡り、熾烈なコンペが行われようとしています。両者はどちらも日本を代表する文化である、アニメカルチャー施設とスポーツ施設の対立の様相を示しています。



築地市場跡の活用方法が決まりつつある

2023年秋、東京都は中央区にある広大な築地市場跡地について再開発者を募集しました。公にはなっていないものの、複数の提案が出ているとされています。跡地の面積は約23ヘクタール。東京ドーム4個分に匹敵します。


1つはプロスポーツの競技場です。野球やバスケットボールの公式戦を想定し、さまざまな競技の開催が可能な多機能型の屋内施設を中心に、国際会議の開催を念頭に置いた施設が提案されたようです。老朽化している文京区の東京ドームからプロ野球の読売ジャイアンツが本拠地を移すという見方もあります。


実際に提案者には、ジャイアンツのオーナーである読売新聞社が含まれているようです。東京ドームと東京国際フォーラムのイメージでしょうか。日本では大型土地を表現するときに東京ドームを引き合いに出します。先ほど本記事でも使いましたが、まさに東京ドームが再び建設される可能性があります。



もうひとつは日本のアニメやゲーム、マンガに特化したエンターテイメント施設として、2万8000人を収容、展示会やコンサートなどの開催が可能な多目的ホールやホテルなどを整備するとしています。定期的に物凄い数の愛好者が集まる東京ビックサイトのイメージでしょうか。


アニメやマンガは日本の確立した文化であり、これらを目的に日本を訪れる外国からの観光客もとても多いです。日本の得意とするコンテンツビジネスへの応用が期待されます。東京ビックサイトは箱のため、常設的にこのような施設があれば、応用力も段違いでしょう。


2024年3月に東京都は専門家の見解を聞いたうえで、業者選定に結論を出すといわれています。


投資家はどちらの案に期待できるか

さて、本メディアの主要な読者である個人投資家は、どちらの案に期待できるのでしょうか。おそらく採用された案の関連企業は一時的に株価上昇が期待できるため、どちらの案が優位か議論してもいいかもしれません。また、落選した案も無に還るわけではなく、最終選考者として日本が誇る文化であることが再証明されます。決して関ケ原の戦いのように、敗者が反逆者として語られるものではありません。


今回の結果が本当に3月までわからないのか、出所不明の観測気球として2024年の年明け前後に報じられるかはわかりませんが、このようなインフラ施策は織り込み済みになりがちです。


今回の築地跡地の活用も「何が来るかわからない」ではなく、スポーツかアニメかの2択が示されています。かつ大多数の投資家にとって、どの銘柄や投資信託が影響を受けそうかが容易に想像できます。もしかしたら現時点の最終選考の段階で株価への影響は完了しており、活用業者決定の折には何も相場面での物音が鳴らないかもしれません。



今後の日本に起こりがちな「二者択一」

今回のコンペを関ケ原の戦いに見立てたのは、もうひとつの理由があります。昨今の税制負担のニュースなどでも感じますが、日本の国力が減退していくなかで、どの分野に力を注ぐのかの二者択一が増えていくのではないかという論点です。今回のような投資もあれば、税制の恩恵をどの世代にするかという話もあるでしょう。


海の向こうから聞こえてくる活力盛んな国であれば、方向性の異なる双方にどちらも投資をするか、こちらを優先的にという優先順位をつける形で対応できることもあるでしょう。今後の日本には、そこまでの余裕が無くなっていくのではないかという恐れがあります。政治家にとって票になる方、という一部のSNSのように尖った意見を述べるつもりはありませんが、二者択一のような状況は増えていくことでしょう。


今回の跡地の話も一端が見えます。築地の跡地にどちらかの建設が決まったとして、落選した方が別の土地に建設される可能性があるのでしょうか。もし可能性があるのであれば、築地市場の戦いは銀座近くの好立地を取りにいくためのもので、建設の実現如何とは話が多少異なってきます。


今後日本各地で、若しくは日本人同士によるインターネットの世界で発生した二者択一を選ばなければいけないとしたら、自分たちだけではなく世の中にとって何が最善なのかを考えていきたいものです。それが日本の場合もあれば、世界の場合もあることを、最近のニュースを見て特に実感します。

独立型ファイナンシャルプランナー

工藤 崇

株式会社FP-MYS 代表取締役 1982年北海道生まれ。相続×Fintechサービス「レタプラ」開発・運営。2022年夏より金融教育のプロダクト提供。上場企業の多数の執筆・セミナー講師の実績を有する独立型ファイナンシャルプランナー(FP)。

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