日本における少子高齢化が深刻です。2023年9月に発表された令和4年の人口動態統計によると、令和4年の合計特殊出生率は1.26で過去最低、出生数も770,759人と、7年連続で減少となりました。国も地方自治体も少子高齢化対策を優先課題とし、積極的に取り組んでいます。
生命保険料控除の拡大と東京都運営のマッチングサイトの印象の違い
今回ほぼタイミングを同じくして、国(政府・与党)は子育て世帯における生命保険料控除の拡大を打ち出し、一方の東京都は婚姻数の増加を目的として、行政が独自のマッチングアプリを2024年に提供開始するというニュースがそれぞれ報じられました。東京都の取り組みは18歳以上で東京都内に在住、または在勤・在学の男女が利用できる仕組みのようです。実際の運営はノウハウを蓄積した専門業者が請け負う方向性となっています。
筆者は当初、どちらも否定意見が目立つことになるだろうと実感しました。生命保険料の控除拡大は生命保険会社の売上を促進する結果となり、マッチングアプリは民間のサービサーが運営業務を独占できることになるためです。〇〇の売上が上がるだけでは!という意見が目立つのではと懸念しました。
ただ、意外にも2つの施策は異なる受け止め方がされています。前者が特定の業界への恩恵を目的としているという意見が目立つ一方、後者は民間のマッチングサービスが印象として及ばない「信頼感」を担保しているのではという評価があるためです。
どの程度の「独身証明書」を必須とできるかが鍵か
前提として国と東京都に対する支持率の違いは考慮しなければなりません。低支持率にあえぐ政府と、比較的落ち着いている東京都では施策に対する物差しが異なるため、同じ定規では測れないものです。
それを前提として考察すると、東京都のマッチングアプリをめぐる肯定的な意見は、民間の業者が出すサービスの欠点を補完するのでは?と期待されているものといえます。
マッチングアプリサービスの向き合う本人証明のハードル
民間のマッチングサービスが最も懸念しているのは既婚者の利用です。各社のサービスで本人確認が行われているため、未成年者や年齢詐称のリスクはありません(他人の免許証提示などの悪質なものは考えないものとします)。ただ、その利用者が本当に独身かを判断することはできません。強いてできるのは、利用者の氏名をSNSで調べ、本当に既婚者ではないのかチェックをするぐらいでしょう。
今回、東京都のマッチングアプリが評価されているのは、独身証明書の義務化です。行政が独身であることを証明することができれば、少なくとも既婚者が紛れ込むリスクは著しく少なくなります。更に波及効果として勧誘、身体の関係のみを目的とした利用などのリスクも減ることでしょう。問題は、独身証明書がどの程度のものを必須とするかです。
戸籍による独身証明か、単なる自己申告か
たとえば独身証明に戸籍の提出を必須とするサービスが実現できたとしましょう。ほとんどの既婚者は配偶者と戸籍で繋がっているため、嘘の申告はできません。問題は2023年現在、戸籍は本籍地まで取りにいかなければならないことです。マッチングアプリを利用するのに、現居住地とは離れているところに取りに行くという動機がどこまで生まれるかは不透明です。利用者数を抑制することにも繋がります。
マイナンバーカードによって最寄りのコンビニエンスストアでも取得できる住民票では、既婚・未婚の判別はできません。やはり戸籍を取りに行く必要があります。現在、日常生活で戸籍を意識するのは結婚時か、相続の時と限定的です。ここにマッチングアプリの利用という、明らかに異質なものを組み込むことができるか、東京都の実行力が試されるのではないでしょうか。
なお、ハードルを思い切り下げて自己申告とした場合、公的なマッチングアプリに期待する本人証明を期待することは難しくなります。ユーザビリティを追求する民間サービスのなかで、埋没する危険性すら高いものといえるでしょう。今回はスタート時点から民間に委託することが決まっているため、あまり本人確認に労力がかけられず、「東京都が作成したサービスだから安心でしょ!」という力技で提供されるような気もします。残念ながら、昨今のアプリユーザーはそこまで単純ではないどころか、各社のサービスを徹底的に吟味するシビアな視点の持ち主です。
今回はマッチングアプリですが、今後は様々な形で行政が社会課題の解決を掲げ、ノウハウを蓄積した民間業者が代行する形が増えていくことでしょう。ただ、行政だからこそできる点、もとい行政だからこそ必ず実装しなければならない点を見逃して、最初だけ話題となるサービスとなって欲しくはないと思います。今回のマッチングアプリは、2024年度に提供を開始します。