投資や資産運用をめぐる情報発信は一方通行です。NISA新制度にしろ、不動産投資にしろ、個人投資家はさまざまな情報を取捨選別しています。そのなかに資産を引き上げる投資方法があるからです。
一方で平成・令和と情報の発出場所として存在感が著しく上昇したのがSNSです。特にX(旧Twitter)は、匿名アカウントによる断定口調の話が無限に溢れています。その話は本当なのか。無防備に信じるならば私も投稿者のような利益が享受できるのか。迷う昨今の個人投資家にとって頼りとなるのが、X社の運用するコミュニティノートです。
コミュニティノートとは?
コミュニティノートは、意見の隔たりが強く断定口調の、いわば誤解を招く可能性があるポストが対象です。そのような投稿に投稿者以外のXユーザーが協力して役に立つノートを追加できるようにすることで、情報の修正や正確性の担保を行うものです。
たとえばある投資信託の基準価格の推移が上下幅が少なく、堅調な横ばいで推移しているとしましょう。特定のXユーザーが「この銘柄は上下幅が大きいので売買のタイミングが難しい」と書いたとします。その銘柄の価格推移を見切って利益を出した自分は凄いだろうという自己顕示欲をともなった投稿です。それを見たほかのユーザーが、コミュニティノートを使って投稿に追加をします。
「この銘柄は過去1年、〇円から〇円のなかで推移している。そのため投稿の表現は誤っている」という指摘です。これはX社が開発したAIが入力しているわけでも、数あるバックデータから選抜しているものでもありません。ノートの作成と評価を志願してコミュニティノートに登録した、通常のXユーザーが入力しています。筆者はこの話を聞いた当初、「まさかの人力なんですか?」と素っ頓狂な声を上げていました。
「役に立つ」と評価されたノートだけがポストに表示される
もちろんすべてのコミュニティーノートの投稿がポストに紐つくわけではなく、選抜された投稿が元々のポストと併記されます。コミュニティノートは元々のポストの間違いを糾弾し、正解を示す機能ではありません。Xの閲覧者に両論併記し、どちらを信じるかは閲覧者であるあなたに任せるよ!という機能です。
先に記載した投稿も、基準価格の価格幅が大きいか、それとも小さいのかは投稿者の主観に依るところが大きいものです。語気の強い主張が競いあう昨今のSNSにおいて、コミュニティノートは両論併記という新しい価値観を提供しました。とても革命的なことです。
この機能があれば、Xの閲覧者はコミュニティノートの付帯に「この人の言っていることは本当かな」と疑問を持ち、ファイナンスの情報を自分で調べにいくかもしれません。数多くの情報のなかの、特に匿名ではなく実名で責任を持った発言に信頼感を持つかもしれません。それがコミュニティーノートの設置意義であり、X社の狙いなのではないでしょうか。
上手くいった投資家が情報発信をする意味はない
株式投資のアルゴリズムを組成し、実際に利益を得た個人投資家が第三者にノウハウを提供することのメリットはありません。そのノウハウを活用して第三者が利益を得ても、情報を発信した当人には何もメリットが無いためです。強いているならば、将来的に株式投資のアドバイザー事業を目指しており、実績づくりのためノウハウを提供しているということぐらいでしょうか。
そう考えるとXで成功譚を語る投資家は、自己掲示欲を満たすためか、または何かしらの目的があって投稿をしていると考えるのが自然です。ならば閲覧者である投資家は、その発信を鵜呑みにせず、正確性を確かめたうえで自身の資産運用に役立つ部分だけを抜き出せばいいと思います。それがSNSから情報を受けるとき、最も難しい作業ではあるのですが。
個人投資家は是正されるSNSとどう付き合うべきか
革新的な発明や取組みはハレーションを生みながらも是正され、いつしか人々の「生活インフラ」となっていきます。X(旧Twitter)は短い文章量というコンパクト性と、匿名で次々と投稿できる気軽さが日本人好みとされ、あたらしくオーナーとなったイーロン・マスクも日本市場を重視する発言を繰り返したほどです。
個人投資家においては、SNS上の成功譚は真実性を期待せずに受け入れることをお勧めします。いわゆる実名で担保されたツールでの発信ならば別ですが、Xのように匿名ならば、好き放題なことを書くことができるためです。
かつ今回のコミュニティノートのように正確性を担保するツールが追加で提供されたなら、自分の大切な資産を保全する情報管理として、十二分に活用するようにしたいものです。様々な主観が入りますが、結局のところ株式投資は「見えざる手」によって左右されています。この手は見えないわけではなく、様々な投資家の意志があいまみれ、規則性が説明できなくなった状況を指す、と筆者は考えています。
その情報が誰かの一方的な考えによって発信されている情報なのか、それともさまざまな視点によって「揉まれている」情報なのか。個人投資家としての資産の行き末を決める決断に大きな影響をおよぼすツールが注目されています。