経済ニュースによると、2023年日本の上場企業の自社株買いが約9.6兆円と2年連続で過去最高になりました。
しかし、そもそも「なぜ企業が自社株買いをするのか?」「自社株買いをするとどのような影響が出るのか?」と疑問に感じる人もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では企業が自社株買いをする理由を解説しつつ、株価への影響についてわかりやすく説明します。ぜひ参考にしてみてください。
なぜ企業は自社株買いをするのか?
自社株買いは配当金とならぶ株主還元手段の1つであり、自社の発行株式を買い戻す行為のことです。企業のなかには事業を運営する際に多くの収益をあげ、設備・人材・新規事業などへ投資してもお金が余るケースがあります。
しかし、低金利である銀行預金で運用していると、株主から「余剰資金を事業投資へ使いなさい。使わないお金があるなら株主へ還元しなさい」と圧力がかかります。そこで発行済みの自社株を購入する流れに至るわけです。
株式会社は株式を発行して投資家に買ってもらうことで資金調達していますが、自社株買いをして株式の流通を減らすと株価への上昇圧力がかかります。
アメリカではApple・Amazon・Metaなどテック企業を中心に、多額の資金を投入して自社株買いを実施しています。また、2023年に自社株買いを実施した上位企業の代表例は、以下のとおりです。
参照元:TradingView
株主還元以外に企業が自社株買いをするケースとして、ストックオプション(役員などへ自社株を購入できる権利)や敵対的買収への対策などがあります。
自社株買いをするとなぜ株価に影響するのかをわかりやすく解説
自社株買いをすると株価は値上がりしますが、なぜこのような影響が出るのかについて理解しやすくするため極端な例を出して解説します。
企業Aの株式1000株が市場にあると仮定します。投資家Bが20%を所持して残りの80%をほかの株主や市場で保有していたら、全体株式は1000株のままです。
そこで企業Aが自社株買いによって全体の50%を自社株買いすると、全体の株式は500株に減り投資家Bの保有比率は40%に上昇しました。企業Aは現金を使って購入するため、企業価値は変わらずに投資家Bは株の保有比率を増やした計算です。
今後は配当の比率が高まり理屈的にも株価は上がりやすくなります。さらに投資家から買い注文が入りやすくなる原理については次章で解説します。
自社株買いによって投資家から買い注文が入りやすくなる
自社株買いによってなぜ投資家から買い注文が入りやすくなるかについて、具体的な評価指標を用いて解説します。
1株あたりの純利益を示す指標にEPSがあり「当期純利益 ÷ 発行済株式」から求められます。当期純利益1,000万円の企業に対して10万株・9万株のときのEPSの数値は以下のとおりです。
・1,000万円÷10万株=100円
・1,000万円÷9万株=約111円
全体株数が少なくなるほうが1株あたりの価値が高くなる計算です。
また株価の割安・割高を測る指標としてPER(株価収益率)があり「株価÷1株あたりの純利益(EPS)」から求められます。一般的にPERが高いと割高であり、低ければ割安と判断されます。さきほどの例にあてはめて株価3,000円のときのPERは以下のとおりです。
・10万株のPER:3,000円(株価)÷100円(EPS)=30倍
・9万株のPER:3,000円(株価)÷111円(EPS)=約27倍
1万株の自社株買いを行ったほうがPER=27倍と割安に判断され、投資家から買い注文が入りやすくなる仕組みです。
ほかにも企業の収益性をはかる指標のROEが向上し、投資家から好材料と判断される側面があります。ROEは「当期純利益÷自己資本×100」から求められ、数値が高いほど効率よく利益をあげている目安として使われます。
さきほどの例にあてはめて、当期純利益1,000万円・自己資本1億に設定したときの計算結果は以下のとおりです。
・10万株のROE:1000万円÷1億×100=10%
・9万株のROE:1000万円÷(1億-3,000万円:1万株取得にかかった金額)×100=約14.29%
自社株買いをしたほうは約4.29%のROEが向上したため、投資家からみて魅力的な株と判断されます。
上記で説明したとおり、自社株買いによって株価指標が改善されるため、投資家から買い注文が入り、株価が上昇しやすくなる背景があります。
自社株買いが発表されたときの注意点
自社株買いは投資家にとって好材料に違いはありません。しかし、発表された直後に株価が上昇したあと、利益確定のための売りが増えるケースもあり、価格が急激に下落する可能性があります。
自社株買いのニュースが入ったあとは、さきほど説明したPERを確認してみて、現在の株価が適切か慎重に判断しましょう。