【米国株インサイト】水素セクター(後編):水素にビジネスチャンス、民間企業も相次ぎ挑戦

世界的に二酸化炭素排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを実現する流れが強まる中、先進各国は水素の活用に取り組んでいます。日米欧が政府主導で水素利用を推進するという流れは関連の企業にとって大きなビジネスチャンスです。


前回は産業ガスの世界的な大手、エアープロダクツ&ケミカルズ(APD)がサウジアラビアなどで推進するプロジェクトを取り上げました。今回は石油メジャーのシェブロン(CVX)、自動車部品のカミンズ(CMI)、燃料電池開発のバラード・パワー・システムズ(BLDP)、定置型燃料電池システムのブルーム・エナジー(BE)をご紹介します。


シェブロン、世界最大級の貯蔵施設事業を傘下に

シェブロンは石油・ガスの探査や開発、生産という川上から、精製や加工などの川中、そしてガソリンスタンドを通じた石油製品の販売という川下まで一貫して手掛けるスーパーメジャーです。世界の潮流がカーボンニュートラルに向かう中で、石油大手も温室効果ガスの排出抑制に取り組む必要に迫られています。


シェブロンは戦略としてカーボン排出量が少ない事業に重点を置く方針を示しています。2021年には低炭素ソリューションに焦点を当てた新部門「シェブロン・ニュー・エナジーズ」を創設しました。再生可能燃料や二酸化炭素の回収・貯留などに取り組む意向を示しており、水素事業も戦略的な分野に位置づけています。



2023年9月には、再生可能エネルギーで製造した水素の貯蔵施設を建設するACESデルタの株式の過半数を取得したと発表しました。買収額は明らかにしていません。ACESデルタは三菱重工グループと米マグナム・デベロップメントの合弁会社です。米国のユタ州に世界最大級の貯蔵施設を建設しており、2025年にも稼働を始める予定です。


このほかにも岩谷産業と水素ステーションを共同で整備する計画で合意しています。2026年までにカリフォルニア州で30カ所の水素ステーションを建設する方針です。


さらにクリーン水素の製造技術の開発に取り組むカナダのオーロラ・ハイドロゲンに出資するほか、後にご紹介するカミンズ(CMI)のほか、ハイゾン・モーターズ(HYZN)と水素分野で業務提携するなど資金力や知名度を武器に手広く水素ビジネスを始動させています。



シェブロンは現在、自社で年間約100万トンの水素を製造していますが、もちろんグリーン水素ではありません。将来的には水素の外販も手掛ける方針で、「ブルー水素」や「グリーン水素」をどの程度供給できるかが焦点になりそうです。


カミンズ、グリーン水素を製造する電解槽を開発

カミンズはトラックやバスなど商用車用向けを中心に自動車部品を開発、製造しています。主力はディーゼルエンジンや天然ガスエンジンで、トラックメーカーなどに提供しています。このほか排気ソリューション、動力伝達システム、燃料システムなどの自動車部品も製造。発電機メーカーとしても世界有数です。


自動車部品メーカーにも脱炭素化の波は押し寄せており、カミンズはニューパワー部門というセグメントを設けて車載電池や燃料電池を含む部品、サブシステムの開発を進めています。この部門では「アチェレラ」というブランドで事業を展開。水素ビジネスにも積極的で、電解槽の開発を推進し、成長が見込まれるグリーン水素市場への進出を目指します。



前述のシェブロンとの提携では2023年8月に覚書を交わしています。水素や天然ガスといった低炭素燃料の製造、輸送、供給の商業化で協力するのが骨子です。両社は2021年に水素ビジネスの商業化に向けて戦略提携することで合意しており、協力関係をさらに深める意向です。


一方、水素ビジネスの技術を生かした設備の建設にも乗り出しており、2023年にはカナダの事業者向けにグリーン水素を製造する電解槽を提供すると発表しました。1日当たりの製造能力は90トンで、ごみ処理で生成した電力を使い、水素を製造します。2025年にも稼働する予定です。


バラード・パワー・システムズ、固体高分子型燃料電池のパイオニア

バラード・パワー・システムズは燃料電池の開発や製造を手掛けるカナダ企業で、1983年に固体高分子型燃料電池の開発を始めたパイオニア的な存在です。さまざまな用途に対応する製品を開発しており、トラックやバス、鉄道、船舶などに使用する燃料電池をはじめ、発電用やバックアップ用電源として利用する定置型燃料電池も主力製品です。


また、燃料電池セルを積み重ねたスタックも製造し、自動車メーカーなどに提供しています。固体高分子型燃料電池に関するエンジニアリング、技術、ライセンスといった技術ソリューションの提供や関連の知的財産権の販売も手掛けています。



バラード・パワー・システムズは製品や技術を世界で販売しており、2022年12月期の地域別売上比率は米国が全体の約29%でトップ、2位は約16%のドイツです。ドイツ企業と積極的に協力しており、2020年にはドイツの自動車部品メーカーと商用車用燃料電池の開発で提携。2021年には商用車の電動化などを手掛けるクアントロンと戦略提携すると発表し、2023年にはトラックの燃料電池車を完成させるなど提携が実を結びつつあるようです。


ブルーム・エナジー、定置型の燃料電池システムを開発

以前にマイクロソフト(MSFT)のサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)やアルファベット(GOOGL)のスンダル・ピチャイCEO、IBM(IBM)のアービンド・クリシュナ氏CEOなどが南インド出身とお伝えしましたが、ブルーム・エナジーのシュリダールCEOも同様です。アルファベットのスンダル・ピチャイ氏と同じタミルナドゥ州で生まれました。


ブルーム・エナジーは固体酸化物形燃料電池技術を用いた定置型の燃料電池システム「ブルーム・エナジー・サーバー」を開発しています。顧客の敷地内に設置するオンサイトの分散型電源です。燃料としてバイオガスや都市ガスを使いますが、燃料を燃やすのではなく、化学反応を利用したクリーンな発電方式を採用しています。


一方、水素を製造する電解槽の「ブルーム・エナジー・エレクトロライザー」も提供しています。より少ない電力で水素を生成できるのが特徴です。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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