【米国株インサイト】宇宙開発セクター(後編):宇宙開発事業の御三家!?老舗企業も奮闘

米航空宇宙局(NASA)は月面探査・開発を目指す「アルテミス計画」を主導しています。第1段階(アルテミス1)として2022年11-12月に月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションに成功しており、2025年9月以降に実施する第2段階(アルテミス2)では月の周回軌道に有人の宇宙船を投入する予定です。また、第3段階(アルテミス3)では宇宙飛行士の月面着陸を目指します。



NASA主導の宇宙探査が進む一方、民間の宇宙関連ビジネスも活気づいています。前回は新興企業であるロケット・ラブUSA(RKLB)とヴァージン・ギャラクティック・ホールディングス(SPCE)をご紹介しました。今回は宇宙開発ビジネスの御三家ともいえそうなボーイング(BA)、ロッキード・マーチン(LMT)、そしてノースロップ・グラマン(NOC)を取り上げます。


ボーイング、宇宙ビジネスで豊富な実績

ボーイングは宇宙分野のビジネスで長い伝統を持つ企業です。1960-70年代のアポロ計画にも参加しており、宇宙船の打ち上げに使った多段式ロケットの第1段の部分はボーイングの工場で製造されています。


1980年代にNASAが始めたスペースシャトル計画でも単独または共同出資会社を通じて参画。約30年におよぶスペースシャトルの運用期間に数多くの契約を獲得しています。特にロッキード・マーチンと折半出資した共同出資会社のユナイテッド・スペース・アライアンスはNASAと運航契約を結ぶなどスペースシャトル計画で重要な役割を担いました。


ロッキード・マーチンとは、スペースシャトル計画が終盤を迎えた2006年に共同出資会社のユナイテッド・ローンチ・アライアンスを稼働させています。宇宙船や人工衛星を打ち上げるサービスを手掛けており、NASAや米国防総省などが顧客です。イーロン・マスク氏が率いるスペースXとはライバル関係にあります。


ボーイングはまた、大型ロケットのスペース・ローンチ・システムをNASAと共同で開発しています。地球から比較的距離が近い低軌道に人工衛星などを飛ばすロケットとは異なり、有人月探査やその先の火星探査を視野に入れて開発されています。


実際、NASAが主導するアルテミス計画の第1段階(2022年11-12月)では月の周回軌道に無人宇宙船を投入するミッションにスペース・ローンチ・システムが使われ、打ち上げに成功しています。


ボーイングはロケットだけでなく、宇宙船のスターライナー(CST-100 Starliner)も開発しています。NASAのコマーシャルクループログラム(商業乗員輸送計画)に基づき開発が始まったカプセル型の有人宇宙船で、国際宇宙ステーション(ISS)に宇宙飛行士を輸送する役割を担います。すでに無人の飛行試験に成功しており、有人の試験や実際の運用に向けた準備を進めている段階です。



NASAや国防総省との契約で培った技術を民生用にも活用しています。民間用の人工衛星の開発に加え、衛星通信サービスなども提供しています。


ただ、業績面では宇宙ビジネスの全容がはっきりしません。セグメント上で宇宙ビジネスは防衛・宇宙・セキュリティー部門に分類されていますが、国防というデリケートな分野を含むからなのか、詳細は明らかになっていません。


2023年12月期決算では防衛・宇宙・セキュリティー部門の売上高が前年同期比7.6%増の249億3300万ドル、営業損失が17億6400万ドル(前年同期は35億4400万ドルの営業損失)でした。防衛にしろ宇宙開発にしろ米国政府などと結ぶ長期契約が多いため、個別案件の売上高の計上時期などは契約の進捗状況の影響を受けるとみられます。


ロッキード・マーチン、「米国版はやぶさ」を開発

ロッキード・マーチンは宇宙開発ビジネスで米国を代表する企業の一つです。ボーイングは旅客機の開発・製造なども手掛けていますが、ロッキード・マーチンは軍用機など防衛分野の比重が大きいのが特徴です。


宇宙関連ビジネスの実績も豊富で、前述のようにボーイングとの共同出資会社のユナイテッド・スペース・アライアンスはスペースシャトル計画で重要な役割を担いました。宇宙船や人工衛星を打ち上げるユナイテッド・ローンチ・アライアンスもボーイングとの共同出資事業として展開しています。


NASAとも緊密に協力しており、共同で開発した探査機には「米国版はやぶさ」とも呼ばれる「オサイリス・レックス」があります。オサイリス・レックスは、小惑星のベンヌを探査して土砂などの試料を採取し、地球に投下する任務を与えられました。2016年9月に打ち上げられ、7年後の2023年9月に試料が入っていたとみられるカプセルを米国内に投下しています。


もちろんアルテミス計画でも重要な役割を担っています。計画で使われる宇宙船「オリオン」を開発しており、2022年11-12月には月周回軌道に投入する無人飛行(アルテミス1)が行われました。2025年9月以降に実施されるアルテミス2では有人飛行に使われる予定です。



さらに有人月面着陸に挑む「アルテミス3」以降で使用する月面探査車の開発もロッキード・マーチンが手掛けています。自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)と共同で開発に乗り出しています。


このほかにも全地球測位システム(GPS)に使われる人工衛星や気象衛星の「GOES-R」シリーズを開発するなど多角的に宇宙関連事業を手掛けています。


ロッキード・マーチンは決算報告書で、航空部門、ミサイル・武器制御部門、ロータリー・ミッション・システム部門、宇宙部門に事業を分類しています。2023年12月期決算の宇宙部門の売上高は前年比9.3%増の126億500万ドル、営業利益は9.6%増の11億5800万ドルでした。売上高全体の約19%、営業利益の16%を占めています。


ノースロップ・グラマン、アポロの月面着陸船を製造

ノースロップ・グラマンは米国の宇宙探査事業への貢献度で、ロッキード・マーチンやボーイングと比較されうる実績を持つ企業です。合併前のグラマンはアポロ計画にも参画しており、アポロ11号で初めて人類が月に降り立ったときの月面着陸船「イーグル」を製造しています。4本足の特徴ある月面着陸船です。


防衛分野の比重が高い企業だけに宇宙空間のミサイル防衛システムや監視衛星、通信衛星などの開発や製造といった事業も手掛けています。もちろんNASAとの契約も多く、国際宇宙ステーション(ISS)に物資を運ぶ補給船「シグナス」を開発・製造しています。また、シグナスの打ち上げに使う中型ロケット「アンタレス」もノースロップ・グラマンが開発し、運用しています。



アルテミス計画では月の周回軌道に無人宇宙船を投入する第1段階のミッションで、スペース・ローンチ・システムのロケットが使われましたが、打ち上げ時にはノースロップ・グラマンの固体燃料ロケット・ブースターで推進力を加えました。さらにロッキード・マーチンが開発した宇宙船「オリオン」の緊急脱出システムに組み込む固体燃料ロケットエンジンも製造しています。


国防総省やNASAなどとの取引で培った技術を生かし、商用の通信衛星なども開発しています。2023年12月期決算では宇宙システム部門の売上高が前年同期比13.6%増の139億4600万ドル、営業利益は4.7%増の12億1200万ドルでした。全体に占める割合はそれぞれ35%、48%です。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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