中国株への投資を始めてみたいけど、どんな銘柄に投資していいか分からない――。そんな場合は、香港市場を代表する株価指数であるハンセン指数の構成銘柄の中から探してみるのが基本中の基本。ハンセン指数に選ばれる銘柄の中には、世界的な大企業もあれば、個性的で魅力的な銘柄もたくさん集まっています。このシリーズでは、香港市場の主要銘柄をハンセン指数の構成銘柄の中から選んで紹介していきます。今回もBYD(比亜迪:01211/002594)の続きです。
▼参考
・意外と身近にある中国株、街中で探してみた(5) 電気自動車の王者BYD、日本で販売台数を伸ばす「夢を実現する会社」
・中国株の銘柄選び 中国株ビギナーがまず選ぶのはこれ!ハンセン指数は基本中の基本
どん底に陥った2012年、メディアからは「負け組」のらく印
2010年、BYDは「ディーラーの反乱」という未曾有の危機に直面していました。急進的な拡大路線のツケが回り、販売網が崩壊。自動車事業は長い停滞期に入ります。さらに、iPhoneの台頭によるスマートフォンへのシフトが追い打ちをかけます。従来型携帯電話で天下を取っていたノキアなどの受託製造を請け負っていた傘下のBYDエレクトロニック(00285)も、主要顧客の苦戦により業績が急悪化。2本柱である自動車と組み立て業務が同時に失速し、2010年から3年連続で2桁減益という泥沼に陥ります。2012年には純利益が前年比94%減の8100万元と、赤字転落寸前まで追い込まれ、メディアからは「負け組」のらく印を押されました。

しかし、市場の冷ややかな評価をよそに、王伝福会長は静かに反撃の準備を進めていました。「調整期」と定めた2011年からの3年間、BYDは品質向上と販売店との信頼回復に注力します。まさに臥薪嘗胆。そして復活の旗印として打ち出したのが、そして、王伝福会長は復活に向けた戦略として、「電池メーカー」としての原点に立ち返った、徹底的な電気自動車(EV)へのシフトでした。
三元系ではなく「LFP電池」にこだわった王伝福会長の勝算
BYDはもともとバッテリー事業からスタートした企業です。王会長は、当時多くのメーカーがエネルギー密度を優先して「三元系電池(ニッケル・マンガン・コバルトなどを用いる電池)」へ流れるなか、一貫して「リン酸鉄リチウム電池(LFP)」にこだわり続けました。コスト、寿命、そして何より安全性においてLFPこそがEVの主流になると確信していたのです。以前から掲げていた「ガソリン車」「ハイブリッド車」「EV」の三大戦略のうち、前二者はあくまでEV普及までの過渡期と再定義。2010年にLFP電池を搭載した「E6」や「F3DM」を投入した際も、その先にある「純粋なEVの時代」を確信していました。
その揺るぎない自信の背景には、中国の国家安全保障に対する鋭い洞察がありました。石油の海外依存度が高く、マラッカ海峡という地政学的なボトルネックを抱える中国にとって、ガソリン車からの脱却は至上命題です。王会長は、安全保障と深刻な大気汚染という2つの課題を解決するため、政府が必ず「新エネルギー車(NEV)」の普及に動くと読み切っていたのです。

リン酸鉄リチウム電池(LFP)がEVの主流になると確信
毛沢東に倣う「農村から都市を包囲する」EV普及戦略
その読み通り、中国政府は2010年に新エネルギー車を戦略的新興産業に指定。その後の5カ年計画でも一貫して重点分野に据えました。ただ、当時の消費者が個人でEVを買うには、航続距離や価格の壁が高すぎました。そこで王会長が採用したのが、かつて毛沢東が唱えた「農村から都市を包囲する」戦略のEV版です。まずは政府の影響力が強いバスやタクシーといった公共交通分野を「外周」として攻略し、そこで技術と信頼を蓄積してから、本丸である個人向け市場へ攻め込むという戦略です。

BYDは公共交通からの包囲網を築く戦略を採用する
ただ、この時点で実際に消費者が新エネルギー車を購入するには、航続距離や安全性の面でまだハードルが高いのも事実。そこで王伝福会長は、まずバスやタクシーなど政府の影響が大きい公共交通分野から市場を開拓し、力を蓄えた後に個人向けの新エネルギー車市場を攻略する戦略を採用します。かつて毛沢東も使った「農村から都市を包囲する」戦略です。新エネルギー車を戦略産業と位置づけた政府が率先して導入してくれると踏んだのです。
2010年、自社製LFP電池を積んだ大型電動バス「K9」が完成。本拠地・深セン市がこれに応え、導入を全面的に支援しました。この官民一体の取り組みにより、深セン市は2017年に公共バス、2018年にはタクシーの完全電動化という世界初の快挙を成し遂げます。
電池メーカーとしての誇りと、国家の進むべき道を先読みする眼力。この二つを武器に、BYDは公共交通という周辺市場で着々と足場を固めていきました。この時期の執念ともいえるLFP電池へのこだわりが、のちに同社の運命を大きく変える強力な原動力となっていくのです。
次回もBYDの続きです。お楽しみに。
まとめ:今回紹介した香港市場の主要銘柄
今回紹介した銘柄は、主に自動車と電池を手掛けるBYD(01211/002594)と傘下で電子機器受託製造(EMS)業者を手掛けるBYDエレクトロニック(00285)の2社で、BYDは香港証券取引所メインボードと深セン証券取引所A株市場に重複上場。BYDエレクトロニックは香港証券取引所メインボードに単独上場しています。
【中国の自動車・電池メーカー】電池を祖業とし、03年に自動車事業に参入。22年3月にガソリン車の生産から撤退し、純電気自動車とプラグインハイブリッド車に完全シフトした。自社開発のリン酸鉄リチウム系の「ブレードバッテリー」は米テスラなどにも供給。都市軌道交通事業も手掛ける。子会社のBYDエレクトロニック(00285)を通じてスマホや電子機器の受託製造サービスも展開。米著名投資家のバフェット氏の出資で脚光を浴びた。
【中国の電子機器受託製造業者】電子機器受託製造(EMS)業者として部品製造や組み立てを請け負う。親会社のBYD(01211)が大口顧客。電子・IT、AI、5G、IoT、熱管理、新素材、精密金型、デジタル製造といった技術を強みに、製品ソリューションを一括提供する。事業分野はスマートフォン、新エネルギー車、AIデータセンター、スマートホーム、ゲーム機器、ドローン、3Dプリンター、IoT機器、ロボットなど。





