【米国IPO銘柄の横顔】アステラ・ラボ(ALAB):AIインフラに不可欠な接続ソリューションを開発

米国市場で2023年9月中旬から大型の新規株式公開(IPO)が相次ぎました。半導体設計大手の英アーム・ホールディングス(ARM)、食品宅配サービスの「インスタカート」を運営するメープルベア(CART)、マーケット支援のクラビヨ(KVYO)、ドイツのフットウエアメーカーのビルケンシュトック・ホールディング(BIRK)などが上場しています。


アームやメープルベア、ビルケンシュトックなどは公開価格に比べて株価が上昇していますが、米国市場ではその後、大型のIPOが再び沈黙してしまいました。金融政策動向を見極めるという思惑も働いたようですが、2024年3月になるとようやく風向きも変わり、比較的大型のIPOが実現しています。


それがチップメーカーのアステラ・ラボ(ALAB)とSNSを運営するレディット(RDDT)です。今回は3月20日にナスダック市場に上場したアステラ・ラボをご紹介します。


テキサス・インスツルメンツ出身の3人が創業

アステラ・ラボは、クラウド&人工知能(AI)インフラストラクチャーにおける半導体ベースの接続ソリューションを開発し、提供しています。AIや機械学習の進化のスピードに接続能力が追いつけず、停滞を引き起こしていた点に着目し、解決に乗り出したのです。


創業は2017年です。半導体大手のテキサス・インスツルメンツ(TXN)の同僚だったジテンドラ・モハン氏ら3人がデータセンターでの遅延を解消するためのチップを開発することを思い立ち、起業に踏み切ったのが出発点です。


3人はそろって起業の未経験者でした。半導体開発のスタートアップは通常、AIを活用したスマートチップの開発に乗り出すケースが多く、華やかな分野にチャレンジするそうですが、アステラ・ラボが飛び込んだのは地味な領域だったのです。



創業者らは接続ソリューションのことを「配管」と形容しています。華やかではないのですが、接続スピードを高めてデータの流れをスムーズにすることは極めて重要で、「配管」の機能向上は不可欠です。


接続性向上でデータセンターの遅延解消、アマゾンが早期採用

アステラ・ラボが提供するインテリジェント接続プラットフォームは、マイクロコントローラーとセンサーを統合させたミックスドシグナル型の接続製品とソフトウエアで構成されています。大規模なクラウドインフラストラクチャーやAIインフラストラクチャーに組み込み、接続パフォーマンスを高めることができるという特徴があります。柔軟性が高いためにカスタマイズが容易で、監視や分析といった機能もサポートします。もちろんソフトウエアも顧客のシステム上で作動するように開発されています。


収入を生み出す製品シリーズは「Aries PCIe/CXL Smart DSP Retimers (Aries)」「Taurus Ethernet Smart Cable Modules (Taurus)」「Leo CXL Memory Connectivity Controllers (Leo)」の3種類です。いずれもPCIeやイーサネット、CXLなど業界標準のデータ伝送規格に準拠しています。


今でこそ顧客層の幅は広く、パブリッククラウド向けにもソリューションを提供していますが、早い段階でアマゾン・ドットコム(AMZN)からの契約を勝ち取ったことで勢いがつきました。ジテンドラ・モハン最高経営責任者(CEO)はどのようにアマゾンを説得したのか覚えていないと発言していますが、とにかくデータセンターの停滞や遅延を解消する必要性が認められたのです。


今ではアマゾンが運営するアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)をはじめ、アルファベット(GOOGL)傘下のグーグル・クラウド・プラットフォーム、そしてマイクロソフト(MSFT)のマイクロソフト・アジュールというパブリッククラウドのトップスリーはすべてアステラ・ラボの顧客です。アステラ・ラボは、巨大なデータセンターを持つ主要なパイパースケーラーはすべて顧客と説明しており、それにはメタ・プラットフォームズ(META)も含まれるようです。


エヌビディアやインテルと提携、生産はTSMCに委託

創業から上場までの資金調達は比較的順調だったようです。事業拡大期が金融緩和の時期に重なったことも幸運だったもようで、2020年の資金調達ラウンドではインテル(INTC)から出資を受けます。インテルとは事業面でもパートナーとして連携するなど緊密な関係を築いているようです。


このほかエヌビディア(NVDA)やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)などデータセンター・インフラのサプライヤーに位置づけられる半導体メーカーと提携しています。


アステラ・ラボはチップメーカーであり、接続ソリューションに使う集積回路(IC)の開発と設計を手掛けています。ただ、生産施設を持たないファブレスメーカーで、生産を外部に委託しています。


シリコンウエハーに回路を形成する前工程をすべてTSMC(台湾積体電路製造、ティッカーシンボル:TSM)に委託しており、組み立てやパッケージング、検査はアドバンスド・セミコンダクター・エンジニアリングなどに発注しています。


AI関連の半導体銘柄として高い注目、上場初日は72%高

アステラ・ラボは、AIインフラストラクチャーに組み込む接続ソリューションを提供する半導体メーカーという立ち位置のため、AI関連の半導体銘柄として市場の注目を集めているようです。


公開価格は仮条件の32-34ドルを上回る36ドルに決まり、初値は公開価格比46.0%高の52.56ドル、終値は72.3%高の62.03ドルでした。時価総額は約100億8600万ドルです。2022年11月の資金調達ラウンドでの企業評価額が31億5000万ドルでしたので、1年半で3.2倍に急増しています。


中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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