【米国IPO銘柄の横顔】テンパスAI(TEM)「人工知能を駆使して医療データ解析」

米国市場で比較的規模の大きい新規株式公開(IPO)が相次いでいます。2024年1月には、ぼうこうがんに対するウイルス療法を開発するCGオンコロジー(CGON)、3月には半導体ベースの接続ソリューションを開発するアステラ・ラボ(ALAB)とSNS運営のレディット(RDDT)、4月には企業向けにデータ管理とデータセキュリティーのソリューションを提供するルーブリック(RBRK)、6月上旬には医療費の決済ソリューションを提供するウェイスター・ホールディング(WAY)がIPOに踏み切りました。


米国では利下げ時期の見通しが不透明になっており、余剰資金がIPOに向かいやすい低金利環境は実現していません。とはいえIPO銘柄の粒がそろってきたのも事実で、時価総額はアステラ・ラボとレディットが100億ドル前後、ルーブリックは50億ドルを大きく超えています。


粒ぞろいのIPO銘柄に新たに加わるのが、人工知能(AI)を駆使して医療データの収集と解析を手掛けるテンパスAIで、6月14日にナスダック市場に上場すると見込まれています。


グルーポン共同創業者、妻のがん発覚を機に起業

テンパスAIはユニコーン(企業評価額が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業)として知られた存在です。調査会社のCBインサイツによると、評価額は81億ドル(2024年3月発表時点)で、ランキングでは72位です。ソフトバンクグループやグーグル(GOOGL)、資産運用会社のティー・ロウ・プライス・グループ(TROW)などが出資しています。


米国株市場の最近のテーマと言えば、人工知能(AI)に尽きる感じで、AI半導体の開発を手掛けるエヌビディア(NVDA)の快進撃は続いています。こうした中、社名にAIが付くテンパスAIはAI銘柄としてIPOでの注目度が一段と高まりそうです。


仮条件は35.00-37.00ドルで、1110万株を募集します。調達額はグロスで最大4億1070万ドル。時価総額は65億ドル前後に上ると見込まれています。


テンパスAIを創業したのは、共同購入型サイトの運営を手掛けるグルーポン(GRPN)の共同創業者であるエリック・レフコスキー氏です。妻が乳がんと診断されたのをきっかけに2015年にテンパスAIを立ち上げました。テクノロジーとAIを駆使して遺伝子レベルで疾病を解析し、適切な治療法を選択するプレシジョンメディシン(精密医療)の実現を目指すのが企業理念です。特にがんの精密治療に重点を置いています。


レフコスキー氏は、AIを駆使して新薬開発を手掛けるパトスAIの共同創業者、ライアン・フクシマ氏をスカウトします。レフコスキー氏が最高経営責任者(CEO)、フクシマ氏が最高執行責任者(COO)の二人三脚体制は今も続いています。


創業からほぼ9年になるテンパスAIは順調に成長しているようです。企業理念であるプレシジョンメディシンを実現する手段として、事業の3本柱に位置づけるのが、ゲノムの構造や機能を解析するゲノミクス、新薬発見や医薬品開発に利用できる情報・分析を提供するデータ&サービス、そしてAIアプリケーションです。


このうちAIアプリケーションは、治療方法の決定を支援するためのツールを構築するソリューションです。AIプラットフォームの「テンパス・ネクスト」は現状で80を超える病院に導入され、モニタリングの対象になる患者数は1カ月当たり4万4000人を超えています。


ゲノミクス部門とデータ部門が中核

ただ、ビジネスとしては小規模で、売上高に対する貢献はごくわずかです。現状ではゲノミクス部門とデータ&サービス部門が売上高を支えています。


ゲノミクス部門は2023年12月期決算の売上高が前年比83.4%増の3億6300万ドルで、売上高に占める割合は68.3%です。新たな技術を用いた次世代シーケンシング(NGS)診断、個人の遺伝子構成を比較するジェノタイピング解析、分子病理学検査などを手掛けており、医療機関や製薬会社、生命科学関連の企業、研究者などに提供しています。


イリノイ州シカゴ、ジョージア州アトランタ、ノースカロライナ州ローリーに研究所を置き、シーケンシング(ゲノム配列の解明)を手掛けています。テンパスAIは、生物学とITを組み合わせるバイオインフォマティックスに加え、遺伝子変異の分類などの自動化を進めており、低価格で高品質の次世代シーケンシング(NGS)診断の提供を実現していると説明しています。


一方、データ&サービス部門は2023年12月期決算の売上高が前年比37.6%増の1億6900万ドルで、売上高に占める割合は31.7%です。この部門のプロダクトはふたつで、「インサイト」では臨床データ、分子データ、画像データのほか、分析・計算ツールを組み込んだデータセットを製薬会社やバイオテクノロジー企業に提供します。



「インサイト」ではデータファイルごとに提供して対価を得る方式と臨床記録のデータベースにアクセスできる権限を顧客企業と契約する方式があります。製薬大手20社のうち19社がこのサービスを利用しており、この分野では業界のスタンダードと言えるかもしれません。


臨床試験のマッチングサービスも提供

データ&サービス部門のもうひとつのプロダクトである「トライアルズ」では、臨床試験に参加する患者を探す製薬会社を支援するサービスです。がん治療の分野で協力する医師の広範なネットワークを活用し、臨床試験に参加する患者、実施場所(病院など)、スポンサー(製薬会社)などをマッチングさせるサービス「TIME」を手掛けています。


臨床試験サービスの分野では「TIME」のほかにCRO(医薬品開発業務受託機関)を通じた事業も展開しています。主体となるのは2022年に買収したCROのテンパス・コンパス(旧社名はハイライン・コンサルティング)です。がん治療薬を中心にあらゆる段階の臨床試験をサポートします。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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