【米国IPO銘柄の横顔】ルーブリック(RBRK)「バックアップデータ保護・復旧のスペシャリスト」

企業向けにデータ管理とデータセキュリティーのソリューションを提供するルーブリック(RBRK)がニューヨーク証券取引所への新規株式公開(IPO)に踏み切り、きょう4月25日に上場します。仮条件は28-31ドルでしたが、公開価格はこれを上回る32ドルに決定しています。調達額は7億5200万ドル、時価総額は56億ドルに上る見込みです。


ソフトウエアを開発する事業者のIPOとしては、2022年以降で最大級です。ルーブリックはもともと、ユニコーン(企業価値が10億ドルを超える未上場のスタートアップ企業)として知名度があり、出口として今回、ニューヨーク証券取引所への上場を選択したというわけです。


創業者はインド工科大出身、グーグルのピチャイCEOと同窓

ルーブリックの創業は2013年。インド東部のビハール州ダルバンガの出身であるビプル・シンハ最高経営責任者(CEO)が共同創業者の中心人物です。ビハール州はブッダが悟りを開いたとされるブッダガヤがある州で、貧困層が多いことでも知られています。


シンハ氏も裕福な家庭の出身ではありませんが、超難関とされるインド工科大学(IIT)のカンプール校に入学し、電気工学の学位を取得しています。IITカンプール校出身の有名人といえば、なんといってもグーグルと親会社アルファベット(GOOGL)のCEOを兼任するスンダル・ピチャイ氏です。シンハ氏とピチャイ氏は渡米後に同じ奨学金制度を利用し、ペンシルバニア大学のビジネススクールに通っていたということでも共通しています。


シンハ氏はソフトウエア開発のオラクル(ORCL)やIBM(IBM)での勤務を経た後にルーブリックを立ち上げました。主力事業は、サイバー攻撃からバックアップデータを守るデータ保護、攻撃の分析、そしてデータの復旧という機能を持つソリューションの提供です。


バックアップデータの保護と復旧が主力事業

当初はデータ管理ソリューションに主眼を置いていたようですが、企業へのサイバー攻撃の激化を受け、サイバーセキュリティーに軸足を移しています。世界中でランサムウエアが猛威を振るう中、ルーブリックはネットワークの内外ともに「信頼できない」と仮定して対策を講じるゼロトラスト(何も信頼しない)の考え方に基づきセキュリティーのアーキテクチャーを構築し、防御力を強化しています。


データ保護では、認証の多様化を通じたなりすましやのっとりの防止、一般的な通信の制限を通じたデータへのアクセス抑制、独自の基本ソフト(OS)を利用したバックアップデータの改ざんの防止などを目指します。



ただ、企業へのサイバー攻撃はすさまじく、防御力の強化だけで防ぎ切るのは困難です。このためルーブリックは侵入を前提に対策を講じ、ランサムウエアの監視と分析、そして迅速で適正な復旧に力を入れています。


ランサムウエアの監視・分析ではまず、監視機能を通じた感染の早期把握を実現し、感染した場合には人工知能(AI)を利用した被害状況の把握という手順を踏みます。暗号化被害に遭ったバックアップデータや復旧の対象になるデータの特定といった作業にはこれまで長い時間がかかっていましたが、ルーブリックのソリューションでは被害状況を可視化した上で作業時間を短くします。また、ランサムウエアが潜むデータや2次感染の恐れがあるデータの特定といった作業も短縮化します。


復旧作業では、自社でサーバーやネットワーク機器を保有して運用するオンプレミス環境とクラウド環境の双方に対応します。データの復旧作業を別の場所で行い、安全性をチェックした後に本番環境にアップするなど、あらかじめ手順を決めておき、復旧を実行する仕組みを採用しています。


パートナーは強力、マイクロソフトとは資本・業務提携

ルーブリックのソリューションは柔軟性と拡張性に優れ、クラウドとの親和性も高いと評価されています。提携先も多く、テクノロジー提携パートナーとして、法人向けソフトウエアのオラクル、企業業務の一元管理プラットフォームを提供するサービスナウ(NOW)、ビジネスソフトウエアのSAP、データ管理ソリューションのクアンタム(QMCO)、データ管理ソフトウエアの開発を手掛けるネットアップ(NTAP)、サイバーセキュリティーのフォーティネット(FTNT)、同業のZスケーラー(ZS)、半導体のインテル(ITC)などそうそうたる顔ぶれが並びます。


さらにパブリッククラウドとの緊密に協力しており、マイクロソフト(MSFT)のマイクロソフトAzure、グーグル・クラウド、IBMクラウド、アマゾン・ドットコム(AMZN)のアマゾン・ウェブ・サービス(AWS)といった大手4社と提携しています。


特にマイクロソフトとは特別な関係にあります。というのもルーブリックは2021年8月にマイクロソフトから出資を受けているのです。出資額は数千万ドル規模と報じられており、当時の企業価値が40億ドル程度と試算されている点を考慮すると、資本提携というよりも業務提携に主眼を置いた取引だったようです。


マイクロソフトとの提携を通じてオフィスソフト「Microsoft 365」のバックアップサービスも手掛けています。主に重要データの保護やランサムウエア対策といった機能を提供します。


このサービスは、ユーザーがインターネットなどのネットワークを経由してソフトウエアを利用するSaaSで提供します。このため導入する企業はITリソースを準備する必要がなく、運用のコストも安く済むというわけです。


顧客数と売上高は着実に増加、黒字転換時期が焦点

多様なパートナーと協力するルーブリックは着実に成長しています。2024年1月末時点の顧客数は6100社を超え、前年同時期の約5000社から大幅に増加しました。うち年間の定額課金額が10万ドルを上回る顧客数は1742社、100万ドルを超える顧客数は99社に上ります。


クラウド環境の広がりに伴い、メンテナンス契約を結んでいた顧客がサブスクリプション(定額課金)契約に移行するケースも増えており、2023年11月-2024年1月期のサブスクリプションARR(年間経常収益、今後12カ月間に期限切れを迎える契約をすべて同じ条件で更新したと仮定した場合に得られる年換算の定額課金収入)は7億8400万ドルと前年同期比で47%増えています。



2024年1月期決算は売上高が前年比4.7%増の6億2800万ドル、純損失が3億5400万ドル(前年は2億7800万ドルの損失)でした。売上高では定額課金収入が39.6%増の5億3800万ドルに伸びましたが、メンテナンスやライセンス関連の収入が落ち込み、全体では伸び悩んでいます。


ただ、定額課金収入は一段と伸びる見込みです。今後はやはり早い段階で黒字に転換できるかどうかが注目されそうです。

中国株情報部

島野 敬之

出版社を経て、アジアの経済・政治情報の配信会社に勤務。約10年にわたりアジア各国に駐在。 中国株二季報の編集のほか、個別銘柄のレポート執筆を担当する

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